AWAZI PerfectRide 〜蒼い閃光編〜
平坦で快適な南海岸も、
この時間になるとまとわりつくような向かい風の
洗礼を受ける羽目になる。
去年、イクジ達と初めて淡路を廻った時も、
夕暮れにこの道で風に苦しめられたのではなかったか、
それも逆周りで。
要は、西から風が吹いてるのだろう。
実際、淡路島は地理的に西風を受けやすいらしく、
風車も全て西風を受けるべく設置されている。
なんにせよあの時は100kmぐらいでひいひい言ってたが、
走りきった後は爽快だった。
ファンライドってのはそんなもんで、
こんなに身体に負担がかかる程走るのは
身の程知らずの無謀な行為でしかない。
そんな事を考えながら、
きしみ出した膝を押し込む。
少し登りがあれば、
簡単にトレインは崩れる。
コンビニが見える度全員揃うまで待ち、
出発の繰り返し。
しかし、休憩が多過ぎるのも疲れる。
やがて、
界面が群青から深淵の闇へと表情を変えて行く。
また坂だ。
シッティングで登りだしたが
速度が落ちる。
見かねて前田さんとソウ君が前に出て引こうと
してくれるので、
付いて行こうとダンシングで加速しようとしたが、
さらにガクンと速度が落ちて、二人は離れていく。
もう、ダンシングに使う筋肉も売り切れてるらしい。
サドルに座り、
ペダルを踏めば、ピストはペダルが脚を押し上げてくる。
相棒が、がんばれがんばれ、と、
俺の足の裏を押し上げてくれるようだった。
やがて、
空には星が浮かび、
海面、とゆうか、
ガードレールの向こうは一切の闇。
街灯もなく、
ノグライトの点滅を常灯に変えても、
その灯は頼りない。
ついに、闇の中を走る。
トレインは切れたブナマを除き、
4台編成。
登りの引きで限界を迎えた前田さんを救ったのは、
まさかのウエキュンだった。
さっと先頭に出て、
トレインを引く。
少し離れたソウ君と俺も続く。
まさかでも無いか、
彼はこの時の為に序盤をセーブしてたんだろう。
いやらしい奴だが、助かった。
暫く巡航してると、
突然先頭の速度がガタ落ちした。
危ない、と思うと、ウエキュンは対向車線側に
ふらりと出て、そのままコンビニへ。
『・・・意識やばかったっす、ハンガーノックってやつですかねぇ・・・』
と、コンビニで補給を摂りながらウエキュン。
俺もオニギリとシュークリームと言うナゾの組み合わせの
補給食を買う。
後からコンビニに入ってきたソウ君は、
目の下にクマが出来ていて、
俺の顔みて愛想笑ったつもりだろうが、
彼の体躯も相まって、
ヒットマンが獲物を捉えてほくそ笑んでる様にしか
見えなかった。
こわい(笑)。
満身創痍でブナマを待つ。
ずいぶん待って、
アキラさんがフェリー乗り場に着いた連絡をもらった頃、
闇の中に光る点滅光。
ブナマだ。
彼は、
軽ギアで乗りたてのピストで、坂道は全部押しながらも、
それでも止まらず走ってきたのだろう。
コンビニについた彼は遅れを取った事を気にしてか、
少し休んでなんか食えって俺の言葉に、
「もういけますよ、行きましょう」と絶え絶えに返す。
まぁええからコレ食っとけ、と、
俺は手に持っていたシュークリームを彼に投げつけ、
それを見てソウ君が、ヨッシャンを思い出しますね、
と笑う。
『よし、ほんな行きましょかー!後もうちょっとで完走でっせー!』
とワザと声を張り上げおどけてみせた。
普通みんな、その心意気を買う場面なのだが、
ウエキュンだけは
「じゃぁモッツさん引いて下さいね…」
…なんて嫌なヤツなんだ、ウエキュン・
で、
ここからは最終ステージ。
ラスト12km程だ。
相変わらず街灯も無く、
後方から来る車のライトを手がかりに
道を確認するが、
正面から来る車のハイビームに完全に視界を奪われる。
なんどか側溝に落ちそうになり冷や汗をかき、
意識を取り戻す。
この闇の先をどれほど踏んだらゴールなんだろう、
闇の深さに、もう21時を回ってる様な錯覚を起こすが、
実はまだ19時を過ぎたくらいだ。
進まない事に苛立ち、
膝の痛みに耐え、
尻や股の痛みには気が付かないフリで、
全身の至る箇所の筋肉がこれ以上痙攣を起こさない様に
注意して。
もう、早くウチに帰りたい。
すぐにシャワーを浴びたい。
・・・いったい俺は何が楽しいんだろう。
考えるな、
今出来ることはただペダルを踏むだけ。
結局は、
今できることを今できない奴は、
ドコにもたどり着けないって事だ。
だから、それだけをヤル。
永遠の様な10kmをただ踏めばいい。
突如、
左の空に蒼い閃光。
淡路海峡大橋が、闇の中に浮かび上がる。
いつもならテンション上がって最後の力が出る所だが
余力はまるでない。
ペースを崩さず、近づいた。
道の駅淡路、19:20着。
売店は店を閉めていて、
何か食物を求めてた俺たちはドッと疲れ、
前田さんですら、
「商売ッけないなぁ!これじゃアカンで!」と
思わず毒づく。
しばし放心。
ソウ君がブナマが通り過ぎてしまわない様、
道沿いまで迎えに行き、
しばらくしてブナマを連れて戻ってきた。
ブナマは車輪止めに気づかず、
ぶつけてコケそうになる。
フラフラの体で、チャリを降りて真っ直ぐ
前田さんの所へ行き、
『今日は迷惑かけてスイマセンでした』
と頭を下げた。
いやいや、なにゆーてんねん!、
思わず、皆叫ぶ。
お前が一番頑張ったやろーに。
皆体力的には限界だ。
故か、
本当の意味で讃え合ってる様な気もした。
誰だって、他人の全てを認める事なんか出来ないが、
たった一つでも本気で賞賛し、感謝出来るなら、
その瞬間はわかり合ってると言っていいんじゃないだろうか。
「あれ?もっさん、アキラさんは?」
携帯見ると
『サーセン、お先しますm(_ _)m』
・・・もうフェリーの上っすね(笑)。
よし、
帰ろう。
残り2km、ゆっくり5人で喋りながら、笑いながら走る。
明石に着き、
ソウ君とウエキュンはサクッと帰り、
俺と前田さん、ブナマの3人はスタバでコーヒーを啜る。
後日、また打ち上げしましょう、
ではその時まで。
梅田駅から堀江へ一気に踏み込む。
晩飯もコンビニか、
と自分に苦笑しながら弁当とビール、
それも一番美味いビールを買う。
念願のシャワーの後のビール。
美味い、でも、眠い。
今は完走したって事実より、
無事に帰った事を思い、
眠気を押して残りのビールを流し込んだ。
続く
- 2012.10.31 Wednesday
- RIDE
- 01:16
- comments(0)
- trackbacks(0)
- -
- by もっつ