SS多段化 〜Diavolo編〜

自分の激しい息遣いと、
それをかき消す風の音。

コーナーを立ち上がり、
親指をレバーに掛け、真下に押し込む。

パパパンっ、とチェーンがスプロケットを3段駆け降り、
バチンッ、とトップギアに巻きついた。

ドン、とペダルが重くなり、
速度計の数値は跳ね上がる。
一気に景色が加速した。

非情に辛い。

だが、その口元はニヤリと緩む。

ー こいつはヤバい ー



時は戻り、1ヶ月前。

ナイトーさんとデイブの
三人でイタリアン居酒屋GODO
テーブルを囲んでいた。
追加した釜焼きのマルゲリータと、
ワインの空瓶が卓上に並ぶ。


『もっつさん、ロード乗るなり、ギア付けるなりするべきですよ。フェアじゃないし、マルチギア知らなくてシングルの良さも語れないでしょう。』
と、ナイトーさん。

年齢的にも自分のベストを出せる時間は後何年も無いと思っていたのと、
コダワリがタダの言い訳になる気もしていて、ロードバイク購入も考えていたが、お金も無いし、

引っ込みつかない感情もあり、
なんとなく踏み切れずにいた。

しかしナイトーさんの言葉と、
その横で、そうだと頷くデイブが、

多段化への背中を押してくれた。

とりあえず、
ロードバイクに乗るならコダワって作りたいので、お金が出来るまで
その時使えるコンポを先に集め、
今のSSCXを多段化する事に。

カスタムバイクをカスタムするなんて、
と思うものの、
心変りに対応してくれる懐の深さが、
KINFOLKにはある。

フロントは1枚、39T、
リアには11-25Tの10枚。
ただ、クランクとの相性か、
ロー側はチェーン落ちしやすく、
25Tはオミットして、
実質9速。

オークション等で海外から
パーツを集める事になり、

時間はかかったが、
とりあえず組み上がった。
フロントシングル仕様のCXバイク、KINFOLKカスタム。

ワイヤーガイドが手に入らず、
とりあえずタイヤチューブでワイヤーを
フレームに括り付け、
バーテープも巻いてない状態で、
テストライド。

車道に出ると、
その加速に驚く。

乗り慣れたポジションなのに、
シフターが着いただけで、別物。
興奮が抑えられない。

テストのつもりが、
気が付けばいつもの練習道に。

まず、坂を登ってみる。

だが、

そんなに簡単なワケがない。

ガガッ、ガチん、
とギアが辛くも下がり、
急加速したと思ったら軽すぎて減速。
ギアの使い方が分からず、
SSの時よりタイムは落ちた。

そりゃそうか、と自嘲して、
ギアードに対する敬意の無さを反省する。
反面、SSでなくなり、
何かスポイルされてしまった感覚も、
その時、確かに覚えた。


一休みして、平地はどうか、
と強風の中へ走り出す。

ヘアピンコーナー前で、
一気にカカカッ、とギアダウン。

上下ともに多段変速の出来る、
カンパニョーロの上位機種にのみ許された優越だ。

いや、下げ過ぎたか?

立ち上がりでノブを軽く押し、
加速して、さらに押し込む。

伸びる。まだ伸びそるゾ、

と語り掛けてくる。

ロードバイクは
効率を求めるマシーンと聞く。

効率?なんの?

それは、

効率良く、肉体と精神を削る機械。

その速度域と引き換えに
魂を絞り取る悪魔だ。

お前ならやれると、
まだ見せてやれると囁く。

側道の旗がバタバタと音を立てる。

向かい風、ギアを下げ、回転を上げ、
その速度を保つ。

風がとまる。

一気にトップギアへ。
今までにない速度域が続く。
悪魔との契約が行使される。


タイムは、
優に自己ベストを更新していた。


が、

その日はもう、
その領域を見せてはくれなかった。
たった一周で、
殆どを搾取されたらしい。

ロードバイクは麻薬だ
と言う意見に賛成だ。

どんなスポーツ選手でも、
ロードバイクの世界選手ほど不健康に
見えるアスリートはいない気がする。

まだアウターギアの付いてないKINFOLKでもコレだ、
世界戦を走るバイクなら、
うっかり命も落としかねない。

なんて危険な乗り物なんだ。

そう感じ、
ぐったりした四肢を引きずって
走り出す、その反面、
湧き上がる恍惚感に溺れるその様子は、

もはや、
中毒者のそれと同じだ、

我ながらそう思えた。




流しそーめんパーティ

食べ物で遊ぶんじゃありません!

と、

教育したりされたりする文化の日本ですが、
唯一、食べ物で遊べるカルチャー、
それが『流しそ〜めん』。

ちょいちょい我が家でやっております、
自転車乗り中心の『流しそ〜めんパーティ』に、先日も沢山の方にお越し頂きまして。

ほんま、
狭いウチでどうやって麺を流すのか、というと、

まるでウォータースライダー。

麺は、ほれ、行きまっせ〜、と声をかけて、スライダーの傍に待機した人に向けて流す。

それだけですが、
なんか楽しい。不思議です。
そして、ザルから直食いするより
明らかに美味い。不思議。

プチトマトとかも流します。
まぁ当然、
すげー勢いで飛び出してしまうんですが、
それもまた楽しい。

この楽しさは、
楽しさ×人数、的なトコもあって、
いい気になって来て欲しい人に声かけまくってたら、
部屋に対して凄い人数になってしまい、
ぎゅうぎゅう感あって申し訳ない気もしつつ、
それはそれで楽しかったかと思うワケです。

ピスト乗り出した頃からズーッと長い付き合いになる友人達や、
ウチの下がオーシャンサイクルだった頃の友人に加え、
CXを始めて知り合った、
662の皆、カリスマ古着屋の店長とか
男前とか、

チャンヌとか、

名簿みたいに全員書いてもアレなんで
書きませんがw、

写真撮る間もナイほど盛り上がりました。
そしてクライマックス。
オッさん達のアイドル登場で、
ほんまに皆、目を輝かせて話を聞いてる様が、流石アイドル…。

その後は、
アキラさんの持って来てくれた超美味いビールで完全に酔っ払って全然覚えてませんが。


知らん人同士、自分繋がりで仲良くなってくれたら、とか全然思ってません。

でも、
またいつか、違う形で出会った時に、
面白い話に発展するキッカケになるかも知れないとは思います。

少なくとも、
自分の人生、人間関係はピストやCXに乗って大きく変わり、友人関係は当然、嫁も、仕事にまで発展してきたので、

ほんま自転車文化の懐の深さよ…、
とか思ってるワケです。

とにかく、

ヤギさんのボトルはキープしてありますので、

またいらして下さいませ。

ホンマに狭いウチですけどw


この夏、もう一回やりたいなぁ…




GARMIN 510

男は30過ぎてから。

自転車も30過ぎてから、

て話をよく聞きます。

青天井で自分の可能性に夢を見た
20代を過ぎて、

いよいよ自分が何者か、
認めなければいけない年齢が、
ざっくり三十路、て事なんでしょう。

どっこい、そんな簡単に
俺こんなもんやな、
と相槌打てる程大人になれないのが
現実。

そこでサイクルコンピューター。

通称サイコンなんて言われてます。
携帯電話より一回りほど小さくて、
ハンドル回りに搭載するのが一般的。

速度、心拍、ケイデンスや出力等、
あらゆる走行状態をリアルタイムで
ライダーに伝える。
走ったルート、勾配も然り。
それらを記録し、

一瞬で

俺こんなもんか、

と思い知らせてくれる程
優秀なコンピューター。
自分はGARMIN 510を選択。
こいつは時間もGPSで電波受信し、
夜になると液晶反転する利口っぷりだ。

さて、
下りで100km(憶測)、
登りじゃ
後半ほど速くなってるはず(幻想)の、
俺の秘めたる潜在能力を数値化して、
皆をあっと言わせてやるぜ!

と、
ふうふうペダルを踏む事1時間。
結構本気でイッたぜ。どうだい?と

ガーミンを見ると…

『ちょっw、おまww、遅っwww、
ホンマ、自分こんなもんやからなwwwwww』

と、
下りで40kmも出るかどうか、
登りは後半バテまくってる、
それを正確な数値でもって、
ガーミンはプライドと幻想を叩き壊す。

PCにアップロードすればより詳しく、

『そもそもアンタ、ここブレーキかけ過ぎ、この辺とかも全然踏めてないしやな、大体、追い込み足らんのちゃうかー?』

とまぁ、より解りやすくガッカリさせてくれるガーミン。

認めざるを得ない結果に顔面蒼白。
?モチベーションも下がるか?


いや、これが真逆で、

今の現実を認め、
その上で達成可能な未来の自分を描く事が出来るのは、まさに大人の特権。

具体的にまだ強くなれる要素を、
客観的に観測出来るのは楽しい。


いつのまにか
『まさか』に、
夢を抱く時は過ぎ、

もう絶対、
Jリーガーにも大リーガーにも、
銀行の頭取にもなれるはずがない、
アラフォーな親父になっていた。

このまま老いて、
それで満足なのか。

そんな自分にガーミンは、

『まずは昨日の自分に勝つんや!』

スワイプして、現れたそれは、

ロシアのグロナス衛星から位置補正を受ける最新型GPS搭載機とは思えない雑で懐かしい雰囲気のグラフィック、

バーチャル・トレーナー。

絵的にはもう、
ドライビングターボしか出てこないんですが。

『ごちゃごちゃ言わんと早よう踏まんと先行ってまうで!』

この影が、
まさに昨日の自分。

奴は昨日の自分の記録同等の平均速度で走るもんだから、
信号待ちでもグイグイ先に行くし、
結構悔しく苦しい。

たっぷりある直線でガンガン踏んで、
なんとか抜き去る。

『おっ、昨日のアンタを置き去りやなw、実際よーやった思うで』

ガーミンが褒めてくれた気もするが、
どうせ後でログみたら、アレコレと
ガッカリさせてくれる事だろう。


自転車は30過ぎてから、か。

自分に過剰に期待せず、
弱さを受け入れ、
認めた上で、
抗う。


真夏の様な青春は過ぎた。

やがて日が暮れ、
ガーミンの液晶は黒く反転する。



美味くないペンネ


まるで、
食品サンプルの様なパスタセットを
五分ほど食欲の無い眼差しで
ねっとり眺める。

仕方ないとゆう風にフォークで刺した
ペンネは、
アルデンテと言うには茹で足りない角の硬さを残し、
奥歯で噛むと二チャリと残る。

毎度解りきってるのに、
モーニングプレートより
自分はなぜかコレを頼んでしまう。


その前日の仕事は最悪だった。

22時近くまで残業。
不満を感じる余裕があれば、
とりあえず疲れを抜きたい。

そう思い缶ビールを買いに入ったコンビニで、
雑誌をパラパラめくってると背後から声をかけられる。

『見た事あるチャリやと思った(笑)、何してんの?飲みに行くで』

振り返るとテースケさん。
おおっ、イイですね!と、連れられて、

近くのバーで、
とてつもなく美味いクラフトビールをご馳走になり、疲れも吹っ飛ぶ。
色んな話をしたけど結局自転車の話、
じゃあ、明日一緒に走りましょう、
と、日付けが変わる直前まで飲み、翌朝。


待ち合わせ場所に来たテースケさんが、
『俺が1分、モッツさん30秒で先頭交代、ラスト半周はレース形式で行こうか。』

走り出して、最初の先頭交代、
モッツの後ろじゃ休めすぎちゃうなあ、
と思われちゃ申し訳ないので、
必死で加速、そこで脚を使い過ぎ、
その後は着いて行くのもいっぱいいっぱい、最後はレース形式どころか、
あっとゆーまに差が開いて終わり。

2回目は無理な加速を止めて、
最後のレースに脚を溜める作戦。
しかし、
やはり着いて行くのもいっぱいいっぱい。
とはいえ、なんとか最後まで脚を残せた。いくらテースケさんといえ、
この強風の中1分引いたトコに
抜きに来られたらキツいはず。

レーススタート、せーの、
でペダルに圧を掛ける。

並びかける!

あれ?前に出れん、と思うと同時に
辛くなり、
そのままピューっと離れていく。

レスト中に幾つかアドバイスを受け、
3回目に入る。

やはり、上手く付けない。
コーナーで離されるのか。

ナイトーさんもそうやけど、
皆コーナーリングが巧い。

こんだけ走り馴れたコースでも、
ラインは無限にあると思い知る。

千切れそうになりながらなんとか喰らいつき、
最後の勝負!

どっせい、
と心中に掛け声をしてダンシング。
心拍は190を超える。が、

あれ?

加速出来てない?
メーターに目をやると、
速度は上がってる。

テースケさんがタイミングを合わせて加速した、って事か、と気がつくのは、
ぶっちぎられた後のレストでだった。

『精神的に効くやろ?笑』

と仰る。
魔法にでもかかったみたいに削り取られた感じか。

『後はモッツさんは後ろ着く練習した方がええなあ、もっと楽出来るで。』

いやいや、着いてくのも必死で、
普通に千切れてたんスよ…,。

と、返すと、
テースケさんは笑っていた。

そんな話をしながらカフェテリアへ。

自分は、
いつもと同じパスタセット。

今月は茄子とトマトらしい。

へなへなの茄子と、
生乾きのペンネを噛んで、
なんでコレ食ってしまうんだろう、
と思いながらも、談笑。

最後のコーヒーを飲み干して、
やはり美味い、と思う。

達成感、充実感、
色んな言葉があるが、
この味に、時に、代えられないと思う。

『もうすっかり自分に向けてドS(笑)』と笑うテースケさん、
自分も同感です、と頷いて、

やはり、自転車は最高だと思う。

練習、なんてカッコいい言い方で、
多分、
自分は練習という遊びを繰り返してるだけなのかも知れない。

遊びだとしても、
自分の限界まで追い込む事の出来る仲間の中で、

自分も同じ土俵に、

やはり、
ロードバイクに乗りたい。

この日、
トニックの力強いチェーンステーが
アスファルトを蹴り前へ出る姿に、

そう思わざるを得なかった。





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