トップグループは遥か先を走っていて、
もう表彰台なんて上がれるハズもナイのに、
一台でも抜きたいし、
抜かれたくない。
きっと彼もそう思いながら
俺と競り合っていたに違いないのだが、
うっかり肩を接触してしまった。
すぐに体勢を立て直せたので大事には至らなかったが、
勝負とはいえ、ここは素直に
「すいません」と謝る。
すると彼も、
「あっ、大丈夫です」と、
行き絶え絶えに応えてくれた。
こんなスポーツマンシップに安心し、
また熱くなりながら、
並木のセクションを抜け、
コース一番の峡路ヘアピンカーブに差し掛かる。
ちょうど一本木を回るようなヘアピンで、
道幅も狭く、スピードを殺してゆっくり抜ける感じだが、
先に見ていたC1(一番速い組のレース)の選手が
やったように、その一本木に腕をまわし、
木の幹を中心に遠心力でぐるんと回る抜け方を試すことにした。
MTBは進入速度をグッと落とし、やや大回りで一本木を回ろうとしたので、
すかさず俺は手を伸ばし、ペタリと幹に触れたが、
速度が低すぎて遠心力が発生せず、
端から見ると、ただ木に寄りかかって曲がってるだけに見えただろう。
なんたる様(笑)。
まぁ、それでもインからMTBを抜き去る。
・・・今、何週目だっただろう。
そんな事を考えながら、砂場のS字コーナーが迫る。
ここで痛恨のミス。
自転車を担いだものの、砂場に脚をとられてコケてしまった。
後方の数台に抜かれる。
焦って飛び乗り、
ペダルに足をハメようとするが、クリート(ビンディング)に
上手く入らない。
「ああっ、」
と、情けナイ声を上げてしまう。
それを見守るギャラリーも一瞬静まるが、
静寂を破る
テイスケさん「大丈夫、大丈夫!いける!」の声。
次の瞬間、
皆一斉に『大丈夫大丈夫!』と口々に応援してくれたのが
なんだか妙に可笑しくて、
苦しくて仕方ないのに少し笑ってしまった。
ああ、今4週目に入ったとこか、まだ行けるな、
と気を取り戻す。
本当に沢山応援に駆けつけてくれていて、
この日は何処を走ってても、
俺を声援してくれる声が聞こえた。
長いストレートの折り返しと障害物が続く。
疲れのせいか、恐怖心は忘れていた。
コーナーでのタイヤの食いつきが異常に良い。
まだ寝かせる、もっと行けそうだ。
息はあがり、太ももが酸欠してきてるのが分かる。
しかし楽しい。
そんな折、
聞こえてくる声援。
その声に応える様にダッシュする。
一見無駄な体力消費、
でもそれが気力を満たす。
直線の砂場に差し掛かる。
実は、今日一で事故率の高いセクション。
前乗りで侵入すると砂が前輪を絡めとり、
自転車は前方転回。
もしくは人だけ投げ出され、
顔着リタイヤ、自転車の破損でリタイヤと、
まさに魔の砂場だ。
俺は、ここは腰を引いて、ペダルを止めて
惰性で突き抜けるのが吉、と決め込んで走っていたが、
「そこは踏め!踏め!」
いつもなら「スタックするんじゃ・・?」とか、
ビビッてしまうトコだが、
何故か踏めた。ガンガンに踏むと、
沈むどころかめちゃくちゃスピードが乗った。
それにビビル。
うわっ、速っ!
と、砂場を一瞬で後にし、
ハイスピードで並木の根を削るように抜けた。
やはり、速い人のアドバイスは参考になる。
ありがたい。
いよいよ最終回に入る。
先のS字砂場で、右足のふくらはぎに痙攣を感じ、
ストレートで攣(つ)りそうになる。
もう息も絶え絶えで、
ただ前を走る自転車に付いて行く感じだ。
しんどい、
そんな時、聞きなれた妻の声が耳を打つ。
『がんばれーっ!あと少しーっ!・・・かもしれない』
「かもしれない」ってなんやねん、合ってるわ(笑)
と、心中に突っ込みを入れつつ、走る。
やがて前方車両も松林手前で失速、
追い抜いて、しばし独りで林の中を走る。
キツイとか苦しいとか考える余裕は無かった。
握るハンドルに、
行けるか、まだ行けるな、
と、自問自答し、踏む。
ここからは無駄な走りは避けたい。
気持ちよくホップ出来る溝も腰で舐める様に抜け、
シケインもただ跨ぐ。
そして、最後の砂場で、また足をとられ、
後続車が攻め寄る。
最終コーナー、あと少し、ゴールへ続く直線。
背後で、シフトする音が聞こえた気がした。
赤いジャージが左脇を抜ける。
あ、抜かされる。
遠くに声援が聞こえるが、もうシンドイ。
いや、応えるんじゃなかったのか。
誰に?
もう誰の為でもないんだ。
ひとりごちて、
猛然と脚を廻しだす。
既に、両足のふくらはぎが痙攣を始めていた。
ゴールまでもってくれ、と願いながら、
バンクよろしく思いっきり前乗りで加速する。
後、
後少し!
なんとか並んだ、もう少し!
ゴールラインを割り、
ふらふらとへたり込む。
・・・ギリギリの所で届かなかった。
競った彼は、大の字で寝転がっていた。
みんなが駆け寄ってくれて、
って笑いながら、礼を告げる。
ソウ君やミッチーさんも、
「観てて俺も走りたくなった、来年一緒に出たいなぁ」
って言ってくれて、
やっぱ、そういうのが嬉しい。
31位(54人中)。
パッとしない結果だ。
しかし、
結果を求めるならシングルで出る必要はない。
機材がどうとか、順位がどうってのは、
俺にはきっと次のレベルで、
とにかく、
自分を裏切らない、裏切らなかった、
少なくとも、
この短いレースの間だけは。
そう思えば、
自然と自信と充足感が湧き上がるものなんだろう。
家に帰り、シャワーを浴びる。
スリキズの数を数える度、
感謝と幸福感を思い出す。
シクロクロスの洗礼を、
受けてみて欲しいと思う。