チェアリングとは。
外へ飛びだし、
お気に入りの場所を探して突然椅子を展開。
読書や食事、飲酒と…
あたかもパーソナルスペースの様に振舞う、
最も簡単なアクティビティとして近年人気。
そう書けば、場合によっては
迷惑行為にも写りそうだけれど、
目的上、人気のない場所を選ぶ為
そうなる事も少ないし、
場所を探すという点に於いて、
自転車との親和性は著しく高い。
より速く、
より荒れた道を、
より人知れぬ場所まで。
車種は、
グラベルロードか、
CXも、
もちろん、
ロードでもMTBでも何でも良い気はする。
僕は、
マルチギア仕様のKINFOLK-CXに跨り、
ペダルを踏みながら、その足回りを鑑みる。
36cのスリックタイヤは、荒れた下り路面でナーバスになる事もなく、
平坦では意外にも転がる。
これは単純に楽しい。
僕は例のハンドルバッグの上にコンビニで買ったカップラーメンを挟み、生駒山を登り始めた。
そう、今の僕には、
山の上だろうとお湯を沸かせる能力があるのだ。
やがて山中のグラベルへ入り、山道中の朽ちた駐車場を見つけて間借りして、
トップチューブに着けたフェアウェザーのフレームバッグに忍ばせた、
ヘリノックスのチェアゼロを出す。
チェアゼロは、500g程の超軽量でありながら、
十二分な座り心地を提供してくれる。
ネットの情報では、
自転車に搭載すると微々たる振動で、チェアのパイプフレームが傷だらけになるとか聞いたけれど、全くそんな心配は無かった。
フェアウェザーのフレームバッグにピッタリ収納出来るのも良い。
なにより、この手のアウトドアチェアというのは、腰掛けて見れば、自然と空へ視線が向く。
さて、
ゴタクはもういいか。
ストーブの着火スイッチを押すと、
ボウッ、と小さく音を立て青い炎が沸々と
湯を沸かす。
最初はまず、カップ麺。
お湯を注ぎ待つ間に、
コーヒーミルをゴリゴリ回す。
ふいに、スィッとハンドルが回れば挽き終わり。
粉をフィルターに移して一投目の湯を注ぐ。
粉が美しく膨らみ、それが落ち着いたら、
二投目、
三投目、そして、
四投目のお湯が落ち切れば飲み頃だ。
その前に、
ややノビ気味のカップヌードルを啜った。
少し冷えた野外の空気に、
カレー味はキマる。
ズバズバと音を立て、
それは汁ごと、胃に流し込まれた。
辛い物を食った後の口は殆どの場合、
カフェインを求めるのではないか。
マグカップの湯面にうっすらと映し出された
豆の油が、期待感を掻き立てる。
啜ってから、ゴクリ、と喉を通った後、
僕は山中の空気全てを吸い込んで、
深く大きなため息をついてポツリと
もらす。
『はーっ、美味い…』
特段、
何かをなし得る必要も無いし、
特別な日である必要も無い。
まして、
誰かの悲しみや怒りを代弁する事も、
社会の歪みに憤る事も、無い。
僕がたった独りで、
僕という人間を謳歌する時間。
何をもって自分が満足しているかを測る事に、他人は必要ないのだ。
五感に耳を澄ませ、
震える感動に難癖付けず、
たかがカップ麺を美味いと絶賛し、
100グラム2千円の豆も、カレーには合わないと否定出来るなら、
こんなに幸せな事はないだろう。
そして僕は、
二口目のコーヒーを啜って
空を仰いで吐き出した白い息に、
冬の足跡を感じるのだ。
言ってみればフロントバッグの宿命、
ハンドルに引っ掛けてマウントする以上避けられないカルマだ。
よって、
バッグの形状をあらかじめマチの少ない構造にするか、もしくは、
マウント部分を工夫するなど、様々な方法でそれぞれに対処しようとしている。
しかしそもそも、
フロントキャリアがあればなんの問題も無いのに、たかだか小さなバッグ一つの為にロードバイクに重量物を付けようという気にならないという感情もまた、回避不能の現実だ。
そして、
このネイバーフッドのバッグ。
バッグ自体はしっかりした作りで、先端部から繋がれた紐をステムに引っ掛ける事でオジギを防ぐというアイディア。
しかし肝心のマウント部分はペロンと長めのマジックテープで貼るだけの仕様。
何という事だろう。
結局、せっかくのオジギを防ぐアイディアの紐もバッグの重さで切れてしまった。
調べると、
コラムスペーサーに挟んで使う、
スタイリッシュなフロントバッグサポーターなる物が三千円ほどで売っている。
しかし、これを使ってホントにこのバッグが落ち着くのか、いや、振動で結局使い物にならないとか、、
考える間もなく、
サポーターを自作してる人が多い事を知る。
しかも、百均で売ってるS型フックを曲げただけのシロモノ。
見よう見まねで作るけれど、
あまり綺麗には出来なかった。
まあいいか、外からは殆ど見えないし、
使えそうならスタイリッシュな三千円のアレを買うか…。
マウント部のベルトにもプラスチックのアジャスター(赤いマーカーの部分)を入れて、
ハンドルにしっかり引き寄せられる様にすればピッタリ留まるし、接着するテープの面積も活かせる。
もうぶら下がってるワケではないので、マウントについては、しっかり留まっていれば良いのだ。
さて、早速
試してみると、良い。
メチャクチャ良い。
こんな物で、こんなによくなるのか、
という程。
バッグはオジギしないどころか、例の紐にも殆どテンションが掛からず、なんならサスペンション的な効果もありそうで、
何より走っていて鞄が気にならないのはとても重要だった。
もうこれでいい。
いや、これがいい。
浮いたお金で、
椅子と椅子を入れるフレームバッグを買う事にした。
当然、三千円で買えるモノではないが、
『浮いたお金で買う』という言い訳は、
いつだって常に僕らの背中を押してくれるのだ。
会社から周年記念で貰ったコンパクトストーブ。
『湯沸かしオジサン』と揶揄されるコーヒーライドに以前から興味はあったけれど、
初期投資もそれなりやな、と悩んでるトコにストーブを貰ってしまっては、もう止まる理由はなくなってしまった。
そんな矢先、
ネイバーフッドとシムワークスのコラボグラベルロードが抽選販売されるとのストーリーを酔った目で確認。
併せて発売されるフロントバッグやキャンプ用品を見て、反射的にフロントバッグを注文してしまった。
自転車がシムワークスとのコラボなので、バッグもきっとシムワークス監修だろう、と思い込んでたのは勘違いの様で、
届いたバッグのマウント部はDカンすら付かないマジックテープだけの、
どう考えてもただ吊り下げる仕様。
バッグとしての質感や都会的なデザインは確かに良いのだけれど…。
まぁ、
とりあえず、
外でコーヒー沸かす為に必要な物を揃える。
?ストーブ(ミニコンロ)
?カセットボンベ
?クッカー(鍋的な)
?カップ
豆を挽くなら、
?ミル
?ドリッパー
あとは、
豆とペーパーフィルターと
お水。
クッカーは極力小さい物でいいし、
500ccも入れば十分。
モンベルのクッカーは軽く、シリコン製のドリッパーを巻きつけたボンベを中に収納。
クッカーと一緒に買ってしまったチタン製のカップは、これ以上ないサイズ感と保温機能が素晴らしい。中にカバーで包んだストーブを突っ込んで収納。
ミルもハリオ製で、今回はセラミック製の臼でなく、ステンレス製の物を選択。
切れ味が魅力で、サクサク削れる。
アイテム数は意外と少ないな、
と思いながら
全て鞄に詰めて五月山へ向かう最中、
とにかく鞄が前下がりにオジギをする。
ステムに引っ掛けるロープがあって、オジギしない様になっているのだけれど、テンションかかり過ぎて接着部が切れてしまった。
結び直して、
再びペダルを踏む。
登りや、急勾配の下りは、
多少フロントの重さが気になった。
アスファルトの展望台?について、
とにかく湯を沸かし始める。
こういったアウトドアグッズはもう洗練され過ぎていて、
何も考える事なくコーヒーを淹れる事が出来た。
途中、
エアジョーダン1MIDを履いた若い海外旅行者の男性3人が、日本のスナック菓子を片手に絶景に大ハッスルしてはしゃいでいたけれど、
その横で黙ってコーヒーを啜るスタイル。
…彼らが去った後で、もう一杯。
なんか、いい。
コレはいいぞ…
外で飲むコーヒー、しかも、
少し登ると、なおのこと良い気がする。
自分で淹れるという時点で完全なる孤独モード。それが良いのに、誰かに伝えたくなる良さ。
きっと、アウトドア用の椅子とかあって、場所を選ばずコーヒー淹れたら、さらに良いのでは…
しかしその前に、
このフロントバッグのオジギ対策だ。
調べればバッグサポーターは3千円くらいで売ってるけれど、
椅子もそれを入れる鞄も欲しいとなると、
お金は掛けたくない。
まぁ、一旦、
自作してみるか…
(続く)
]]>ロカビリー系のライブバー。
ステージの最前列で盛り上がるオジサン。
周りの客に煽られて調子付いてしまい、
ついにはステージに上がって
観客席を向いてペロリと舌を出した所を、
ベーシストの男性に突き落とされて睨まれて、コソコソ席へ戻っていったそのオジサンは、
あれから20年以上経った今でも、
『最もカッコ悪い大人』として、
僕の記憶の中で燦然と輝いている。
9月を迎えた最初のライドは、
箕面から妙見山を抜けて『あたご屋』で米粉のウドンを食べ、
山を下って、オープンしたばかりの『バッグヤード池田』でコーヒーを飲み、
河川敷をまっすぐ帰る。
100km、1100up。
そんなコースを引いてみた。
ロードバイクという趣味の年齢のボリュームゾーンは30代を超えてる気がするし、
自分の可能性に期待するより、
自分と向き合う事に重きを置くしかない、
そんな年代の人に向いてる気がする。
そんな事を考えていると、
先の『最もカッコ悪いオジサン』を、
ふと思い出したりするのだ。
場違いに舞い上がりペロンチョして突き落とされる…。
そうならない為には、
常に周りを見て、謙虚に、紳士的に接する事を心掛けなければ。
ハアハアと息を切らしながら修行僧の様に
坂を登っていると、
苦しさの裏で考え事を始めてしまうのは、
悪い癖かも知れない。
1000upした頃にバッグヤード池田に到着。
冷たいコーヒーが沁みるし、
自転車屋でありながらバリスタのいる素晴らしいショップで、フードも美味しい。
むしろ、自転車も扱っているカフェ、と言って良いかも知れない美味しさで、
サイクルジャージでも歓迎されている雰囲気は、場違感を完全払拭してくれて入りやすいし、ゆっくり出来る。
立地も猪名川の河川敷側で、五月山登り口という、自転車乗りにはこれ以上ない環境で、ついつい通ってしまう理由になる。
身体が冷える前に、
また走り出す。
猪名川の河川敷は、池田から大阪市内まで信号が無いというだけでもテンションが上がる。
この追い風なら、最後の淀川大橋南行き、PR更新出来るか。
そんな目論みを持って国道に入ると、
信号待ちで前に、ガチ系のローディーが2人。後ろの子はかなり若そうで、高校生くらいだろうか。前を引く彼は、大学生か、社会人か、二人のバイクと引締まる脚が、競技系である事を伝えていた。
とりあえず着いていくか、と。
信号待ちの度に、その加速に意識されてる事を感じながら、
いよいよ淀川大橋。
赤信号からの出発。
後続の車は無し。
俄然加速する2人。
いや、
僕は別に競う気はないが、
この追い風を味方に自己記録更新を狙いたいだけだ、という言い訳のもと、
手前の若人のスリップに入らず、
抜くか抜くまいか、と考えてると、
気取られてか『前へどうぞ』のハンドサイン。
その先には、ガチで速そうな彼の先輩?が。
…ココで引くのも、でもな、、
と悩む間もなく、行くしかないと、
煽られて、調子付いて踏込む。
グラフィカルなガーミンの心拍計は真っ赤に染まり、
BPMは190を記録した。
あいみょん的には恋してるレベルだが、
オジサン的には死に近づくレベルだろう。
追い風とドラフティング、
先頭の彼の油断もあって、追い抜いてしまい、
その先の車線減少でハンドサインを出して、
橋を渡りきった信号待ちで停車した。
ほどなく、後ろから来た彼は開口いっぱつ、
『いやー、ヤラレちゃいましたね(笑)』と。気持ちの良い青年の言葉に、
いや、君の油断が無ければ確実に追いつけなかったよ、と心中に思いつつ、
あ、つい頑張っちゃって…、とテヘペロして見せた。
その後、少し彼らと話しをして、
じゃ、気をつけて!とお互い手を振って僕らは別れ気付く。
ん?
煽られて?
調子付いて?
テヘペロ…
僕は今、あの『最もカッコ悪い大人』になった瞬間を
迎えたんではないだろうか。
どうか、あの二人が、
『あんな大人にはなりたくないね』
と思ってない事を祈るが…
無理か…、流石に…。
格好良く、美しく歳を重ねたいと思いながら、
こうしてワケの分からぬ自己顕示欲に悩まされ、
僕はまたサドルに跨る。
思い出す度に胸がチリつく過去、後悔。
そんなモノが多いほど、
きっと僕が、
その時の僕を超えている証拠だと信じたい。
だが、
彼らの胸の中で、今日の僕が、
『最もカッコ悪い大人』
として、燦然と輝いてしまう事だけは、
きっと避ける事は出来ないのだろう。
完成車の殆どが、ディスクブレーキになった昨今。
リムブレーキの未来はどうか。
性能は及ばずとも、
軽さについては、圧倒的に有利に思える。
いつの時代も、リスキーでクレイジーな奴はヒーローだった。
『見ろよこのロード、リムブレーキとか本格的だな!』と、
いつか、少年達に言われる時代が来るかもしれないと考えるのは、些か絵空事にも思えるかも知れないが…。
週末は、
記録的な雨が降った。
待ち望んでいたRapha prestige熊野は、
台風と梅雨前線のタッグに持ち去られ、
実際、当日の天気は回復しても、各地で崖崩れや大阪南部から和歌山への林道、河川敷は、影崩れと氾濫の重ダメージを受けていた。
Rapha prestigeの運営陣には、早々の賢明な判断に頭が下がる。
とはいえ日曜、
晴れ間は訪れた。
空白の週末。
台風一過。
心地よい風と突き抜ける青空。
サイクリストとして、
この瞬間を逃してはならないと
集まった、二つのチーム。
まぁ、結局ウチワのメンツには違いないが…
それでも新しい出逢いもあった。
初めまして、と挨拶し、
7人で走り出す。
elusive チームと、
Kinfolk bicycles。
両ジャージをデザインするのは、
elusiveのオーナーでありデザイナーの
コーちゃん。
彼のデザインはシンプルでありながら
強いメッセージ性を持っていて、
実際、
全く違うテクスチャでありながら、
どこか同じ、
似て非なる、そんな二つのジャージが肩を並べて走るのは、
最後尾を走りながら見ているだけで、
なんだか嬉しいものだ。
そして、
あの prestige若狭で共に走ったマンタ君と、
今回一緒に走れるのは感慨で、
何より、彼が前回の借り物でなく、
『自分のKINFOLK』で参加してくれていた事が、僕は何故か嬉しく感じた。
ヨッシャンとソウ君は、こういったイベントをサクサク提案して実現してくれる。
そのスピード感は、手前味噌と言われても、
僕は天才じゃないかと思ってしまう。
ざっくり100km1500upくらいのコースがええな、と希望を言うだけの僕は感謝しかなく、
それに加えてリュドラガールの晩飯付きとなれば、、
これはもう、楽し過ぎるはず、だった。
葛城山に入る。
比較的登りやすいルート。
それでも何度も何度も何度も何度も繰り返すツヅラオリ。
横に走る誰かがいなければ、ただ辛いだけだったかも知れない。
元ラファ店員であり、
ロードレーサーのジンノマン。
そう、昨年剣菱ライドでリーダーを務めた彼は、elusiveのジャージに身を包み、この日唯一のディスクブレーキで、
余裕で、僕の横に並ぶ。
その隙を間髪入れずに、コーちゃんが軽やかなダンシングで前へ出る、そして差をつけた上で、ヒュンヒュンと登る姿に、羽根でも生えてるんじゃないか、と見間違う。
彼の駆る、今は絶版となったクリスキングのフレーム『シエロ』は、デザイナーらしく
絶妙なコンポーネントの選択で、時折リムやフレームに木漏れ日を反射させ、美しく輝く。
速さは、僕にそれをさらに神々しく魅せるのだった。
最終的には85km1700upとなったライド、
ソウ君の絶妙のコース選択もあり、
僕らは無事に走りきる。
途中、崖崩れや通行止めも多く、
ホントなら、もっと良いコースを選べたと思うと、ソウ君も悔しいとこだろう。
きっと、彼のリベンジライドも近いうちに開催される事を僕は願っている。
終始。
終始バカ話しをしながら走ってた気がする。
初めてあったelusiveのタケノウチ君とも仲良くなれたし、まぁ、マンタ君のトークの才能は磨きもかかって、
これはもう、
日の高いウチからビールが美味い。
お楽しみの晩御飯。
リュドラガールのコースが振る舞われ、
リュドラ初体験のタケノウチ君が
『いや、記憶無くなる程美味いと聞いてましたが、確かに…』
と満足そうで、
僕の記憶は無くなりかけていたけれど、
誰かと走る楽しさと安心感。
その中でしか得られない特別な景色がそこにあることを反芻し、
きっとそれはRapha prestigeが伝えようとしてるソレだと改めて思う。
撮影した写真を見れば、
全て鋼のフレームで、ほぼリムブレーキだった。
新しさも特別も、自分で選択すればいいと思う。
いつか、見知らぬ少年が僕の自転車を『このロード、古いヤツだな、リムブレーキだし』と笑ったら、僕はこういうだろう。
いいか少年、
選択出来る事こそが自由だ。
そうして辿り着いた場所こそが、
自分が選んだ場所なんだ、と。
今の僕なら分かる気がする。
ここは選んできた道の真ん中で、
同じ様な選択をした連中が、
交差して見せてくれる景色を共有できる。
だからこそ、
チームは素晴らしい。
勝手知ったる仲間内、でも、
車輪を並べ息を切らす。
それぞれの選択を、
それは認めあっている様に、
僕には思えるのだ。
自転車に乗りたくなるし、
自転車に乗ると、
新しいウェアが欲しくなる…
そろそろビブを新調したいと思ってる方も少なくないのではないだろうか…
そこで、お節介ながら
PAS NORMAL STUDIOS(以下PNS)
とRapha、どちらのビブにするか迷ってる方の参考になればと思いながら、
主観による主観に満ちたレポートを。
昨年の秋口、ダイエットのモチベーションを上げる為PNSのメカニズムビブを購入したのだけれど、
比較するにも手持ちのへたへたプロチームビブではあまりにラファに分が悪かろうと、
同時に新品のラファプロチームビブ(グレー)も購入。
カードの請求書を見るや、僕は何をやってるんだ、と、うつむき加減になるが…
結論から言えば、
両者共に素晴らしい、でも、サイクルビブに問われる機能への解釈の違いを感じた。
さて、そんな二つのビブをさっそく比較していきたいと思う。
?素材感
PNSメカニズムビブは、独特のハリ感のある素材にチェッカープレート(工業用の鉄板にあるX型のエンボス)の様なパターンでズレ知らずのコンプレッションな吸着感と、
手に取った時に感じる圧倒的軽さ。
対して、
ラファプロチームビブは、シルクの様な滑らかな肌触り。
着ている事を忘れる一体感がある。
?重量
身体に密着するので体感的には重さを感じ難いかも知れないが…
実測では、
ラファプロチームビブが179g、
PNSメカニズムビブは172g。
ちなみにラファのクラシックビブ(旧モデル)は204g、今やディスコンとなったライトウエィトプロチームビブでも174g(両者実測)なので、
PNSのビブは圧倒的軽さと言っていいと思う。
?肩紐と裾のグリップについて
PNSの肩紐は、ぐんっ、と伸びるのに硬さのある不思議な素材感でバチンと身体に張り付く感じ。裾のグリップも履く際に折り返さないと肌に引っ掛かる程強く、相まって全体的にコンプレッションなイメージ。
かたや、
ラファの肩紐は柔らかく伸びるメッシュ状で通気性の高い生地。それでいて、身体に吸い付く様にフィットする。裾は生地面積でグリップしてる様な包み込む一体感。
もうこれは好き好きだけど、
個人的にはラファの方が好みで、でも、
PNSのコンプレッション感は気合いが入る感じでこれもまた良し。
?パッドについて。
上質な低反発座布団に座る様なPNSと、
尻に張り付いてサドルと一体化する様なラファ。
ちなみに、男性なら皆気になるゴールデンボールポケット(GBP)の在り方も、
隙間にチュルンと滑り込んで溶けて行く様なラファと、
座面にポトリと置いて鎮座させるPNS…。
まさに解釈の違いで、
これもまたご自身のGBやスティック部分そのもの
のサイズで大きく評価が分かれる所だろう。
どちらにせよ、
新品の状態でも100km走ると、
等しく尻は痛かった。
?デザイン
似て非なる、といった感じ。
両社ともシンプルで無駄を省いた、ミニマムかつ機能的でスタイリッシュなデザイン。
ただ、
ビブについて言えば、
より機能美を感じるのはPNSで、
ケレン味無くオーソドックスという点ではラファだと思う。しかし、
シンプルになればなる程、他のブランドは先駆者であるラファには勝てないと感じてしまう。
それは、デニムにおいてリーバイス501がいつの時代も特別である様に、
サイクリングジャージをファッションとして昇華させた功績は大きいし、
その点においてラファは他の追随を許さないと思う。
そういった意味でも、
一本は持っておきたい、という点では、
ラファのプロチームがお薦めだ。
サイクルジャージがファッション?!と思う方に簡単に述べるとしたら、
Rapha以前は『レーパンでコンビニ入れれば一人前』という自虐にも近い認識があったのに、
Rapha後は、むしろサイクルジャージ姿でコーヒースタンドに入るのはカッコいいかも知れない、という認識(主観であっても)に変わった事は間違いなく、また、
その波に追随する形で登場したのがPNSなのは、消費者的には間違いのない事実なのだ。
例えそれが偶然だとしても。
(余談だがプロチーム2になる前のプロチーム1のパターンはプロチームトレーニングビブに受け継がれている様で、大変リーズナブルだと思うし、欲しい。)
さて、
結論は先に書いた通り、
等しく素晴らしいビブでありながら、
明確なアプローチの違い(特にGBP)を感じるという点。
同ブランドのジャージと合わせて最高のパフォーマンスを産むというPNSのビブは腰深く、実際、同ブランドのトップスはかなりハイウェストな印象を受ける。この完成された独自解釈の機能美と、結果、脚長効果も期待出来る(故にか女性サイクリストに人気な気もする)。
逆に、
ビブとしても最高レベルの履き心地でありながらオーソドックスでトップスを選ばない懐の深さを持つラファ。
トップスは友達と作ったオリジナルジャージや、お気に入りのブランド。でも、ラファのビブなら自然にマッチして、パフォーマンスも最高。
選べない。
選べないので二本買うべきかも知れない。
後は領収書を見つめて項垂れるだけで
問題解決といいたいが、
迷うがそこまで散財出来ないと思えば、
余談で述べた、
プロチームトレーニングビブが最適解という気もしてくると、
夏に向けまた僕の財布の紐は、
変に弛みそうになるのだ。
]]>街は12月を迎えようというのに穏やかな日差しが続くので、
油断していたのかも知れない。
突然、
冬はその訪れを主張する様に切り付け、
俺はココにいるぞ、と言わんばかりに冷気を吹き付けた。
それはサイクリストにとって、招かれざる客といったところだろう。
そういえばあまり寒い日に走った事がないよな、とソウ君とそんな話しをしてた所で、
冷え切る前に走ろう、と彼の導く和歌山方面へのライドを決行した。
店を出発し、
和歌山へ抜けるトンネルまで
おなじみの登りが続くけれど、
CXに履かせた極太36cタイヤのエアボリュームと、
誰かと走る高揚感が、
やたらとバイクを前に進ませる。
楽しい。
はしゃぐ僕に苦笑しながら、
ソウ君は和歌山のルートを案内してくれる。
泉南から和歌山へのトンネルを抜ければ、
直線基調のくだりで、スピードメーターを見る間も無いほど速度が上がる。
極太タイヤは降りで頗(すこぶ)る快適で、デリケートな路面でもナーバスになる事はない。
コーナーから垣間見る景色は美しく、さらに心は昂った。
そこから、使われなくなった旧国道。
旧国道を走るルートはサイクリストには定番、
社会構造の中で忘れられた、
過去の遺産を僕らは有効活用してるのだと
嘯(うそぶ)いて笑う。
人も車も通らない、なのに整備されたその道を、
その悦楽を享受するのだ。
漫画『シャカリキ』の主人公が少年期にチャレンジした一番坂の様な坂が何度も繰り返す。次の坂が現れると、あ、デカいな、きっとさっきの坂が二番坂やな、と笑いながら僕らは次の坂へ加速する。
集落を抜け、
山を登る山道がガードレールもなく、これがまた最高だ。
干し柿のシーズンも終盤の高所地帯へ登り切ると、少年が大きな柑橘を売っていた。
サコッシュがあればきっと買っていただろう。
和歌山から大阪府へ戻り、
その瞬間にそれはきた。
峠を越え、下りが続く。
ちょっとした休憩ポイント、さすがに身体が冷えてしまった。
僕はブラックのコーヒーを飲んで暖をとったが、ソウ君はそれで大丈夫か?と思っていたらしい。
案の定、
ゴール近くのなんでもない峠で、
いや、そこに近づくにつれ、
脚は回るが、
全身を襲う倦怠感が来る。
なんだ、この疲れは。
ギアを落とし、こまかく刻め。
それでも直ぐにくる疲労感。
深呼吸を繰り返しても、身体が反応しなくなる。
深い海に堕ちていくのは、きっとこんな感じかも知れない。
『きゅ、きゅうけいしよ』
堪らず吐き出した言葉。
その先で頂上なんで、そこで休みましょう、
と返すソウ君。ありがたい。
でも、そのちょっと『そこ』が遠い。眠い。
眠くなる。頂上に着くと僕はヘルメットの額をステムのつけ根に乗せて、
うとうとしながら、
『しんろい…』と言葉にした。
ソウ君が僕の異常に気付き、甘い飲み物を買いに峠を降っていった。
…陽だまりに僕はどかりと座って、ソウ君の到着を待つ。
まさか、これがハンガーノックか。
ぐうぐう鳴く腹は、痩せる前兆であることも間違いないかも知れないが、
自転車は無常にも全てを削り取っていく。
しばらくして戻ったソウ君は
ココアとコーヒー、どっちがいいです?と二本のドリンクを差し出してくれた。
受け取ったココアは、この世の物とは思えない美味さで、
僕の全身に染み渡っていく。
一本で足りず、コーヒーももらう。
染みる。
変な声も出る。
…助かった…
と心中に独言る。
不甲斐ない僕の為に坂を降ってくれたソウ君には感謝しかないし、
もう何年も缶のココアなんて飲んでなかったけど、なんだ、メチャクチャ美味いな。
減らず口を叩けるくらいには回復し、
どうにかソウ君の店まで戻る事が出来た。
死ぬほどシンドイ思いしたのに、
もうビールが飲みたい。
さぁ、早く着替えてお好み焼き食いに行こう、
と言うと、恭子さんが僕の腹を見て目を丸くくする。
『え、何そのお腹…』
きっと僕の腹にはビールの妖怪でも棲みついていて、
でもそれは突然ではなく、
日々少しずつ重ねられ、主張をはじめる。
たまらず鷲掴みにしたソイツは醜い皺を携えて、ヘソから僕を見上げて宣うのだ。
俺はココにいるぞ、と…。
『パパ、毛、薄くなってきたね。』
冬休み、
僕の肩を揉む息子の、忌憚ない言葉が
胸を締め付ける。
そんなバカな。
…いや、まさか…
サイクリング・キャップ、か。
現実を直視出来ない大人は、
常に何処かにそれなりの理由を見出し、
自分を納得させようとするモノだ。
だが、
腹を見ろ。
仮にサイクリングによって薄くなった髪が、比例して、たっぷと腹部に付いた贅肉を削ぎ落とした結果なら、まだ納得も出来る。
しかし悠々と、掴めるこの肉はナンだ…。
『理不尽』とは正にこの事。
到底赦すなど出来ないし、むしろこの際、
自転車に使う全ての時間と金を育毛に費やした方が、
まだ納得がいくのかも知れない。
『パパ、毛、薄くなって』
だまれ。
パパには今、やる事があるのだ。
もはや、頭髪の為ではない。
頭髪が無くとも優れたサイクリストはゴマンといるが…
ふくよかなワガママボディのサイクリストに、良い印象はあまり無いだろう。
敵を見間違うなよ。
ひとりごちて、新年を迎えるこの寒波の中、僕はサドルを跨ぐ。
凍てつく空気はその決意を歪めようと、
耳にざわつく強風で煽り立てる。
だが、
腹は決まった。
いや、
腹が出過ぎたのだ。
この腹を少しでも、あの頃の、
せめて、
サイクリストらしいボディに戻したいモノだ。
サイクリストにとって、防寒具はいくら身に纏っても良いルール。
厚着して出発すれば幾分か気持ちを励ましてくれるが、後に重石となってぶら下がる。
かといって、薄着で出発するなら、本気にならなければいけない。
ジレンマの中、
あえて言えば、
先日、外通で買ったジロのグローブは、
見た目から想像出来ないほど快適だった。
確かに、汗ばむ時もあるが、
それよりも、
基本指が冷え切る事もなく、
また、汗ばむと、ほどよく湿気が外に排出されるのを感じるのだ。
…見た目1290円くらいの軍手のくせに…
そう心中に呟き、
僕はブラケットを握りなおす。
ウェアの機能というのは、
思うよりポテンシャルも、
モチベーションすらも引き出すモノだ。
寒気の中、指が動く。
それだけで、
下りコーナーも怖くないし、
走りに集中出来るのだ。
機能的なインナーがあれば、
冬のライドは露天風呂の様に快適というが、
下りになれば、
真冬の露天風呂の洗い場で、
時おりお湯をかけて身体を温め様としてるに他ならない。
そんな環境でも、
指先が動くというのは、とてもありがたく、
自分がまだ走れるのではないか、
そんな気にさせてくれるのだ。
またコーナーが迫る。
手前でレバーを握り込み、
クリッピングポイントを過ぎる前には解除する。
そのスピードの代償に、
僕は自転車を深く寝かした。
火照った心を冷気が切り裂く。
誰に語る必要もない満足がそこにある。
ウチについて、
ヘルメットを脱ぎキャップを取る。
もしそこでまた、
僕の頭髪がハラリと去っていったとしても構わない。
いや構うかも知れない。
でもそこで、取り引きが成立している事に気付くのだ。
痩せる為にする運動は山ほどある。
でも、
日々の自然の移り変わりを、ここまで興奮に変えてくれるスポーツが他にあるだろうか。
春夏秋冬、その美しさの中に自分を投影出来る。
痩せたい。
なんなら、
ハゲたくもない。
しかし、自転車はそんなワガママに
耳をかす事無く、そこにあるだけだ。
変わらぬ魅力を纏い続け、
僕の頭髪を抜き去っていく。
ライドの後の酒は最高で、
僕の腹は萎む事を知らない。
それでもいい。
いつのまにか、
何かの数字を追い続ける事に夢中になってペダルを回していないか。
そうであってもなくても、
自転車は、変わらずそこにある。
サドルに跨るその理由は、
ごまんとあるのだ。
時速48.2km。
コース中、唯一舗装された区間。
高速ストレートに先頭で躍り出た僕は、
ガシュガシュッ、とブラケットのレバーを押し込み身を屈め、重くなったギアを一気に踏み込んで、その速度域まで加速した。
引き離すんだ、と独り言ちるより速く、
右から激しい息遣いが追越しにかかる。
その蒼いピストはスリックタイヤで
S字コーナー手前、僕の前に出た。
時速50kmからのブレーキ勝負。
彼は、
イナズマの様にスキッドを決めて減速するが、曲がりきれず、
コーナー出口でアウト側の特設フェンスにぶつかりながら加速する。
フェンスは、真後ろにいる僕に向かって倒れてくるけど、
肩にぶつかってくるフェンスを左手で払い除けながらも笑いが込み上げ、思わず、
『カッコええやん!』と、
賞賛にも似た負けん気を吐き出して、
芝のギャップを軽くジャンプし、僕は彼に追い縋ったのだ。
バイクロア堺。
自転車の運動会と文化祭をミックスした、誰でも参加出来るイベント『バイクロア』。
大阪堺では二回目の開催となる。
ソウ君が教えてくれなければ見落としてしまっていたけれど、
子供にも優しいという点において、
我が子のレース初参戦にはウッテツケだと思った事も、参加の決め手になった。
いざイベント会場に着けば、
飲食や自転車関係のブースがテント村の様に乱立し、
ライブペイントや、自治体の消防団のイベントブースなど、リーガルでイリーガルな文化の交わる面白い空間がそこにある。
子供らは無邪気に、ライブペイントのお兄さんと一緒に絵を描いたり、
消防団のテントでピンバッジを作ったりとボーダーレスに大はしゃぎだった。
傍ら、
いや、傍らじゃないな、娘はメインの『キッズロア用コース』をガンガンに走り周り、楽しそう。
息子はそのまま当日エントリーでハイジュニアレースに参加。
当日エントリーが容易いのは素晴らしい。草レースの基本だと思う。
参加人数も少なく、運良く2位となった息子だけれど、
大人と同じコースを20分強走る普通のシクロクロスになっていて、相当しんどい事は想像に易い。
ゴール後、思わず抱きしめてしまった。
よくやった、父さんは誇らしい。
その後、
昼一で漢字検定を受ける息子と娘を一旦自宅へ送り返し、
僕は自転車を積んで、再度会場へ。
夕方のワンショットレース(一周だけの短距離レース)にエントリーした。
当日エントリーが多く30名ほど?まで増えたとかで、予選と決勝に別れる事に。
予選では、その日の優勝者とデッドヒートを繰り広げ、2位で敗退。
もう終わりかな、と着替えてるとソウクンから電話が鳴り、敗者復活戦でゼッケンを呼ばれてると。急いで、チノパンにTシャツで再参戦。
皆予選2位通過の人ばかりで速そうだ。
スタートして、夕暮れの西日が差し込む木々の間を駆け抜けるのだけれど、これは気持ちがいい。
折り返し、先頭のまま舗装路に出ると、
僕はギアを上げ、差をつけようと試みたところに、
追い縋る蒼いピスト。
ブレーキング勝負に負け、先行する彼がなぎ倒すフェンスを払いながら、
『カッコええやん!』
と口角を上げて叫ぶ僕は思わず次の段差でホップしてみせる。
ギャラリーの歓声が聞こえる。
テンションが上がる。
そうだ、コーナーでは流石に機材差でコチラに分がある。次のクランクで、外から刺すのだ。
ここだ、
と、意を決してハンドルを捩ったあと、
気がつくと僕は宙を舞い、
突き指しながら、
前頭部を地面に打ち付けていた。
どう転んだかも分からないけど、
久々のクリンチャーを捩り過ぎたのか、
ホイールとタイヤの間に草を噛みまくっていた様だ。
少し間をあけ、
陽に染まり、あっけに取られる僕を、
後続が追い抜いていく。
踏み込んだペダルは重く、
負けたな、と自嘲して僕はゴールした。
結局、決勝は初戦のイケメンと、蒼いピストの彼で一位二位を争い、イケメンの勝利。
『なるほど、という事は、僕が実質3位やな…』と呟いて、ソウ君に怒られた。
ブルーラグ主催のワンショットレースは、
主催者側は緩く、
参加者はそれを理解した上で、
熱い。
このバランスこそがストリートなんだと思い知る。
金払えば主催者まかせ、という参加者の多いレースがほとんどで、それはひとつの正しさだけれど、
やはり、主催者も参加者もお互いの立場を考える事が楽しさの軸であり、
そもそも、レーススタートの号砲を撃つスタッフとレーサーが記念写真を撮るような、
こういうのが、いいんだよな、と思う。
ふと気がつけば、
この日、沢山の知人友人に会った。
もちろん、自転車で知り合った友人ばかりで、
ミウケンご家族をはじめ、
普段から会うムーブメントの皆んなや、
オーシャンに出入りしてた人達、
ETの面々、
あ、そういえば、
テルテルで買った息子の自転車を作ったメーカーの人も偶然来てて、写真撮られたし、
息子2位でした、って言ったら喜んでくれた。
面白い偶然(笑)。
当日会えなかったけど、
会いたかった人達も沢山来てたみたいで後から連絡もらったりして。
ピストムーブメントの熱がまだ、
そこにある。
それは、
競技自転車とファッションの、
リーガルとイリーガルの、
メインカルチャーとサブカルの、
クラシックとハードコアの、
邂逅。
文化の交流は素晴らしい。
同窓会なんかじゃなくて、
その熱は、そのままそこにある。
イナズマの様に、
後輪を引き摺り、
時速50kmから制動をかける
蒼い閃光。
ローカルを愛するという彼は
どう見てもまだ若者と呼べる年齢で、
10年以上前に編み出された『スキッド』をここまで操る若者が、今いる事に感謝し、
その残光が、
また次の道を照らし出すのだと、
信じてやまないのだ。
iPhoneの振動で目を覚ます。
休みだというのに、早起きしなければ。
久しぶりのライドイベントだ。
絶対遅刻出来ないし、それなら、
早めに行って集合場所近くのスタバに早目に着いてマッタリタイム、
のハズが…
尼崎で乗り継ぎをウッカリ見落とし、まぁでも新快速なんで新三田行くわ。と眠りについて三ノ宮で目覚め…『三ノ宮…?あかん、姫路行き乗ってるやん…』
同時刻発の新快速で乗り間違えた事に気がついた時には遅く、
このイベントのオーガナイザーでもある、
ヨッシャンにすぐ連絡。
返ってきたのは、
『ギリ間に合うかもやから、到着までに用意を済ましておくべし』
との指令。
いや、電車ん中で着替えるのハードル高いで…。
…正面の座席に座る女学生が、逃げるか否か、
ソワソワする中、
なんとか、
サイクリストなスタイルに着替え集合場所の新三田駅のスタバに着き、
ライドの説明中に『遅くなってすみませ〜ん』と、
大人として最低な登場をしてしまう。
イベントの内容は、
500年の歴史をもつ蔵元、剣菱酒造の日本酒『剣菱』。
その造酒に使われる酒米、山田錦を作る契約農家の田園をロードバイクでなぞり、
六甲山を越え、神戸市は東灘区の酒造所を目指すライド。
新三田を発し、
美しい風景の中を駆け抜ける。
晴天、流々と流れる川、伸びやかな田園。そして、
秋の冷たい風が時々に混じりあう。
思わず飛び出しそうになる声を飲み込んで、
それはペダルを踏む力に変わる。
そもそも、
剣菱契約農家は三木市にあり、
ライドのゴールとなる酒造所は神戸市にある。
今回、
その神戸市と三木市の垣根を越えたイベントを実現するのは神戸観光局単独では難しく、
そこで、ヨッシャンの『人を繋ぐ力』が、
Raphaまで巻き込んで、
このイベントを実現する事となった。
ふと、駆け抜ける田園の稲穂が押し倒されてる事に気がつく。
本日のライドリーダー、ジンノマン氏と、これは台風の被害かな、なんて話ながら、
休憩ポイントの公民館に到着。
そこで剣菱4代目蔵元の白樫政孝さん(Raphaのウェアで登場!)より、山田錦、また酒米の歴史についてとても面白い話を聞かせて頂く。そこで先の、押し倒された稲穂は、食米に比べ一回り大きい酒米は、その重さで稲穂は項垂れていくと聞く。要は、あれが正しい姿だと知り、さすがに舌を巻く。
公民館に集まって下さった農家の方に手を振り、
グラベル交えた六甲裏ルートで登りはじめる。
グラベルに入ると、
モトジさんの"案内"に着いていくのに必死だ。
その後をひいひい言いながら追いかけて、
山頂の六甲サイレンスリゾートに到着。
最高のロケーションと竹スミを使ったキーマカレーに、登頂の疲れも忘れて自転車談義に花を咲かせる。
そこからはもう、ほぼ降りで、
獲得標高1000mから、かなりの急勾配をジンノマン氏の牽きで危なげなく降り、
山の麓の住宅街を走る。
人ひとり通れるくらいの狭路を、
先の確認をしながら声を出して走る彼の背中は、
中々に安心感がある。
そして、左折した狭路の先、
右手の水路に大きな水車を見た。
…遠い昔、
六甲の山脈を駆け降りる水源を利用して菜種油を挽いてたという歴史。
そして、
その水脈に、
三田の田園より流れ出るタンパク質が、神戸の海に滋養を与え、
豊かな漁場が出来たと言う歴史に、
一瞬、心を奪われる。
『なかなか、
こんな水車見れないですよね』
…誰かの言葉に僕は我を取り戻し、
まもなく、
剣菱酒造へ到着。
恥ずかしながら知らなかったのですが、
この辺りは、白鶴や菊正宗など、有名な酒造が軒を連ねる。
住宅街を走ると、ほんのり酒の匂い。
その中に、ドカンと現れる剣菱酒造に到着。
早々、神戸産のレモネードに、
神戸のミネラル水を頂く。
クラフトビールみたく、ステキなラベルの貼られたレモネードが、乾いた身体に効く。
ライドはここで終了。
新三田で預けた荷物はサポートカーが運んでくれていて、自転車は、
わざわざこの日の為に作って下さったラックに(翌日もイベント参加の方はそのまま蔵で預かってもらえました!)、飲んで帰るなら自転車を預けるか、輪行での帰宅となるので、安心して試飲出来る。
自転車降りてスニーカーに履き替えた時の解放感は言葉にならない。
縛りから放たれる為に走っているワケでないのに、僕らは何を求めてペダルを踏むのだろう。
再び剣菱四代目からの酒造の歴史説明と、工場見学。お話が楽しく上手で、
疲れた身体でも聞き入ってしまう。
もちろん、試飲会も楽しみだ。
効率化と保守。
何かを守るには変えられない事がある。
例えば剣菱がワンカップを作るとなれば木製の桶ではコストが合うワケもなく、
アルミ樽で醸造する事が、消費者的にも正しい選択だろう。
そうやって、
ほとんどの商材は人に寄り添ってきた。
それが間違いとは到底思えないが…
でも、
市場より、あるべき味を守るというスタイルに、激しく共感してしまう。
流行り廃りでなく、
本質であり、いつもそこにあり、
帰れる場所でもある。
スケートボードやストリートピストが、
流行りであってもなくても、
その楽しさが変わらない様に。
鋼鉄のロードバイクが残り続ける様に。
そこに在り続ける。
一口飲んでみると思わず、美味い、
と声を漏らす。
さすがに米の生産地、生産者と携わって、その熱を感じてからのこの酒。
美味いに決まってる。
日本酒の苦手な僕が、サッパリ飲めると思ったこの味。
デイリーでも特別な日でも、
あぁ、おでんや惣菜に合わせたい。
そう思う前に、なんと、
フジッコのやり手営業マン(女性)
が自社惣菜を手土産に乱入(笑
)。『サイクリストのイベントがあると聞きまして…』
と、極上のツマミを用意してくれるモンだから、
ついつい飲み過ぎてしまいそうになり、ジンノマン氏の『モッツさんおさけ強いんですか?』の質問を、
『ワ投げ強いんですか?』に空耳して勝手に大爆笑した時点で、
自分ヤバいわ。
と、気づき、
酔いすぎる前に撤収。
お先失礼します!
下げた頭をあげると、
参加者やスタッフの人達の満ち足りた笑顔が忘れられない。
しばらく、
グループライドなどしていない。
ワリと我を忘れるタイプの僕は、
あまり協調性があるとも思えないし、なんとなくグループライドを避けていたけど、
まったく知らない人達との、
どんな会話より、見て取れる全てが、
共感となり、全能感にリンクする。
気持ちがいい。
この日ペダルを踏んで、最初に思った喉から飛び出そうな興奮が、
グループライドの本質かも知れない。
きっとまた、
新しい自転車ブームが到来し、時代が新しい何かを産んで、やがて飽きられて、廃れる時がきても、
それでも僕はペダルを踏んでいられるだろうか。
でも踏んでいたいと願う。
その先には、やはり同じ様な人が集まり、また同じ興奮と感動を導くはずだ。
江戸時代より流行りに流されず貫いた剣菱の日本酒を美味いと感じる様に、
本質は変わらない。
流行り廃りは確かにある。
それでも、
自分の本質は分かっている。
誰かに寄せる事よりも、
自分らしくあれば、
また誰かと、その感度を共有出来るのだと、
手土産に頂いたこの日本酒が、
今夜も僕の喉に沁み込むのだ。
ステップアップの為の転職。
という、常套句を引っ提げての転職活動に、良いカタチでピリオドを打つ事が出来た、ところまでは良かったが…。
この歳で新しい環境というのは、
思ったより辛い物がある。
ノロい僕のエクセル捌きに舌打ちされながら、それでもどうにか、くらいつこうとする。転職は、職場が変わる事じゃない。
変わるのは、僕だ。
そういえば昨年末、
前職を辞め、ガッツリ溜まった有休消化中に
ヨッシャンと、ソウくんに、別々に逢いにいった。
二人とも、何かと背負う責任が増えていて、
走る事はおろか、
会う時間を作る事も難しそうで、
僕は僕で、
新しい環境に身を投じようとしていた。
春は過ぎ、
梅雨を迎える準備を始めたころ、
僕らは思い出した様に、
走ろうか、と集まる。
久々に会って開口いっぱつ、
「モッツまた丸くなったんちゃう?」
と、ヨッシャン。
なってへんわ!(笑)、
とお決まりのノリツッコミを合図に、
僕らはヨッシャンが今、町おこしに深く携わる神戸は北区、大沢町を走りだす。
神戸市北区というと街の中かと思うけれど、
そのイメージとはかけ離れた山中の農村。藁葺き屋根が、まだ残る町。
サイクリストとして、これは最高の環境だ。
そこでヨッシャンは行政とタッグを組んで、
電動アシスト自転車を使った観光サイクリングイベントを発案。
何より、彼のライドスケジュールはバランス感が良く、早々に満員御礼となってしまうらしい。
そんなヨッシャンにアテンドしてもらいながら、
古民家をリフォームした彼の自宅に寄ると、
オシャレな貸事務所のような、ちょっとしたパーティー会場のような、
コワーキングスペースやキッチンもある、
和モダンを感じる居心地の良い空間に仕上がっていた。
実際、民泊も始める予定との事で、
デッキ付きの貸部屋が2つ。
街の喧騒を離れ仕事をして、
夕方にこのデッキで独り、泡でも飲んだらさぞ気持ちがいいだろうな、
と思いながら、邸宅を後にする。
50km、900upほどのルートを回る。
何度も小さなアップダウンを繰り返すウチに
獲得標高を稼ぐコース。
藪になっていたという沿道の雑草は、
キレイに刈り取られていて、
それも、ヨッシャンが「ここをコースにしますね」と行政を通して発信する事で、
町民の方々が伐採してくださったとか。
やはり、みな自分の町を紹介出来るなら、キレイにしたいと思うのだろうか。しかしその感情と、行動は尊い。
「ヨッシャン、仕事してんなー!」
思わずそう褒めると、
サングラスの下で誇らしげに彼は笑った。
なんだろう、アップダウンが小さすぎるのか、
辛いシーンはあまりなく、
何より三人ともずっと元気で、
ずっと笑い話をしては、走る。
会話が中心になりそうになると、
気持ちの良い道と景色がその唇を塞ぐ。
今までとは違う感覚に、
妙な安堵を感じる。
山頂を目指し、シングルトラック風の山道を抜け、そこを一つ乗り切って登り切る。
…あぁ、
展望台は、どこの山でも気持ち良いもんだな。と僕は独りごちた。
最高のルートももう終盤という時、
ヨッシャンが
「幹線道路か、不整地のグラベルみたいなトコ、どっちを走る?荒れててグラベルとは言えない感じでオススメせんけど…」と聞いてきたので、
そりゃグラベルやろ!と息巻いて望むと、
なるほど、
荒れたアスファルトをコンクリと土で穴埋めした、泥だらけでボコボコのコンクリを走破するライド。
ソウくんと僕は
「なにこれ…」「最悪系のヤツやん…」と口々に呟いてると、
「だからどっち選ぶってきいたやんけお前らー!」とヨッシャンが軽くキレるので爆笑しながら、
ゴールの三田アウトレット横のスタバへ。
30分ほど休んで、帰ろう。
と思ったけど、たわい無い話で、
あっという間に1時間。
いいだけ爆笑してから、
僕らは帰路についた。
居心地が良い。
居心地が良いのに、
ステップアップの為の転職?
本当に居心地の良い場所は
腰掛けなんかじゃない。
常にそこにあり、
僕に問いかけるのだ。
変わるべきもの、変わらないもの。
変わったな、
いや、
変わってないな。
自問自答しても出ない答えを、
並べた車輪が共鳴し、
音叉となって僕を調律する。
変わらない自分と、
仲間と。
ただ前に進ませる旋律を。
奏でる様にタイヤは
アスファルトを蹴って、
僕らは帰路につく。
居心地の良い場所はここにある。
変わっても変わらなくても、
全て受け止めて、
僕らは進むのだ。
ただ、息を弾ませながら。
日頃のシガラミから解放されている、と感じる。
路面がテクニカルな程
日常を離れ、
息が上がる程
自分が生きている事を知る。
自転車が独りでも楽しめる要因は、
きっとそんな部分ではないだろうか。
レース前日。
二人の子を連れて輪行し、
敦賀にある実家に戻る。
父親に、明日は4時には出る、と話した翌朝、早朝に起きてきて、車で送ってくれるという。
母親も起きていて、味噌汁とご飯を用意してくれていた。
会場に着き、
メンバーと合流。
ヨッシャンとソウ君は深夜に合流して若狭入り。
新メンバー、イケメンのマンタ君は前日入りして、現地で野営。
とはいえ、写真を見る限り快適そう。
とにかく、
僕はトイレに行きたい。
そう思いながらスタートラインに並ぶ。
時差発走だし、そもそも完走が目的という事で緊張なんか無いはずだけれど、
やはり秒読みされるとドキドキするモノだ。
約160km、3,000up。
スタートし、皆と同じ様に、
拍手と共に僕らは送り出された。
早朝の田舎道は、
思わず占有許可を取ってるんじゃないかと勘違いしてしまうほど快適で、
先の便意も忘れそうだったけど、
程なく登場したコンビニを見た瞬間、
ぶり返した。
突撃したコンビニのトイレはまさかの順番待ちで、下っ腹が軋む。
なるほどこれは、
おそらく朝の味噌汁が効いているな、
と独りごち、ニヤリと口角をあげてみせても、
額には脂汗が滲んだ。
トイレに入り、
「音姫」から流れる小川と小鳥の鳴き声。
事を済せ外に出ると、
ソウ君手製の洒落た朝メシを齧り、過ぎゆく他のチームの人達に手を振っているkinfolkチーム。
なんか申し訳ない。
さて、
いよいよレースの始まりである。
コース前半。
敦賀半島を水晶浜を臨む西海岸から周り、トンネルをくぐって東海岸へ抜ける。
ガーミンには、コース中、12回ある「クライム」が表示されている。
早々に一つ目のクライムに入ったが、まだ坂は緩い。
「でも前半は脚を溜めときましょう」マンタ君がいう。
今年最初の秋らしい風に思わず調子に乗りそうな気分を押し殺して、海岸線を走る。
学生の頃アルバイトしていた海の家、
もう20年以上経つので建物は老朽化してるけど、砂浜の景観は変わらないな、と思いながら、
心地好いアップダウンを駆け抜けて、敦賀トンネルに入る。
半島の先を貫通するそれは自転車で走れるトンネルとしては日本最長らしく、
なるほど、
どこまで行っても先が見えない。
前をゆく他のチームが大声を上げ、その声が延々コダマした。
夏のトンネルでの事故がトラウマになったのか、
僕はすっかりトンネルが苦手で
チームメイトに気持ちはべったり縋(すが)りながら、
ようやく見えた明かりに心底ホッとした。
もんじゅで記念撮影をして、
東海岸へ出る。
水際に面する道路から海面を覗くとまさにエメラルドグリーンといった色合いで、
ここが自分の故郷だと思うと誇らしい気持ちになり、だんだんとテンションが上がりだす。
既に4つ目のクライムを終わらせて、
休憩ポイントの気比松原へ。
「誰かにお願いして写真撮ってもらいましょう♪」マンタ君のコミュニケーション能力は頗(すこぶ)る高く、尻込みせず他のチームの人たちと関わる軽快な人柄で、それをきっかけに僕も会話に参加する。
そんな中「ウサギのジャージ、いいですね」と先々で褒められて気分が良いし、
他のチームの人達も遠方から来られたチーム、
揃えたジャージにストーリーのあるチーム、
色んな人達が参加していた。
今回、
新型コロナの影響でアフターパーティーが
中止になってしまったが、
この手のイベントの醍醐味はこういった交流にもあるのではないか、と思った。
休憩もそこそこに、
敦賀市内をゆるりと駆け抜ける。
旧木崎通り。
学生の頃よく走っていた道を、今の仲間と走るのは気恥ずかしい様な、くすぐったい気分だ。
照れ隠しで、僕の懐かしくもショーモナイ猥談を披露してみたりしたながら、
程よいペースで黒河川をまで抜けて、
第六のクライムを前に一旦休憩。
20kmのグラベル(未舗装路)を含む、
コースの前半のクライマックスである。
ここで、
ビストロで厨房に立つソウ君手製の
ケークサレを齧る。
チョコ味とコーン入りの塩味と、
ライド中に欲しくなる味を、さすがよくわかってる。
黒河川(くろこがわ)といえば中流でバーベキューをした思い出くらいで、まさかその先があるなんて。
その先。
ついに、ラファプレステージの代名詞といって良いグラベルライドが、ふいに始まった。
いきなりの玉砂利道に、サドルを降りて通過するチームもいて、ソウ君に「降りる?」とクリートを外しながら振り返ると、その横をぶりんぶりんと乗車して追い越していった。
よし、とばかりに、僕も負けじと踏む。
だが先は長い。
緩い斜面でもギアをインナーローに入れるが、
僕のロードバイクのギア比ではそれでも高すぎて、サドルから少し腰を上げれば即スタックしてしまうので、
思ったよりも難しい。
それでも、なだらかな林道を小石を跳ねながら走るのは、吹き抜ける冷たい風と相まって
すこぶる気持ちが良い。
マンタ君と、サイコー、サイコー!とハシャギながら林道を駆け抜ける。
斜度が上がり始めたグラベル路には、
数メートルおきに路面侵食防止ゴム板が設置され、
それ自体は踏み付けて越えればよいだけなのだけれど、
そのゴム板の支え木や、ゴム板の向こう側に雨水で自然に削られたのであろう、深い排水溝が掘られていたりして、
飛ばして行くには少々危険だ。
どんどん渋滞してきて、
sauce チームと合流。後ろから上がってくる他のチームと、前から落ちてくるチーム、
要は、
路面が急に表情を変え、
難易度が上がったようだった。
無理する必要は無いので、
ひとつひとつクリアして行けばいい。
少し前に出て、後方へ注意箇所を叫ぶと、
後ろの人がさらに後方へ叫び伝えてくれる。
「側溝、左〜!。ここ結構ヤバいねー!」と後ろのマンタ君に声をかけながら振り向くと、
他のチームの方だった。
ちょっと恥ずかしくなり、
マンタ君の姿を探すと、
その後方のsauce teamのあたりにヨッシャン達の姿を見つけた。安心して、進む。
目の前で女性が落車した。
ソレを停車して助けたけれども、
斜度と路面がキツくて僕も再スタート出来ない。
からがら、
なんとかペダルを踏んだが、
グリップしようとした後輪は砂利をかき上げるだけでまた足をついた。
振り返ると沢山のライダーが渋滞してきた。
迷惑かけまいと、
一旦降りて、加速をつけて飛び乗り、なんとか進み出した。でも、
重いギア比と貧弱な脚が、途中で止まる事を許さない。
前輪が柔らかい地面を掘る。
玉砂利と玉砂利の擦れる音。
路面がテクニカルな程
日常を忘れ、
息が上がる程
自分が生きている事を知る。
僕は、
後続の渋滞の中にKINFOLKチームがいると
思い込んでしまっていた。
身勝手に、そう願っていたのかも知れない。
その頃、
マンタ君が体調を崩し嘔吐していた。
フォローする二人が身勝手に先行するモッツに苛立っていたのは想像に難くない。
結局、僕は急坂での再スタートを嫌がって、頂上まで行ってしまった。
正直、みんなsauceや、他のチームと雑談しながら登ってくるだろう、くらいに軽く考えていたと思う。
が、先に登ってきた堀さんに聞くと「いや、まだ下だと思いますよ」と。
それを聞いて、何かあったのかと少し青ざめる。
でも、砂利の下りが怖くて下る事もできず待っていると、
息を切らして登ってきた三人。
無邪気にカメラを向ける僕に、
ヨッシャンは息をきらしながら
足を着くと開口一発、
「…モッツさんよぉ……チームで走ってんだから先々行くなよ!元気なら荷物もつとか、こんなの意味ないやろ!そんな風なら今すぐDNFしてええんやで!した方がマシや!」
普段温厚な彼が声を荒げて叫んだ。
僕はハッとした。
いや、分かっていたつもりだった。
謝りながらも僕は
「もったいない事をした」
と思った。
ここからの下りは険しい。
前情報で、
グレーチングの蓋が飛んでる箇所が度々あるとの事。未舗装路。急勾配が恐怖心を煽る。
それはそうと、
バツが悪い。さすがに。
普段から先々行く僕に今回はと、
あらかじめ釘を刺していたソウ君も呆れ調子で、
マンタ君は変に責任を感じ、
けれど、しばらくして
ヨッシャンは何事も無かったかの様に、
ケロりと「モッツはこの辺りも来たことあるの?」と聞いてきた。
彼は『もったいない』が分かってるんだろう。
なので、
あんまり来た事ないかな、
と僕もサラリと返した。
想像以上に危険な下りの路面は速度を増す。
声を掛け合いながら、
恐怖心を払拭して、
ブラケットを握る手に力が入り過ぎるのとは裏腹に、気持ちは少しずつ解けてゆく。
ヨッシャンの駆るCXはボリュームあるタイヤで、逞しく坂を降る。その後を僕らは着いていくけれど、25c、ましてやマンタ君の23cでは流石に厳しい箇所が続く。
降りきり、ホッとして、
四人は、マキノの立木通りを抜けた。
気持ちの良い農道を抜け、
チェックポイントを通過すると、
このコースの中盤といえる、
険しい峠だ。
登り出しから険しく、
ヨッシャンがやたらとバテた感じで、
太いタイヤは登りではいかにも苦しそうだ。
無言で、息遣いだけが四人の間に響く。
ソウ君が作るペースに合わせ登りきるけど、
くだりはまた相当なモノで、
所々アスファルトが崩れていて、そこが大きな水溜りになっている。
底が見えない、車輪がハブの手前まで沈む深い水溜りを僕らは、
ゆっくりと片足で道路のヘリを蹴りながら進んだ。
後に語るには、本コース中で最も怖かったエリアだという人もいた。
「おおっ凄いな!」
ふと、誰ともなく叫んだ声に顔を上げると、
山腹の絶景。
ずいぶん高くまで登ってたんだなと。
こんな時、ワケもわからずフフフと心中に笑いが込み上げる。
水溜りゾーンをやり過ごし、中継ポイントへ。
ホッとしてると、
背後から悪そうな集団、
ほぼ最後発のテースケさん達のチームだ。
ほどなく追い越され、
その後、チェックポイントのサバカフェでまた落ち合った。
「モッツさんなんか元気ないやん?笑」
と、ボトルの水を補給しながら、テースケさんが話しかけてくれる。
いやいやそれが…と、ソウ君が経緯(いきさつ)を説明するといつもの感じで「ヤバいな笑」とテースケさんは笑った。
久しぶりに顔を合わすライダーの皆んな。
初めて会う人達。
シクロクロスの会場を思わせる空気はなんだか心地良い。
サバカフェを後にして、
田んぼの真ん中を土手が貫く、
サイクリングロードを走る。
先頭を代わるがわる。
自転車をやってて楽しいのは、
無言でローテーションしたり、
チームで同じ気分を共有出来る。
まさにそれであって、
忘れていた「皆で走る喜び」を
思い出すたび、
胸がチクリと傷んだ。
他のチームを抜いたり、抜かれたり。
まもなく最後の峠をむかえる。
僕らは僕らで、気ままに道路のヘリに座り込んで休んだ。
とんでもなく広がる田園、
僕の実家から山一つ超えて、こんな景色があったのか、と笑う。
いや、あったし、
知っていたと思う。
ただ気が付かないのだ。
自転車に乗らなければ。
仲間と走らなければ。
そこで見た景色は、
走ってきた疲れや、
その時の気持ちを内包していて、
iphoneのカメラにはきっと写らないのだ。
raphaのサポートカーが通り越し様、
その先の、グラベルについて教えてくれた。
厳しい登りの後は、ほとんどがグラベルのアップダウンだという。
「えー、マジか笑」
僕らは苦笑しながらも進む。
登りに入るが、
ヨッシャンがペースを落とさず踏む。
おっ、踏めてるやん!と声を掛けると
「モッツが側にいるからじゃないか?」
そう、苦しそうにニヤリと言い放った。
舗装路を登りきると、
そこから長いグラベルが始まる。
グラベルの辛さというのは、
同じ登りでも違って、
路面に集中するウチに登り切り、
登った先で疲れに気がつく、
といった感じだ。
怖くて、楽しくて、
キツい。
馬鹿な話してゲラゲラと笑いながらも、
ガーミンが表示するクライム数が残り僅かで、
もう少し、もう少しと、
励ましあって、
気がつくと、若狭湾を見下ろしていた。
美しい、なのに、
どう撮っても、思う様に写真が撮れない。
きっと、最高なのかも知れない。
グラベルを抜け、
くだり道。
ソウ君がパンクして止まってると
先行していたヨッシャンと僕にマンタ君が伝えに来てくれたので、
まだ元気のある僕は、ヨッシャンからポンプを受け取り登り返した。
ソウ君は路肩で手際良く修理していて、
僕は横で雑談してるだけだった。
結構な急勾配なので、その横を他のチームが駆け抜ける。
僕らは僕らのペースで、
坂を下り、
若狭湾の水面に近い高度まで降りてきた。
陽はもう落ち始め、
空の向こうは赤く染まる。
薄暗がりの中、
びゅう、と他のチームに抜かれていく。
僕らはふいに顔見合わせ、
「いく?笑」
「今から抜き返してみる?笑」
とイタズラ心に魔が刺した。
先頭を入れ替えながら、
後を追う!
緩やかな下りなのか、速度は乗る。
高速カーブの向こう、
その背中が視界に入った。
よし、
と思った所で、皆、
ダメだ〜、とガス欠。
気持ちは元気でも、
脚は使いきり酷使されていた様で、
不甲斐ない自分達に声をあげて笑う。
「ゴールどうする?」
「ウサミミポーズじゃない?やっぱ笑」
藍色の空、
薄暗がりの中を僕らはゴールした。
達成感というより安堵。
その達成感を感じたのは、
それからずっと後の事だった。
宿で4人、
マンタ君の交渉の成果で、
出てきた海鮮と、ビール。
泥の様に眠った朝は、
みんなでヨガ笑。
ソウ君は「何やってんねん笑」と爆笑しながら写真を撮る。
観光し、
解散して、
僕は実家に戻った。
連休最終日。
近江今津駅まで親父が子供を送ってくれると言うので、
僕は先に自転車で国道161の峠を越えて行く事にした。
幅員の狭い峠。
道幅が広くなると、
後ろで僕を抜けずに待ってくれていた車に、どうぞ、と右手を挙げ左に寄る。
ごおっ、と音を上げながら
真紅のトレーラーヘッドが横を抜け、
ハザードランプを焚きながらコーナーの向こうへ消えていった。
ペダルを踏んでいる間は、
日頃のシガラミから解放されている、
と感じる。
自転車は独りでも楽しめる。
しかし、チームの中で、
不安と感動を共有しながら、
苦痛と喜びを共有出来る事は、
それを遥かに上回る経験となる。
それは僕の魂に刻み込まれ、
怪我をしても、どんなに疲れていても、
僕をまた、サドルへと誘なうのだ。
という問いには、ミュージシャンのごとく、
ノーと答えるべきだろう。
分岐点はあってもただ前に進むしかない。
折り返して、幼児の様な余生を過ごすつもりはない。
気がつくと僕はまた、分岐点に立っていた。
たまたま与えられポストとはいえ、
パン屋フランチャイズのエリアマネージャーとなって、日々奔走し、試食を繰り返し、
太った。
新春を迎え、
ようやく仕事も落ち着いて、
一年半ぶりに戻ったシクロクロス会場は僕を優しく迎え受けてくれた。ハンディではないが、ヨッシャンと自転車を入れ替えての出走。
皆、
久しぶり、辞めてなかったんやな!、
可愛いボディで帰ってきたなー笑、と、スタート前に沢山の、沢山の仲間達が声をかけてくれて、
むしろ、
まだ仲間と認識してくれている事に僕はすっかり暖かくなってしまい、気がつくとレースはスタートしていた。
油断して落車した僕を追い抜き、
前を征くヨッシャンの背中を見て、
当時の僕が乗ってたSSCXを駆るヨッシャンの背中が遠ざかるのを見て、
そこに、
あの日の自分の背中を見た。
もう追いつけない。
そんな事を思いながら太り続けた。
初夏。
ヨッシャンからの連絡。
「ラファプレステージ、モッツの地元開催やけど。」
走りたい、と思った。
あの頃に戻りたい、と思ったのかもしれない。
少しずつ乗る機会を増やし、
お盆も子供と一緒に輪行して帰省した。
ガーミンは、若狭道を把握しておらず、
道なき道を案内してくる。
そんなガーミンが指示したトンネルは有名な心霊スポット。
なるほど、通行中にトンネル内の照明は消灯し、なんと自転車のライトも滅等。
真の闇となった。
片側一通のトンネル。
死を感じた僕はゆっくりと、真っ直ぐに走っていたハズが、シャーっという走行音が突然ジャリジャリと水溜まりを踏んだ音になり、前輪がガクンと跳ねたと思うと、右壁面に叩きつけられ、
転倒。
早く出ないと、前から車が来る。
すぐ自転車を拾い上げて出口に向かって血塗れの手を振りながら走った。
命からがら、とはこの事で、
トンネルを出てよく見ると「軽車両通行禁止」
との事。
我ながら情けない。
血塗れの手足を引っ提げて、
帰路についた夏。
怪我だらけの手足を引き換えにしても、体重は落ちない。
手首に大怪我を負って、握力が戻らないまま、
ソウ君に、
「ラファプレステージの練習行こう」と誘われ、
走り慣れてたはずの犬鳴山の急勾配があまりにキツく、
「ま゛、まっで!!」
と前を行くソウクンを、
命からがら呼び止める。
なんの事はない、15%くらいの斜度で死ぬかと思う程苦しく、
僕よりも、
ソウ君の方に「モッツ大丈夫かよ…」と不安を残してしまった。
昼飯を抜く。
あと一月。それくらいしか思いつかない。
朝昼を抜き、後はプロテイン。
寝坊したらローラーを踏む。
ようやく、2キロは減量出来た。
仕上げに淡路島走ろう。
台風で南部は通行止めとなったけど、
水仙郷を往復し、
軽ギアで回せば、
なんとかなるのではないかという自信を持った。
何より、ヨッシャンが痩せて峠で強くなり、
ソウクンは日々の鍛錬で、瀕死の僕を追い抜いて行く。
いや、僕が遅くなったのか。
答えは分からないけれど、何でもいい。
ラファプレステージ。
チームで、とにかく完走したいのだ。
ルートを見れば、
なるほど僕の親しんだ街並みを抜け、
前人未到の山道を抜ける。
おあつらえ向きと言うものだ。
僕は今、
ターニングポイントに立っているのだろうか。
違う。
今もその先を見ていて、
新しい世界の構築を夢見ている。
ラファプレステージ若狭。
もしかしたら、走り切ったその先に、
折り返し地点ではない次の道が、
そんな道がきっとある気がして、
僕らは走る事をやめようとしないのだ。
修理も考えたけれど、物欲に従うなら、これは恰好の機会である。
話題のWahooと迷いつつ近所の自転車屋に行ってみると、出たばかりのガーミン530、830が意外にも安い。センサー無しで3万と海外通販並みの値段で、それならとセンサー付きを即購入してしまった。
幾つかある新機能の一つに、防犯アラーム機能がある。
バイクを離れる時にセットしておけば微細な振動に反応してアラームが鳴り、携帯に「アラームが鳴りました!」と通知が来る便利機能。
これが、携帯との接続がおかしくなるとアラームを停止するのにずいぶん戸惑うし、ロックナンバーの解除を行う場合、やはりタッチスクリーンの830の方が良かったのではないかと考えてしまう。
他にも携帯電話との連携が素晴らしく、メールやLINE、着信の通知までしてくれるのは大変便利だ。
そんな新機能の中、肝と言っていいのはナビ機能の強化ではないだろうか。
そういえば、いつのまにかガーミンコネクトでルートが引ける様になっていて、スマホで作成したルートを同期して即スタート出来る。ナビも正確で、データ提供されているマップか非常に見やすい。
また、ルート作成機能が面白く、距離と方角を入力すれば自動でテキトーに作成してくれる。
山に入るルートになると、高い確率で地元の人しか知らない様な山道へ案内してくれて、これは中々楽しい(520等、ナビ機能があるガーミンは全て対応らしいです)。
たまに自動車専用道的な所も案内するので、注意は必要だけれど…。
とにかく、100km程、東に向かいルートを書かせてスタート。
阪奈道路までは大阪市内の幹線道路を通る。ハナから御堂筋逆走ルート。そりゃないやろ、とよく見ると、御堂筋から一本隣の細い道を北上していて、
なるほど、と向かう途中「いやこれ、心斎橋筋商店街ちゃうか…」と気付く。
人混みに突入しろとビービー鳴るアラームを無視して、堺筋から北上した。
1号線は流石につまらないが、
阪奈道路に入ると突然カウントダウンが始まり、ビープ音と共にガーミンの表示が「クライムモード」に切り替わる。
山頂までの距離と勾配をグラフィカルに伝えてくれるのだけれど、
元気なウチは楽しいが、ライド後半では死刑宣告にも見える微妙な機能だ。
阪奈道路といえば、峠道でも整備されていて、
車もビュンビュン走るので正直「嫌なルート引きやがって」と思ってると、路肩に向かいVターンさせられ、勾配10%超えの狭道へ。
クライムモードを見る限りそこそこキツくても登りきれそうで、何より人も車も来そうにない。
寂れたホテルや廃墟となった旅館を横目に山を登って行く。
ガーミンコネクトでルートを引くと、比較的こういった趣きある道を選択してくれるキライがある。
最近の運動不足で心肺メーターはレッドゾーンに入りっぱなしだが、誰かにアテンドしてもらうような人知れぬ山道をたった独りで走るのも、冒険心をくすぐられ案外悪くない。
奈良市内に入ると幹線道路での案内が続き、そこ自転車無理やろ!と思う場合も、地図が相当正確で分かりやすく迂回路をパッと目視で探すのもやぶさかではない。
特に、目的地も設定していないので距離を稼ぐだけのルートは実に新しい発見がある反面、
地方都市の大きな幹線道路を走り続けると、
イオンを中心とした大型商業施設とコンビニとラーメン屋が代わる代わる出てきて、
ずっと同じ景色が続く。
道の脇を車に遠慮しながら走る自分が、
まるで人の営みから外れてしまった気持ちにもなってしまう。
そんな孤独感の中でも頼りになる相棒といった感じで、
ガーミン530は次のルートを指し示す。
ウチに帰るにはあと峠ひとつ越えなければいけない。
起動したクライムモードは、比較的優しい勾配を指し示し、痙攣寸前の膝に僕はホッとする。
しかし、
クライムモード、
ナビ(マップ)、
計器類、
その他データを示す数ページ。
これらの画面をスワイプで捲れたならどんなに快適だろう、と810を使っていた僕は痛感する。
とにかく切り替えがやり難い。
左右についたボタンをコチコチコチコチと、
機能が素晴らしいだけに余計にフラストレーションが溜まる。
100kmほど走り、
この新しいサイコンを評価するとしたら、
特筆すべきはバッテリーが長持ちである事と、
ナビ機能の充実、携帯電話との連携。
この3点が明らかに強化されたと言ってよく、
そこに不満が無い人には、強く買い換えを勧める事はあまりない様に思う。
しいていうなら僕と同じ様にサイコンの寿命による買い換えで、530か830を悩んでる方には、
絶対的に830を推奨。
走行中でも安全に楽しく多くの機能を楽しんでもらえるのではないだろうか、
と、
僕自身、少々後悔している。
]]>子供たちを実家に預け
先にウチへ戻る。
棚の上で薄っすら埃を被ったガーミンにケーブルを差込んで充電を始めるけど、
走り出すまで後10分もない。
突然の思い付き。この空いた2時間だけでも久しぶりに走りたいと思ったのだ。
時計の針は15時半を回る。
タイヤに空気を入れ、久しぶりにジャージに身を包むと、
鏡に映る自分のダラシない腹に思わず「ダサっ」と独りごちて自嘲した。
通勤や、
移動する目的でロードバイクに乗ってはいたけれど、
最後に、自分の為だけにペダルを踏んだのは、どれくらい前だろう。
そういえば、先シーズン、
CXのレースは遂にひとつも走らなかった。
整備されたCXバイクは盆栽の如く部屋に飾られている。
振り返れば、
秋、娘の入院。冬、仕事の異動、まさかの異業種で、春になっても管理が全く儘ならない日々が続いている。
辛かった事を思い出に変える間もない程、忘れる事も忘れながら時は過ぎ、
自分を見失いかけては眠れない夜を過ごしている。
なんとか取った短い連休も、仕事が頭から離れない。
おりしも、
おりしもそんな時、
10年以上連絡を絶っていた恩師から電話が鳴る。
そんな些細なキッカケと、
僅かながら出来た独りの時間。
今なら走り出せそうな、そんな気がした。
自分の為にペダルを踏む事を僕は忘れていたのだ。
可愛らしく丸みを帯びた腹をひとつ叩いて、
クリートの嵌る乾いた音を聞く。
新調したサングラス、「100%」のスピードクラフトは視界良好、前傾姿勢でも眉毛の上まで良く見える。
いつもの練習場に行き、短いコースでタイムを計る。
ジュアッ、ジュアッ、とアスファルトにタイヤを擦り付ける。
なんだ、思った程落ちてないじゃないか。そう思った途端、もう脚が回らなくなった。
やっぱり、そんなに甘くはないか。でも、タイムなんか今はどうでもいい。
応える様にガーミンのバッテリーが切れた。
ただ走る事で、自分自身を取り戻せる様な気がしていた。なんとなく分かっていたけれど、
その一歩が、最近の僕には難しかった。
今は、また走り出せた事、
自分だけの為にペダルを踏めた事に、
少しだけ酔っていいと思うのだ。
日が沈む頃、閉店準備を始めたカフェに滑り込みアイスコーヒーを貰った。
息を切らしながら、
それでもいつもより饒舌に話す自分に、
店員さんも少し困惑していたかも知れない。
娘の入院、僕の昇進、
そういえば自転車も、
シングルからマルチに変わった。
目まぐるしい変化の中で、
ふと自分の立ち位置を振り返る。
僕のアイデンティティとはなんだろう。
子育てであったり、
仕事であったり、
人間関係、
自転車。
でもその全ては、
もしかしたら替えが利くモノかも知れない。
年末を迎えるタイミングで、
無理やりソウ君とのライドを敢行した。
彼は彼で、
長いフランス旅行から帰ってきたばかり。まったく自転車に乗ってない。
脚の仕上がりの鈍さまで歩調を合わせるつもりはお互い無かったのだけれど、
まぁ、丁度良い。
前回のkinfolkライドよりずいぶんユルいコースを案内してくれた。
牛滝の登坂KOMでは思ったより楽しく好結果が出て、僕は調子に乗る。
でも帰りの下りが何故か楽しくないのは
向かい風で全く加速しない事だと気付いてしまい、
先の登りの調子良さが追い風によるものだと気付いて失笑する。
それにしても登りでグイグイ加速するのは何とも気持ちの良いものだ。
僕らは大した距離を走ったワケでもないのにあっという間に脚が言う事をきかなくなって、それにゲラゲラ笑いながら帰路へつく。
そのまま、リュドラガールへ。
恭子さんも交えて、リュドラガールのマカナイ昼ご飯を頂く。
突然の寒波で冷えた身体でもライド後のビールは美味いし、
まかないと言う事で、スジ煮が出てきた。
リュドラでスジ煮とは…。
七味を掛け口に運ぶ。当然の如くビールに合うので飲みきってしまうと、
今度はグラスに赤ワインをトクトクと注がれ、ガチョウのフォアグラが登場。
無花果のジャムと一緒にパンに乗せて食べる。
するとスジ煮でスッカリ立ち飲み屋気分
になっていた脳内を、
一気にフランスのリストランテに飛ばされる。
メインは、野菜タップリのパスタ、かと思いきや馴染みある味わい。
爽やかな酸味の後に懐かしい風味。
塩昆布を使った「塩焼きソバ風パスタ」
だ。とはいえ香り高いレモンを使う等して、野暮ったさのカケラもなく、仕上がりに抜かりはない。
抜かりのないパスタが美味すぎて、僕は品もなくズバズバ食べてしまう。
育児、仕事、趣味も含め、
やるべき事、やらなければいけない事に絡みとられ、
僕はアイデンティティを見失う。
ライド中、
早々にくたびれ掛けた僕らをトレーニング強度で抜いていくローディーを見た。
なんとなく、いや、
変にワクワクしながら、追走を始める。
もちろんアンフェアで迷惑な勝負だという事は承知していて、
追い縋り、抜く瞬間は自嘲気味に会釈するけど、その後また抜き替えされたりして。
それでも無心にペダルを踏む事で、
何かを取り戻す。
僕は自転車の為にペダルを踏んでいない。
グンと進むその力は暮らしの中で散り散りになった自分を纏め、
ニュートラルな場所へと戻してくれる。
また一つギアを上げる。
加速する景色が瞬時に後方へ流れ飛ぶ。
アイデンティティは常に僕の中にある。
自転車が趣味で良かったと。そう感じながら、料理に舌鼓を打ち、ぼんやりと時間を忘れる僕にソウ君が言う。
「ほら、もうそろそろ帰らないと怒られますよ笑」
ポートワインをご存知か。
かの赤玉ポートワイン(現赤玉スイートワイン)の原型。
例によってライド上がりにソウ君にご馳走になった際、彼が小さな器に注いだ、ブラックパールを思わせる液体。
それは深く、甘美で、脳髄を痺れさせてくれる。
今年の暑さは異常だった。
ようやく少し和らいだ気もするので、
気まぐれにソウ君をライドへ誘う。
二人ともKINFOLKライド以降
あまり乗ってないので、
とりあえず葛城セブンスアタックの1つ、犬鳴ルートへ。
以前、ヨッシャンと三人で登ったが、
今回二人で登るとヤヤキツい。
いや
かなりキツくて楽しめない。
ソウ君が、
『ヨッシャンと走った時は良い感じに休憩あったけど、今日はキツい』と漏らす。
あの日ヨッシャンは膝を悪くしていたのだけれど、
僕は折り返しては走る事で疲労感も満足感も十分だったし、
何より楽しかった。
実はそれがほど良く脚を休め、
加えて雑談しながら走れた事。
三人で迎える頂上の景色は、
それはそれで記憶に刻まれる。
はたして、
サイクリングは実力が均衡してる者同士でなければ楽しくないのだろうか。
スピードが合う人、
気の合う人、
どちらと走ってもその醍醐味はあるだろう。
でも、
両方合っていれば最高かというと、
それもまた違う。
ライド後半、
山を下りきった僕らは、
それでも比較的下り調子の帰路にある
そこそこの登りで、互いに悶絶してみせる。
苦しいのに、
なぜか自嘲気味に僕らは笑う。
あと数キロでゴールというあたりで
ソウ君が
『今日は珍しくご飯を炊いてきました』
と。
なんでも日本でいうホワイトシチューの原型を仕込んでるとか。
それは、
とにかく柔らかくサクっとナイフが入るジューシーな鶏肉、
噛めばジュワッと口内に甘い鶏の脂が
生クリームと合間って広がり、
仕上げにハーブの香りが包みこむ。
全くもって、美味い。
素材の味を極限まで引き出すその手法にもっていかれる。
僕は年季の入ったカウンターで
ソウ君の料理に舌鼓をうつ。
国産の緻密なピルスナービールには勿論、ロゼワインにも大変合う。
相手が僕なのでメンドくさそうに「まぁ、残り物ですが」とグラスにロゼを注ぐソウ君。
先日のKINFOLKライドの話をしながら、まぁ、2年に1回くらいの感じでも出来ればエエなぁ、と話していると、
ブルーチーズベースのケーキと、
それに合わせたポートワイン。
ポートワインはアルコール度数19%強の、糖度の高い、デザートワインとしてはキツいけれど食後に飲むと充足感がハンパない。
「冷やして氷入れて飲むのもアリ」とソウ君。
そうだ、
赤玉ポートワインの、銀座飲みってヤツだ。
何か合点がいった。
その原点を知り本質を知ると、知見が広がり「ワインに氷なんて(笑)」という偏見をブチ壊してくれる。
自転車も似てるのかも知れない。
結果だけ見ると、バカバカしい、
そんな自転車の使い方、乗り方は間違っている、そんな文化は沢山あった。
あったはずだ。
でも、その発祥に、
真髄に触れる事。
それはきっと、
深く、甘美で、
脳髄を痺れさせるはずなのだ。
すっかりこの美味さにハマった僕は、
早々にポートワインを買って帰った。
コレは、と思った自分を先駆者だと信じ、それに触れる事の興奮と充足感。
酔っ払った僕を誰かが笑っても、
その興奮は僕だけの物だ。
葛城山で十分に脚を削られた後、
グラベルの登りを、
皆フラフラと後輪をスタックさせては登っていく。
とはいえ不思議なもんで、
未舗装路というのは
なんだかワクワクさせる魅力がある。
よくもまあ、ソウ君こんな道を見つけたモンだ。
この辺りの道に詳しい中井さんも、コレはいい道ですね、と驚いていた。
それでも辛さは皆隠せない様子で、
その中でも、
玉虫の様に妖しく滑らかに光るKINFOLK CXを駆る、フジノさん。
(photo by 高橋君)
デニムのハーフパンツにTシャツ、
ウェストバックという出で立ちで、
言ってみればLAスタイル。SK8、ピストカルチャーをバックボーンに置くKINFOLKへのリスペクトはこの日一番だったかも知れない。
そんな身なりながらも、集団の真ん中を維持してクールに走る姿は、まさにキングオブスタイラー…。
励ましあってはどうにかグラベルの峠を越え、
ソウ君の「時間も押してるんでショートカットで行きます」の声に皆いくらか安堵。
灼熱の街道を走るけれど、むしろ平坦と信号待ちの休憩が若干救われるといえばそうだったかも知れない。
リュドラガールに到着し、
一旦解散。
僕らは近くの公衆浴場へ。
まだ5時にもなってないという事で、
風呂上がりに夕暮れを眺めるのはなんだか心地よい。
リュドラガールへ着くと、
もう宴の準備は終わっている。
乾杯のビールが格別だが、この後の期待感はライドへの期待と等しいか凌駕する程。
まずは冷製コーンスープ。
口にすればとにかく甘く、その後コーンの風味が押し寄せてそれがコーンの旨味だとやっと分かる。
次の冷たい前菜は、
パンとトマト、モッツァレラ。
これがまた
キンキンの泡と、とにかく合う。
そして
内蔵に優しい温かい前菜、アンディーブのグリル。
生ハムがまた美味いのだけど、アンディーブのほろ苦さと生ハムの優しい甘さ、そしてコレを泡で流し込む贅沢。
そんな最中、
まずはイベントその1
「NICE YOUR BIKE賞」の発表。
各自三票をカッコいいと思ったバイクに投じ、最もカッコよいバイクを競うイベント。
チチダ夫妻がワンツーで持っていき、
3位はCONERの西山さん!
夫妻のバイクは勿論、西山さんのセンスと、リスペクト感も良い!
店内は一層盛り上がり、
料理はここからが本番。
出ました、フォアグラ。
シェフである恭子さんの指示に従い、
パンに塗りつけながら食べると、
コレはなんだろう、
美味さしかない。
要は脳が
美味い、
以外の信号を出さないのだ。
〇〇の風味が、とか、
隠し味に〇〇を、とか、
そんなタワ言を言わせない圧倒的圧力。美味さ。
前に座るコーちゃんがフォークを口に運ぶ度、
「…信じられへん…」と呟いてたのが分かる。
イリュージョン過ぎてもう一杯、
となった頃、
先のレースの授賞式。
言ってしまえばハズレ無しの懸賞。
ヨッシャンが用意したLAのお土産品に、皆、いいなぁ、ヤバいやん!と大盛り上がり。確かにヨッシャンしか用意出来ないであろう品物も。
加えてKINFOLKのクラシックデカールのプレゼント。コレはホント、KINFOLK OWNERには垂涎のお土産だ。
宴は、続く。
次は白トリュフのパスタときた。
過去に食した記憶があったけれど、
それとは別物。とにかく香りの深さが違う。
何、この調味料は!
と叫ぶと、
「調味料ちゃうわトリュフや!」
とソウ君の子気味良いツッコミ。
続けて出るのはオマールエビ。
ミソを使ったソースと、その奥のパインとマンゴーのソース。
それぞれを味わい、混ぜて食ったらビックリする程、エビの旨味しか舌に残らない。エビの旨味にブーストが掛かる。
舌が完全にやっつけられて、
お腹もそろそろパンパンてタイミングでやってきたメイン。
牛頬肉のワイン煮込み。
いやいや、サイドのジャガイモがヤバい。種類の違うジャガイモをスライスして積み重ねた物を切り出していて、
コレを尋常でない柔らかさの牛頬肉と一緒に口へ運ぶワケだ。
まさに、口福。
ココは赤ワインと共にグイッと。
隣テーブルを見ると、
峠で凌ぎを削ったモッちゃんが撃沈。
そりゃそうでしょ、気持ちいいもの。
最後に、ソウ君お手製のパラコードブレスレットのお土産。
シッカリしていて、夏場は手首に一層映える。特にG-SHOCKユーザーの僕は重宝している。
こんなライドは過去に経験がない。
手前味噌かも知れないけれど、
集まった人の感覚。価値観。
新しい出会い。深まる絆。
やっぱり
KINFOLK OWNERS だった。
はっきり正解だったと思う。
思わず次を求めてしまう程最高だった、
今回のKINFOLK OWNERS MTG。
KINFOLK bicycle代表のヨッシャン、
ビストロリュドラガールのソウ君恭子さん。ソウ君はコースからイベントまで、何から何まで全部やってくれて、
成功の殆どは彼らの手による物だと思う。
そして何より、
皆の温かい雰囲気。
まぁ僕は酒飲んでただけですが…
集まれたらいいですね、また。
KINFOLKの名の下に。
和泉山脈の主峰、葛城山。
標高850mを誇り、7つの登りコースを持つ事でサイクリストの間では知られていて、
KATSURAGI SEVENS ATTACK と呼ばれてるとかなんとか。
僕らが走るのは、つづら折りが多く比較的登り易い塔原ルート、その入り口にある自販機でまず補給。
ここに来る途中、メカトラブルがあったチチダさんの奥様ことヨーコさん。
旦那様がサクサクっと調整。夫婦でロードバイクなんて、なんだか羨ましい。
ディスクブレーキ仕様の彼女のKINFOLKは、小さめのサイズでも程よいスローピング量とバランスの良いジオメトリで、700cのホイールに何の違和感も感じない。
特筆したいのはハブに施されたハンドペイント。
ヘッドバッヂと同じウサギが描かれていて、ある意味これ以上の高級ハブはないだろう。
「そのハブ、ヤバいですよね…」
「そのヘッドチューブの径って…」
なんて、保冷ボトルも効かない蒸し暑さなのに、
少し止まる度、自転車談義に花が咲いてしまう。
木陰の林道を少しづつ登りだす。
シンガリをソウ君と入れ替わり、
僕が先頭を牽く。
ソウ君の指定した、登坂中の休憩ポイントまでガンガン踏んでいく。
標高が高くなると案外気温が下がって、
熱中症の心配はなさそうだ。
時折、木陰を抜ける風が心地いい。
稼いだ標高に反比例して会話が減っていく。
静寂の林道にオジサマ方の激しい息遣いだけが響き、繰り返すツヅラ折れに皆がウンザリした頃僕は辛さをひた隠し、
「こう何度もツヅラ折れがあると、流石に馴れてきますよね。」
と言い放つ。すると、
シン…
と皆静まりかえる。
「まぁそんなワケないですけどね…」
と付け足すと、
マッコイさんから速攻で
「ウソなんかい!」とツッコミが入る。
シンドイながらゲラゲラ笑っていると、
そんな僕らの脇をタカハシ君がヒュッと抜け出し先回りして写真を撮ってくれる。
その動きはもう、別次元で飛び回る妖精のようだ。これは、さすがとしか言えない。
ソウ君の指定した休憩場所がよくわからない、と言うより、彼が言っていた条件が揃う場所なら今すぐにでも止まりたい。
倒木があって路面が切り替わってて…
比較的平坦。
よし、ココだ。ここにしよう。
止まってすぐ、首根っこにボトルの水をブッ掛ける。これが堪らなく気持ち良くて、掛け合ったり座り込んだり。
オーダーフレームのエクタープロトンで参加のタツシさんが、
サイコンで標高を確認して、もう結構登ってるよ、と言ってくれた。
チチダさんは速いタイミングで上がってきたヨーコさんに凄い!と言葉を掛けていて、ほんと良いご夫婦だな、と。
チチダさん自身も大きなカメラを背負ったまま走っていて、
よく見るとライカだ。ご夫婦の物に対する拘りを感じる。
皆揃い、シンガリのソウ君が止まるやいなや、
「え、(休憩は)ココじゃないですよ」
うそ。
「もっと上ですって。まだ四分の一程しか走ってないですよ。」
うそやーん!
軽い絶望感の中、
僕らは再び登り始めた。
もうヤケだ。
そんな僕と並走するのは、
SKRKメンバーであり、シクロクロスでの強力なライバル、モッちゃん。
登坂も佳境、少しづつ口数が減り、
ここからは自転車での会話が始まる。
勾配がゆるくなり、足を緩めると、
そこでスッと前に出て来る。
休ませてはくれる気はなさそうだ。
僕らは抜きつ抜かれつ、
うわキッツ。と思ってるとずいぶん高い所まで登った様で、
ふと、
コーナーの向こうに見下ろす和泉山脈。
突然脳裏に、そういえは今夜、高級ディナーやんな?
なんて、今夜のスケジュールがよぎり、
再び隣のモッちゃんに意識が戻る。
そしてこの絶景。
なんだか分からないけれど空に飛び出しそうな解放感。
…た、楽しい…
思わず漏らした言葉に、
ハハッ、とモッちゃんが呆れた様に笑った気がした。
すぐ後ろでタツシさんがサイコンを確認しながら、
「もうそろそろのはず。
多分、ソウ君の言ってた「四分の一」は、優しい嘘ってトコじゃないかな」
なるほど、と、
僕らは次の休憩ポイントに到着、確かに後少しってウソより良いよね、と笑った。
全員揃ってソウ君が、
ここから頂上まで後少しですが、
まあまあ登るんでシンドイ人はココで休憩してて下さい、また戻ってきますので、と。
登るか、休むか。
今回、唯一ISP(インテグラルシートポスト)を採用していてるKINFOLKを駆る、イトウさんも悩んでいる。
ISPは機能的な利点も多いけれど、
オーダーフレームの場合は加えて、サドル付け根まで美しく塗装されるので車体全体の雰囲気がスマートになり、高級感をもたらす。
彼のKINFOLKは、シルバーの塗装がテーパードヘッドチューブの美しい曲線と溶接の滑らかさをより引き立てていて、控え目にターコイズブルーのアクセントが入るのが涼やかだ。
さて、
じゃあ頂上目指しましょう、
と僕らは出発する。
悩んでたイトウさんも、ままよ、
と言わんばかりに走り出した。
登頂直前は、登りもあるが大きな下りもあって、スピードが乗る。汗が一気に冷えるような心地良さに僕らは声をあげた。
看板が見え、
ようやく登頂。
マッコイさんが戯けながら「登頂ノート」に名前を記し、皆それに続く。
イトウさんは「登頂してよかった…あそこで休んでたらきっと後悔してた」とシミジミ呟いた。
その感触はきっと、サイクリングの醍醐味なんだろうと僕も改めて思った。
それから先の休憩ポイントまで戻ると、
残ったヨッシャン達が何故登らなかったのか、と反省会をしていて、僕らはまた笑ってしまった。
「モッツは下り下手なんでラインなぞると危ないですよ笑」なんて、ヨッシャンが憎まれ口を叩きながら、
下りは先頭を引く。
牛滝ルートの下りコース。
往年のイエティカラーを模したヨッシャンのニューCXバイク。
ディスクブレーキを装備しPAUL COMPONENTSで固めた彼のKINFOLKは、太いロードタイヤも相まって、
最大斜度20%を誇る下りでも抜群の安定感で曲がっていった。
その後ろをタツシさん、僕、と続き、
僕はブレーキレバーに指を掛けっぱなしで必死で付いて行く。
ヒヤヒヤしながら
ようやく葛城山をくだり、
牛滝の休憩所で皆、ひと息つく。
登りの、
自分に打ち勝つ達成感とは違う、
スリルを乗りこなし、ゲームをクリアした様な安堵に似た達成感に浸る。
その興奮の全てを、
こうして仲間と共感出来る。
まったく、
自転車は面白い。
(続く)
(photo by 高橋君)
]]>KINFOLKというブランドを選ぶ。
それは何か少し、純粋にスポーツバイクに乗ってみようというのとは、何か違う様に僕は感じている。
どんな人がこのブランドを
選んでるんだろう。
もし一緒に走れるなら。
そんな人達と、気持ち良いライドを。
最高のディナーを共に出来るなら。
そんな気持ちで企画した、
今回のKINFOLK OWNERS MTG。
なんと、満員御礼。
当日の朝には15名もの所縁あるライダーが集まった。
遅刻気味に現れた僕に、
叱りながらコーヒーを出すソウ君。
いやいやちゃうねん、
と言い訳しながら飲み干したコーヒーカップを置いて、外へ。
まず、KINFOLKbicycle代表のヨッシャンが挨拶。
簡単に1日のスケジュールを説明して、
早々に僕らは走り出した。
10名を超えるライドとなると、
安全への配慮で緊張はある。
でもすぐに幹線道路を外れ山中に向かう僕のお気に入りのコースに入ると、
この大世帯がたまらなくワクワクさせるのだ。
熱中症になるかと思う猛暑だが、
青と白のコントラストが美しい空は梅雨明けを宣言しているかの様で、
蒸し暑さを清々しさが凌駕する。
そんな序盤、
ソウ君がミニレースを提案。
山中の短い登りの直線。
勝った人には、
お土産の抽選券を引く権利が!
ってお土産選べるんちゃうんかい!
…そう、お土産を選ぶ人を抽選する権利が当たります(笑)。
ヨッシャンは安全確認、僕はゴールラインで判定する。
ヨーイどん!で走り出し、皆、
大人気なくムキになる。
ここはマッコイさんが勝利を攫う。
長身で手足が長く、
細いチューブ、大柄なジオメトリとホリゾンタルで仕上げた、クラシックライトブルーのKINFOLKがよく似合う。
いい歳の大人が必死になればその後は自然と笑いが出るモンだ。
とはいえ、ムキになり過ぎたムーブメントのホリ君はそこで随分脚を削ってしまいペースが落ちる。
同じくして、先のレースで3着と健闘した為か、SAUCEジャージやKINFOLK CXワンピースのデザイナーであるコーちゃんも
一緒に落ちる。
苦しそうにペダルを回す二人に、
もう少しで休憩ポイントですから。
と伝えても、
「オトナはみんなそういうんですよ…」
と、まるで励ましにはならなかった模様(笑)。
ランチ予定の休憩ポイント、ウサギのいるパン屋さん「そぶらの森」はスタートから1時間半くらいの場所にある。
アップダウンのキツい一般道、
陽が高くなり、だんだん辛くなった頃、
脇道に逸れてか細い林道へ。
せせらぐ川の側、木陰に吹く風はさながら自然のクーラーといったところで、
皆口々に涼しい〜っ、と絶叫。
その山道の先に、「そぶらの森」が現れる。
印象的なウサギ小屋は、
KINFOLKオーナーで無くともつい駆け寄ってしまう。ウサギは愛らしい。
その小屋横から伸びる自転車ラックは長く、ゆうに20台は掛けられそうで、そこに並んだ15台のスチールバイク。
そう、この日KINFOLKでない人も皆スチールバイクで参加してくれたのだ。
一望して「文化が過ぎますね(笑)」とCORNERのオーダーフレームで来てくれた西山さんの言葉に思わず笑ってしまったし、
なんだかニッチな趣味を分かり合える同志を見つけた様で嬉しい。
そしてよく見るとCORNERのロゴ上にマジックで「KINFOLK」と書かれている。イベントへのリスペクトを感じつつも思わず噴き出してしまった。
パン屋の作りは大きな小屋と言えばいいのか、窓の代わりに網戸を全面に使い、
裏の川を滑る冷たい山風を小屋に吹き込ませていた。
皆思い思いにパンや石窯で焼いたピザなどを買って、
軽く自己紹介がてら雑談。
この日僕は初めてお目にかかる方も多く、奥様がディスクブレーキのKINFOLKに乗られているチチダ夫妻。旦那様はMUDMANでのご参加。
そして先の西山さんと一緒に参加頂いた中井さんは飲食関係のお仕事が長いそうで、色々お酒の話も聞ききつつ、中井さんのPanasonicのホイールもシャマルミレなんですね、なんて話をしていると、
皆、裏の川へドボンしに行ってるとか。
実際、多くの家族連れが川遊びをしに来ていて、相当気持ち良さそうだ。
僕も行こうか迷ってるとヨッシャンが空のボトルに冷たい川水を入れて僕の後頭部に吹きかけてきた。
うわわっ、と顔が引きつるが、
気持ち良い!
子供の様にはしゃぐ僕らを、
金網の向こうから二羽のウサギが見つめていた。
心地よい休憩を終え、
僕らは、葛城山へと走り出すのだ。
続
(photo by 高橋君)
「…またかよ」
つい、僕は声に出してしまった。
他に誰もいない、葛城山の山中で。
何度も繰り返すつづら折りに、
さっきココを通ったのではないかという錯覚にすら陥った。
くだんのKINFOLK オーナーズミーティング、最後のチェックライドをしてる最中で、葛城山へ入るなり僕はソウ君を出し抜いて加速、
タイム更新を狙ったその30分後の話だ。
梅雨のうだる暑さと繰り返すコーナー、
集中は薄れ、ぼうっと仕事の事など考えてしまう。
先日、辞令があり、
僕は昇進、そして後輩を
今の僕のポジションへ昇進させる、という話。
その後輩は過去、このブログにママチャリ魔改造の件で何度か登場してる旧知の中だけど性格が違い過ぎて、
僕の仕事をとりあえずトレースする事にすら不満気だ。
二言目にはそれなら辞めると。
辞めたいならヤメろ。
代わりはいるさ。
僕はそんな苛立ちに任せてペダルを押し込んだ。
確かこの先は、
少し平坦で次のコーナーで一旦登りきるハズだ。
そのコーナーを曲がって軽い絶望。
また同じつづら折りが続く。
マジかよ、こんなキツかったっけ…
それでも、途中何台か抜く。
抜くと一瞬、
自分が速いような気持ちになるが、
そんなワケはない。
自分より速い人は確実に前を走ってるワケで。
あぁ、そうか、
アイツは追い付いてきたんだな。
特に理屈もなく、
僕はそう思った。
先日、彼に自転車の整備でネジをナメたって話をすると、
「モッツさんは機械弄りのセンスがないんでしょうね笑」なんて、リッターバイクのエンジンも自宅でバラしてしまう機械好きの彼は笑っていた。
僕は、サドルから尻を持ち上げた。
心拍は180を超えている。
どう考えても機械弄りじゃ彼に敵うと
思えない。
僕は何を思い上がっていたのか。
たまたま、僕が先を走り、
ラインを作っていただけの話。
得手不得手が違えば、
当然ラインは変わる。
引き継ぐ事は、
絞ればたったひとつ。
ゴールラインの位置を教える事。
他にはない。
葛城山の登頂ルートは、
一旦ゴールと見せかけてからの最後の
アップダウンがキツい。
その、最後の坂で穏やかにツーリングしてるロードバイクを数台抜いた。
最後の坂、僕は速度を落とさない。
そのまま登り切り、
山頂が見える。
そして、
僕は何故か拳を上げていた。
…気分がいい‼
うだる梅雨の空気を切り裂いて、
山林から真っ青な空が僕を睨んだ。
いつの間にかショウモないプライドに
囚われていた僕を、
気が付けば追い越していたようだ。
ソウ君がくれたレモンケーキを齧ると、みるみる体力が回復する。
大切な事はいつも、
自転車が教えてくれる。
いや、きっと自分を思い知らせて
くれるならなんでも良いのだろうけれど、
教えてくれるのだ。
矮小な自分を。
それでも前に進める、
自分を。
シャマルミレというカンパニョーロ製のアルミハイエンドモデルを使っているのですが、
スポークの太さや組み方、何よりリム面までブラックアウトされたルックスが気に入っていて、月間500kmくらいの走行でかれこれ2年以上使ってますが、目立つ退色や色ハゲもありません。
割高な上、寿命も短いと言われる専用の青いブレーキシューもようやく交換時期という感じで、乗り方にもよるでしょうが噂される程削れるとも思いません。
とはいえもう流石に交換時期。
ブレーキシューを交換してみます。
2011年以前のカンパニョーロレコードのブレーキシューは、
なんと船に挿してあるだけ。
パーツクリーナーでカスを飛ばして、反対側からラジオペンチで摘んでにゅ〜っと抜くだけです。
すっごい楽にというか、
気持ち良く抜けます。
嵌める時もしっかりパーツクリーナーを船の中やシューに拭いて、
指で押し込むだけ。またしてもにゅ〜っと入っていくので、なんだか癖になりそうです。
この様にして交換する事で、
角度調整ナシでシューを交換出来るとの事。
作業しやすい様にホイールは外した方がいいですが、船を外したり付けたりするより随分楽だと僕は思います。
近年のカンパニョーロで同じ事が出来るか分からないのですが、
2011年以前のカンパニョーロを使ってる方は、一度この取替え方を試して頂きたいです。
いちオーナーとして思う事は、
このブランドを選ぶ人の印象として、
美意識が高い人、
サブカルチャーに傾倒してる人、
常にアンテナが高い人、
自分のライフスタイルを確立している人、
などなど、
自転車だけに傾倒していない人が多い様に感じます。
そして、それはおよそロードバイクを速く走らせる為に必要な要素ではないでしょう。
しかし自転車を楽しむ為には
重要な要素だと僕は思いますし、
そんな風に
自分のスタイルに馴染む自転車を求める人にこそ、オーダーフレームの必要性を感じます。
そんな事を考えていると、元々人が好きな僕は、
同じKINFOLKのフレームに乗る誰かに会ってみたい、共に走ってみたい、と思ってしまうのです。
KINFOLKオーナーズミーティングを開催します。
2018年、7月15日。
KINFOLKのオーナーの方は勿論、由縁、ご興味ある方であれば、誰方でも御参加頂けます。
大阪泉南、初夏の香りが漂う山々を、険しく美しい葛城山を息を切らして走りきり、良い感じにクタクタになったら、
夕暮れ、少し早目にソウ君のお店、
ビストロリュドラガールの本格フレンチで乾杯しましょう。
KINFOLKBICYCLEのヨッシャンからは、KINFOLKオーナーには垂涎のKINFOLKクラシックデカール等、
ここでしか手に入らないプレゼントや
景品、そして、
ライド前のモーニングコーヒーもご用意しています。
【集合場所】リュドラガール 〒590-0403 大阪府泉南郡熊取町大久保中2丁目28−6【集合時間】7/15 集合9:30スタート時間 10:00〜フィニッシュ時間 15:00頃 ディナースタート時間16:30終了20:00【参加費】7000円(消費税、お食事代(ソフトドリンク含む)が含まれます。アルコールはキャッシュオンになります。ライド中の飲食代等は含まれません。)【参加資格】自転車保険に加入している事。
【参加方法】
下記URLよりFBページで参加表明くださいます様、お願いします。
お問い合わせも同ページにてよろしくお願いいたします。
https://www.facebook.com/events/597129507396160/?ti=icl
コースは、70km、1500upといった所で、どなたでも楽しんでもらえる様なライドにしたいと思っています。
関空から橋を渡ってすぐと、
遠方からのアクセスも比較的良いと思います。
ぜひ御参加ください。
日常から逸脱した時間を、
共に走れたら、と思います。
自転車は、人が跨がる様には出来ていない。
いやそんなワケはないのだけれど、
男性のサイクリストであれば、
どんな高性能なレーパンを履いていたとしても、一度や二度は、
そう感じた事もあるのではないだろうか。
上手くいいポジション(GBP)に収まってくれず、
ゴリゴリと、
ゴリゴリとして、
とても全力でペダリングなんて出来ない、そんな時もあったのでは。
先日、ライド前の着替えでヨッシャンが
、使ってみます?とアソスのシャモアクリームを差し出してくれて(二度つけ禁止)初めてシャモアクリーム、これはサドル擦れを防ぐ目的の物と聞いていて、あまりサドル擦れ等はしないタイプの僕は必要無いと思い込んでいたのだけれど、大変調子が良い物だった。
ちなみに使用感は、メントールな、
スッーとヒンヤリで若干刺激的だ。
まさかと思い、
以前試供品で頂いたraphaのシャモアクリームを使ってみる。
やはり、そうだ。
あのゴリゴリ感がない。
男性の股間にぶら下がる、
2つの、
戦車に例えるなら、砲塔と車体だ。
戦車を戦車たらしめているのは間違いなく砲塔で、その格好良さに異論はないと思うのだけれど、
砲塔が吹っ飛ばされても車体さえ無事なら生還出来るので、やはり車体だけは守らなければならない。
その男性の股間にぶら下がる車体側の表面は殆どの場合滑りが悪く、
言って見れば萎んだゴム風船の如くシワシワと内股にまとわりつく。
そこで、シャモアクリーム。
raphaのソレは刺激は少なめで高級化粧品の様な良い香り。
適量指に取って、内腿と会陰に塗り込む。するとどうだろう。
萎んだゴム風船は、
ぷるんぷるんのゼリーの様に、
つるつると然るべき場所へ移動する。
ゴールデンボールが
ゼリーボールになった、まさにそんな風で、
僕はシャモアクリームを誤解していたと悟った。
しかし改めてシャモアクリームについて調べると、
正しい使用法はおろか、感想すらもどこか恥ずかし気に書かれている。
自転車と人の重要な接点という目を逸らせない部分でありながらプライベートな事情がたんと詰め込まれた厄介な部分だけに、羞恥心に負けて皆本当に伝えたい事を伝えきれてないといった様子。
女性に関してはサドル擦れの事だけしか書いてないかと思いきや、
やはり恥ずかし気に書かれている印象なので、きっと何か赤裸々には言えない有効性があるのだろう。
そんな誰もが恥ずかしい中で、
シャモアクリームを作った人は天才だと思うし、それを高級化粧品のレベルで商品化したraphaに僕は敬意を表したい。
もしこの商品に分かりやすいキャッチコピーを付けるとしたら、
「金玉、もう大丈夫。」
とか、
「金玉、気にならない、夏。」
などが、相応しいと思うし、
ゴリゴリに悩んでる方や、
良いレーパンを使ってる方には、
ぜひお試し頂きたい。
タイムに顕著に表れる。
なので、
太ってしまうと記録更新は絶望的だけれど、
そんな事は御構いナシに、記録ポイントのある変電所までは必死で踏む。
葡萄坂は好きな峠だ。
勾配がキツい所もあるけれど、
変電所までは一気に登るには丁度いい距離だし、登り前半は街を見下ろせるので、グングン登っていく気持ち良さがある。
変電所から奈良側に少し降って登り返し大阪市内に戻るこのコースは、交通量も少ない上、気持ち良く速度が乗る下り、そして、
度々現れる登りがまた良い。
そして十三峠を奈良側から降る。
ちょうどお昼も過ぎたので、
そろそろ昼食を摂りたい。
十三峠の麓を出て国道沿いすぐにあるオシャレ自転車カフェ「FRANCY JEFFERS CAFE(FJC)」。
インスタグラムに特化した、店内も、食事も、何をどう撮っても写真映えするカフェ。
これはもう、インスタ映えのインスタ映えによる、インスタ映えの為のカフェと言っていい。
でも食事代が少々強気で、
前回訪れた時は、
コーヒーとハーフサンドのセットで1260円と言い渡され驚いたのだけれど、
最初から分かっていればどうという事はない。
それに、値段に恥じない味とサービス。トイレすら高級ホテルのようで、居心地としては満点だろう。
軽いライド時でも現金2千円くらいは携行してるワケだし、たまのソロライドにちょっとくらいの贅沢はツキモノだ。
そんな気分で、
久しぶりにFJCに寄る事にした。
カウンターでメニューらしきモノを探すと、真っ先にボリュームのあるハンバーガーセットが目に入り、
デカデカとコーヒーセットなら100円引きと書かれているが、肝心のセット価格を見つけられない。
だけど、レジでまごまごしてるのもカッコ悪いし、1500円くらい覚悟しとけば少々足が出ても別に構いやしない。
僕はスマートに、ハンバーガーセットでコーヒーもお願いします。と、注文。
首元のジッパーを少し下ろし、
フッ、と小さく溜息し会計を待つ。
『ではセットで…2160円になります。』
…なん…だと…?!
峠で流した汗とは明らかに違う何かが
サイクルキャップを湿らせる。
二千円は、強い。
強気、なんてモンじゃない。
てか、コーヒー100円引きって、
その割引き率、お得感あります?!
そもそも現金二千円しか持ってないやん…
…いやまぁいい、焦るな、
そうだ、こんな時は現金じゃなく、
カードだ。クレジットカード。
現ナマよりクレジットカードは心理的ダメージが少ないって、何かに書いてあった気がする(カード破産への道 著:角 破沙夫)。
僕はカードで支払いを終え、それでも
広い店内を落ち着き無くウロウロしながら、
僕が一国の首相だとしたら、
ビッグマックセットを引き合いに出されて世間から糾弾されているに違いない、などと考えていると、
呼出ブザーが鳴り、どうやって食うのか分からんデカイバーガーが眼前に現れる。分けて食う人もいるというが、
席についた僕は雑念を振り払うように、
両手でガッシとバーガーを掴み、齧れるトコから食っていくスタイルで挑む。
だってハンバーガーなんだもの。
重ねたハンバーグからベーコンがベロンと舌を出している。
まさに、
肉vs肉。カリカリの香ばしいベーコンにジューシーなハンバーグ、
特筆すべきは、完璧な加減で火を通した玉ねぎの輪切りがまんまゴリっと入っていて、
とにかく甘い。ライドで失われた糖質を玉ねぎで補給する。
甘く、ジュワッとしながら、ショキショキとした食感がたまらない。
玉ねぎの汁と肉汁が絡みあった汁が紙袋溜まり、
添えられたフライドポテトをその肉汁に浸けて食うと、これがまた美味で、
スペシャリテを名乗るコーヒーにベストマッチする。
これは、美味い。確かに。
オジサン独りのランチとしては些か高級な気もするが、
例えば、サイクリングデートならばどうだろうか。
『あの、よかったら十三峠ボクと、あのその…』
とか言って誘い出し、
あの娘僕がKOMを全力で獲りに行ったらどんな顔するだろう。
そして、仕上げにFJCへ。
ロードバイクデートの汗臭さを払拭して、お洒落でスポーティでお腹も満足なデートを演出出来るかも知れないし、
全力でKOMを獲りに行く事はデートではオススメ出来ない。
そしてふと我にかえる。
これ、また太るヤツでは。
帰り道は少しでもカロリーを消費する為に大和川の河川敷からIKEAでも目指そう。
特に面白くもない、河川敷ルート。
そう思ってたのに、
なんだろうか、疲れた身体にフツフツと湧き上がる幸福感。
ロードバイクに乗る全ての人がそう感じるかは分からない。
ただ、自転車が自分の、いや。自分が自転車の一部になった様な感覚が、
カロリーの消費を後押しした。
ビールを買って帰宅。
シャワーから上がり、まだ陽の高いウチにプルトップを引くと、
ヨッシャンからメッセージが届く。
『近くに来てるよ、LAのお土産持ってきたけど、どう?』
スグに向かうよ、と打ち込み、
ビールを飲み干してから、
僕は送信タブを押した。
太ったな、と。
もちろん、
個人差があるのは間違いないのだろうけれど、
通勤でタラタラ乗ってるだけでは自分の食欲というか、飲酒というか、
やっぱりカロリーの消費が追いつかない様子で、それが脇腹あたりにカタチとなって現れたのだ。
…なので、
その焦りから唐突にヨッシャンとソウ君をライドに誘う為のラインを送る。
ソウ君からは「まぁ僕も太ってきてますから笑」と返答。
さすが!太る時も一緒だよ?、ズッ友だね!
じゃあ六甲でも行く?とたずねると、
「7月のライドの事もあるし、ソウ君トコ集合でいこう。」とヨッシャン。
当日の朝は、
スニーカー選びにも余念が無い。
輪行という事もあるし、
何よりライド後、
硬いカーボンソールの反発をくらって疲労した足の裏を休ませるシューズが調子良い。
そんなアフターライドシューズ。
そういう意味ではニューバランスは非常に優れていると思う。
ストリートファッション好きには説明も要らないであろう580シリーズ、あと、最近購入したNB1300clも極上の履き心地だと思うし、
アウトソールの突起部がペダルに上手くひっかかるので比較的踏みやすい。
早朝、
僕らの為だけに、
ビストロ リュドラガールのシャッターが上がる。
薄暗い店内で、
先に着いた僕が着替えていると、
何も言わずにソウ君はモーニングコーヒーをカウンターに置いてくれる。
やがてヨッシャンが到着し、
間も無く、走り出す。
「今日は前回のコースに、実際に葛城山を加えるコースで。」
と、ソウ君が引いたコース。
ペダルを回せば、
この季節特有の柔らかい風、
紫外線の強さが気持ち良い。
当然ながら、それを感じてるのは僕らだけなワケがなく、
泉南の自転車乗り、例えば、トレイルランにハマってるカワラヤ君や、MTBのライドへ向かうETのジン君達と、
まさかと思うタイミングで出くわした。
こんな偶然は、
なんだかワケもなく今日はいい日だと思わせる。
そうして誰もが休日を満喫する中、
僕らはひたすらにペダルを踏んだ。
ヨッシャンがそろそろ休憩しよう、
というタイミングで、KINFOLKらしくウサギ小屋のあるパン屋へ。
相当な人気店らしいのだけれど、残念ながらパンは販売前のタイミングで買えなかった。
ふとヨッシャンを見ると巨大ブランコこいで遊んでるし。
そこから程なくして、
葛城山を登り出す。
そこまでのルートでアップを済ませたという風に、良い感じで足が回る。
最近まったく乗れてないというヨッシャンとペースに差が出れば、
僕はある程度まで行ったら待つのではなく、降ってヨッシャンの所まで戻る。
これによって、体力差を補い、
お互い同じくらい疲れるワケだ。
葛城山を登頂した時には三人ともへばへばになっだけれども、この達成感はヤバイ。
そして、
下りは、恐ろしかった。
相当な急勾配に加え、
ガタガタの路面の葛折り。
「モッツのライン着いてったらガタガタやないかー!」とヨッシャンがボヤくが、
「俺のせいちゃうわーっ!」
と、応戦しつつ、荒々しい速度を殺す為いっぱいに握ったブレーキレバーを、丁寧にリリースしてタイトなコーナーをクリアしていく。
それでも強烈な勾配に冷や汗するシーンもあり、
下りきった瞬間、妙な安堵感に包まれる。
こういう気分が非日常に拍車をかけるのだろう。
既に、1000m近く標高を獲得してるのだけれど、ここからさらにもうひと登り。
ソウ君が見つけたルートで、グラベルからアスファルト、人通りが少ないので路面は綺麗だけど、石や枝がゴロゴロしているし、
何よりまあまあ登る。
「葛城山の後だと、結構(脚に)キますね〜笑」と苦笑するソウ君の足元で、
壮絶な破裂音。リアタイヤをサイドカットした模様。
まぁ、
こんな事もあるな、と折角なので少し休憩、雑談しながら修理を済ます。
そこを超えたら、高速コーナーが続く下り。
スピードが乗るし、見通しも良くアウタートップでガンガン踏める。
高い速度域のコーナーで、バイクを寝かして行くのが何とも気持ちが良い。
パンクの事もあり、
そこからは最短距離で帰る。
とはいえ、
獲得標高も1400mという事で、
十分に疲労はしてる。
「帰って甘い物食べましょう、昨日仕込んだティラミスがあるし」と、ソウ君。
はっ、マジか、いいね。
リュドラでは、低カロリーとかヘルシー意識のヤワなデザートは出ない。
味が最優先事項。
美味いモンしか出て来ないので、
これはアガる。
店に着き、
着替えを済ましたヨッシャンと僕は、
借りてきたネコの様にしてカウンターに座り、ランチを待つ。
サラダをガッツリと頂いた後、
卵黄と生クリームをたっぷり使った、
ショートパスタのカルボナーラ。
僕は何度も、チーズ?チーズ入ってんの?と聞いてしまう程に濃厚。
フランスアルザス地方特有の、何とも不思議な、プチプチとした食感のショートパスタだ。
まったりとしながらシツコクない味わいに、ワインが止まらない。
そしてお待ちかねのティラミスは、
ふわふわ食感で、甘くないのにしっかり甘いというか。これは大人のデザートだ。
あ、
痩せる為にライドに誘ったんじゃなかったっけ、と、ひとり苦笑したけれど、
まぁいいか。
それより、
ライドの計画が確実に進んだ、という事で。
このコースと、リュドラのディナーに加え、
ヨッシャンのスマートなもてなしがあれば、最高のライドイベントになると思う。何かお土産も用意してもいいかもね、なんて皆で話ながら、
7月15日のKINFOLKオーナーズミーティングに想いを馳せた。
悪夢から目を覚ます。
内容はよく覚えていないけれど、
朦朧とした映像の断片に、不快な寝汗がそれを悪夢だと教えていた。
隣にある娘の寝顔にホッとしながら、
僕は仕度を急ぐ。
昨夜のうちに用意したジャージに寝ぼけながら着替え、
家を出ると肌寒い。
ジレを取りに戻って、再出発。
五分の遅刻だ。
日曜の早朝、幹線道路はガラ空きで、
待ち合わせ場所にナイトーさんが寒そうにして待っている。
シクロクロスシーズンが終わってから忙しさにかまけて練習らしい事を全然やってない。
慣らし程度にナイトーさんにトレーニングライドに付き合ってもらう事にしたというのに、遅刻して申し訳ない。
練習場所の周回道路に向かう間、
練習内容を確認。お互い牽制しながら、
「…どうします?」
「モッツさん、3セットとかやるんですか?やるなら後ろ着いて行きますけど…。」
「あ、いや、じゃあ10分走を一。」
「…三本?。」
「一本で。」
「一本で 笑。」
と頷きあって、練習開始。
今日は軽めのギアで回す。
カセットのチェーン位置を覗き込んで確認してから、じゃ、行きますよ、
と加速する。
KINFOLKは、僕の練習不足なムッチリボディも、とりあえず40kmぐらいまでは難なく加速させてくれる。
後はそれを維持出来るか、という話で、
ナイトーさんの影をぶっちぎるつもりで走るけれど、
結局二周目後半、前に出られてしまう。
悔し紛れに最後抜かし返すのが、
なんだか子供が意地になってるようで、恥ずかしくなって少し笑えた。
「まぁ、このまま練習はサクっと切り上げて、橋を渡って、渡船に乗って遠回りしましょう」
と、ナイトーさんの提案。
お互いそれなりの子煩悩っぷりで、
遅くとも9時までには帰って子供の相手をしたい所。
世間話をしながら渡船に向かい、
「モッツさん、車買うならどんなのかいます〜?」
「まぁ、僕はきっとショーもない車買いますよ、すぐ壊れそうな旧車とか笑。でも最新型の車もやっぱ楽チンですけど」なんて、やもすれば中学生みたいな話題が、同い年、似た境遇の彼とは心地が良い。
渡船に乗るとナイトーさんが、
「この渡船からなみはや大橋のコース、コッシーのデートコースだったんですよね…」と言うので、
なぜここでその話を///
と思いながら(笑)船はすぐに到着、
また走り出す。
肌寒い。
少し速度を上げて体温を上げる。
此花区辺りはいかにも住宅街という感じだけれど、幹線道路の信号は繋がり良く、案外気持ちよくスピードが乗った。
近所に着き、ナイトーさんとは、御子息に言い渡されたという8時帰宅を少し回ったものの十分早い帰宅だろうと、
早々に別れ、
僕は朝飯を食べに、
いつものLEADCOFFEEへ向かう。
身体が冷える。
でもraphaのインシュレーテッドジレは、
店内で羽織るには最高の暖かさで、
ゆっくりラテとトーストを頂いた。
このカフェはいかにもコーヒースタンドといった具合に、常連さんがひっきり無しにやって来てはコーヒーを飲んで、店員さんと軽く雑談して引き上げて行く。
その中にガチっぽいロードバイクのお兄さんも来ていて、どうやらシルベストの店員さんらしく、なるほどな、と。
そんなプロに僕のバイクを洒落ていると褒めてもらい、いい気分になって店を出ようとすると、
入れ違いで僕と同じマンションの家族が入ってきた。
その家族の長男(小1)が、なんとこのカフェでオリジナルキャラを中心とした個展をやっていて、
僕はその長男と少しジャレて、
親御さんと挨拶して、またサドルに跨る。
春の風は冷たく、
それでも、
朝日は光の粒子となって冷えた空気をキラキラと映し出しているように見えた。
いい朝だ。
起き抜けの悪夢が何だったのか、
もう思い出す事もない。
僕はただ、ナイトーさん同様に、
帰りを待っているであろう家族の元へ。
これから訪れる春の休日に胸をふくらませて、
ただ、ペダルを踏み込んだ。
JRで大阪府は南へ向かう。
待ち合わせはソウ君の店。
リュドラガールに到着すると、
ヨッシャンが少し遅れるという事で、
淹れてくれたモーニングコーヒーを飲んで待つ事に。
談笑を始めようとして、
ほどなく待ち人到着。
ヨッシャン、コーヒーは?
と聞くソウ君に、
飲んできたよ、じゃ、行こうか、
とヨッシャン。
リュドラガールから峠までは、
いつも幹線道路をそこそこの距離走るのだけれど、
今日は少し、様子が違う。
短い住宅街をぬけると、
ひと気の少ない道へ出た。
「今日は僕も行った事のない道へ行くんで、」
ポツリとソウ君が漏らし、
ライドリーダーがそういうなら着いて行くしかない、と僕らはペダルを踏む。
そこからは、エメラルドグリーンの大きな池?を過ぎ、
ハイキングロードを順走、しかし、急な崖崩れで通行止めになっている。
それでも「出口に繋がるルートへ」とまた違うルートへ入って行く。
何度かライドで走った道、
上り下りがそこそこあって、対向車線を走る自転車は、パッと見てすぐ競輪選手だと気付く。
「ここでトレーニングしてるんでしょうね。」
競輪場が岸和田、和歌山と近く、フレームビルダーも多いこの地域で競輪選手は珍しくない。
そんなエリアなので、ローディも沢山すれ違う。
そして、ソウ君が、
あえてそんな道を外れる。
「地図では通り抜け出来てるんですよね…。」と、
入った道は見事なアゼミチ。グラベルというべきだろうか。
路面の大きな石を丁寧に避けながら、
僕らは登っていく。楽しくて、
思わずハシャいでしまった。
ひと気のない道、
少しだけ困難な路面。
木漏れ日が差し込む。
ジャリっとスタックする後輪が、
また路面を掴んで前に出るのが分かる。
最高だろう。
「今日はこの辺で戻りましょう、当日はこの感じに、葛城山を加えればどうかと」
最高だろう、それは。
最高すぎる。
その後、
僕らはリュドラガールへ戻り、
ソウ君と恭子さんにランチをご馳走になる。
恭子さんとのトークが弾む中、
サッと出てくる、ボリューム満点の前菜プレート。
これがまた、どれを食っても本当に美味い!
モッツ飲むやろ〜、と恭子さんに注がれた白ワインと相性抜群で、
この皿だけでボトル一本イケそうなくらいだ。
次いで、メインのヤリイカのパスタをソウ君がサーブ。
トマトソースはジワっと後からいい感じに辛く口の中を刺激し、
パンパンに詰まったヤリイカのミソはそれを和らげながら満たして行く。
ブカティーニという、芯が空洞になった極太パスタにガッツリその旨味が染み込んで、僕らは夢中でモグモグやってしまった。
そう、
最高なライド後に、最高の飯を頂く。
本当に良い物を知ると、
人に勧めたくなるもんだ。
KINFOLK OWNERS。
僕らは、同じフレームに跨る彼らと、
共に走り、はしゃぎ、乾杯し、
最高の晩飯で腹を満たす、そんな、
最高の時間を過ごす機会が作れたら、
と思う。
2018年。7月15日(日)。
もちろん、フレームにかかわらず、
所以のある人など、お誘いあわせの上、参加して頂ければと思います。
オーナーの方のフレームには、
おおよそ描かれているはずの、
RunWithTheHunted
良くも悪くも、
いつの間にかカタにハマった自分から
この日ばかりは、みんなで逃げだしたいと思うのですが、
いかがなものでしょうか。
(イベントの詳細、コースやエントリーフィー等、またこのブログでもお知らせ致します。
また、このブログのコメント欄や、
僕のインスタ等、SNSのDMでも問い合わせ等、受け付けています。)
2年ぶりに、さぬきCXにエントリー。
そもそもSSCXには不向きな要素が多いコースだけれど、
C4が出来た辺りでC3は苛烈さを増し、ますます勝ちは遠くなったとその時感じ、昨年はエントリーを見送った。
ただ、それでもその前、さぬきでは2年連続で四位と惜しくも表彰台を逃した事は今では数少ない成功体験となり、
要は「もしかしたら」を捨てきれなかった。
そして場所はウドンの町、香川県。
家族旅行の一環としてレースも走る事にすれば、子供に見せられるかも知れないのだ。
父が勝つ所を。
エントリーリストが発表されるやいなや、
悪いが、目を皿にしてメンバーを調べさせてもらった。
エントリー数はたった10人。力量は、分かる範囲で見るとかなり拮抗していて、過去のデータを参照するとその中で自分は4〜50%あたりの成績になる。
1名、表彰台の常連さんがいるが、
不確定要素を加えれば、自分が表彰台に上がる可能性は充分あるだろう。むしろ、
高い。
が、
その自信は、
前日の試走で突然揺らぎ出す。
得意意識のあったジープロードを上手く走れない。何が変わったか分からず、何度もトライするけれど速く走れない。
ムーブメントの高橋君が走った後を追うと、リアスライドで上手く曲がっているので、なるほど、とマネて数回練習し、
本番に挑む。
この日泊まった温泉宿は部屋食で、
子供二人いる僕たちには有り難かったのだけれど、
それを良い事に
破壊の限りを尽くす娘を見ながら御膳のご馳走をいただくのは至難の技で、
とてもゆっくり味わってる場合ではなかった。
ヨッシャンが「良かったら晩飯皆んなと一緒にどう?」と誘ってくれて、でも予約があるからと断ったけれど、
万が一一緒に行ってたらウチらの家族置き去りにされてるでコレ笑。と妻も半笑いだった。
翌朝、
ギリギリC4のスタートに間に合うと、
ヨッシャンと堀君の激しい戦い。先行していたヨッシャンが堀君に抜かされ、さぬき名物のアスファルトの平坦はずいぶん苦しそうだ。
しかし誰よりバテていたのは妻だった。
娘の暴走を食い止めるべく奔走している。
ほんとに申し訳ない…。
C3のスタートグリッドはCCJPの杉田君や、通年のライバルもいて、和気藹々。
しかし、
後ろに並ぶアンダー17の子達はピリピリしていて、
僕の隣の人が「彼ら、話かけても喋ってくれへんねーん笑」と言ってて、
逆に思わず笑ってしまう。
スタートはクリートキャッチをミスるものの、
なんとか集団に着いていった。
ジープロードの下り、みんな速い。
殆ど同じ速度で、少しラインをミスるとすぐ離される。
その登り返しで詰まった。
そこで足を着いた僕は、降りて押すしかない。
やってしまった。
もう遅い。
後はアスファルトの平坦で周回する度に抜かれ、
なんと、
最後尾。
最後の登りをダンシングで加速する僕の背中で「パパーっ!パパ〜〜っ!…」と
息子の声援が哀しく響いた。
うわぁ…
ゲベかよ…
失意の底でゴールすると、
通年のライバルが寄ってきてくれて、
ちょっと話し込んでからゼッケンを外しあう。
彼とは2年前から抜きつ抜かれつ。
レースの中で無言の会話は何度も繰り返したけれど、
こうして話す事はあまりなかった。
あー、やっぱSSじゃこのコースキツい、もうギア付きにしたいわ〜。
と言い訳する僕に、
「まぁでももう引っ込みつかない感じですよね笑」と言う彼。まったくいいヤツやで…笑。
来年もSSで行くよ、と彼と握手して別れ、
疲弊した妻の元へ。
息子は一生懸命応援出来た事に満足そうで、レースの内容はよく分かってなかったようだ。
大阪へ向かう車の中、
後ろで眠る子供をルームミラーでチラ見しては、
妻と、子供の世話が大変すぎて料理の味も憶えてないな、と笑う。
でも僕らが大変だった分、きっと子供達は楽しかったのだと思う。
そして最低の結果でも、
やはり出し切って走る
シクロクロスは最高に楽しかった僕。
妻はどうだったのだろう。
分からないけど、
分からないから、多分僕は
礼を言うべきなんだろう。
言おうとして、やはり上手く言えない。
ただそれは、
照れ臭いワケでなくて、
言ってしまうと、
その一言に何か沢山の気持ちが乗っかり過ぎて、涙腺が緩む事を抑えられそうになかったからだ。
そうこうしてるウチにいつもの様に軽口を飛ばし合う。
きっと、
相応しい場所から言えたらよかったんだろうけど。
そんな不甲斐ない気持ちで僕は、
アクセルを踏み込んだ。
ありがとう。
ハッとした。
気温は1度。確かに寒いが、
震えてる場合じゃない。
号砲を下を向いたまま聞いた。
クリートは上手く捉え、ぬかるんだ路面を、じりゅっ、じりゅっ、と二回ほどスタックさせて走り出す。
スタートからの直線が長い。
ある程度ついて行く過程で、
なんだか急に辛くなってきて、
さらにゴウっと後ろから上がってくる集団に付いていけず、気持ち負けしたのか、
みるみるウチに順位を落とす。
第一コーナーを抜ける頃にはもう後ろに何台もいない様子。
何やってんだ、と自分を叱咤するも、
どんどん落ちて行き、
クジ運悪く後方スタートだったソウ君にもピューっと抜かれてしまう。
…脚が全然回らない…。
「モッツー!遅れてるぞー!」と、
ギャラリーからヨッシャンの声。
グラウンドからキャンバーセクションに入ると、やたら丁寧に走る僕。
コケる気がしない。そらコケない。
そういう走りがまた一段と遅くなってるわ、と気付くまで二周かかった。
アホか、僕は。
せっせと追い上げ始めると、
オレンジ色のアウターにデニム?のストリート感溢れるSSCX乗りが前を走っていた。スタイラーやな…
このコース、SSツラない?
と彼に話し掛けたいくらいだけれど、
SKRKの人達は皆SSCXで随分前にいるワケで、
まぁ、
お互い頑張ろうぜ、
と心中に声をかけ、スタイラーを抜く。
その先にようやくソウ君を捕まえ、
久しぶりのランデブー走行に入る。
引っ張り合う様に抜きつ抜かれつして、
ようやくエンジンが掛かってきた気がした。
最終周回。
直線の彼方、第一コーナーを6台のパックが曲がる。
あー、あれを抜けたら、今回はヨシとするか…。ヨシとしよう!
正直、走り出す前は順位一桁台を狙うつもりでいた。
そんな自分への期待を大きく裏切った、
結果の目標がコレか、と、
思わず苦笑してしまう。
でも、
自分に期待出来なくなるほど、
虚しいモンはないだろう。
ここに来て集中力を上げる。
突然、コーナーが良く見えてきて、
ブレーキを使わないラインが分かってくる。
前を行くパックが少しづつタレてきた。
一台一台を確実に抜いていく。
4台目を抜き、ゴール前でもう一台、
あと一つ!
って所で届かないまま、
ゴールラインを通過した。
結局、
ヤギさんやSKRKの皆にも全然届かず、勝負にもならなかった。
悔しい。
かたや、
ヨッシャンは出し切った様子で、
クソ寒い空のした、レース後は仰向けになって倒れこんでいた。
そういえば、
三人でCX走り出した頃、ヨッシャンは自分が追い込めきれずにいる事をよく嘆いていた。
あの頃の彼に今のヨッシャンを
見せてやりたいと思った。
その後、
なんとも言えない敗北感を味わう僕に、
ソウ君が作って来てくれたチリビーンズサンドを手渡してくれて、
今回のレースの冠スポンサーであるDerailleur brew worksの西成ライオットエール(地ビール)と
一緒にやる。
チリビーンズの辛さを一緒に挟まれたクリーミーなチーズが柔らかく際立たせ、
それを
ライオットエールのしっかりした苦味と爽やかな酸味で流し込む。
コースにはC1のライダー達が美しく駆け抜け、
寒さを忘れるほど、このランチは美味かった。
こうして、
僕らの今シーズンの関西CXは終わる。
悔しい、それだけで走ってきた。
でも今回は、
自分は弱い、
という認識に、やっと至った。
これからだと思う。
そしていつか、
集団の前を走る僕を、
今日の僕に見せてやりたい。
堺浜の会場は自宅から近く、
自分のレースが終わってから
時間が出来たのでレース観戦する事に。
C1のレースはやはり迫力が違うし、
なんというか洗練されていて、
勉強になるとかではなく、
観ていてただただ面白い。
彼らはあまりミスをしないので、
たまの落車でギャラリーから、
おぉ…とザワメキが聞こえ、盛り上がる。
かたや、
自分のレースはミスの連続だった。
クリートキャッチのミスに始まるが、
予定通り前へは出れた。
とはいえ70人からなる出走。
この時期になるとC3は飽和状態。数珠繋ぎのレース展開でミスった人から落ちていく。
そして、やたら落車が多いのもC3の特徴。
シクロクロスにまだ慣れてないけれどパワーを持て余してる、という人が多くいるのかも知れない。
とにかく巻き込まれない様にしよう。
そう、
落車するヤツは不幸(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった奴…
なんてワニブチ的思想に耽る間も無く、目の前で二台絡んだ。
危ない、内側から抜けようとすると、
まさか、こちら側に倒れてきた。
避けきれず自分も絡んでしまい、
一気に順位を落とした。
そこを追い上げて来たヤギさんに抜かれるが、まだだ。
シケインでもう一度勝負をかける。
ギリギリまでシケインを引きつけ、
タッタ、タッタとリズム良く飛び超えた。
よし、ヤギさんより半歩先に抜けだせた。
飛びのろうとすると、
思ったよりヤギさんが近くに居て、
飛びのる右足がヤギさんにソバットを食らわせる格好になり、
そのまま跳ね返されて僕はコーステープに突っ込む。
「大丈夫ーっ?」と言いながら去っていくヤギさん。そのすぐ後を、
フラットバーを入れてるという理由で最後尾に回されたソウ君が、優しく腰ポンして抜いていく。
とんだドタバタ劇を展開して、
最後尾まで順位を落としてしまった。
気持ちが折れるより先に、
僕はペダルを踏み込む。
少しでも前へ。
コース真ん中あたり、緩やかな下り勾配の短い直線、追い越しやすいポイントだ。
C4のレース中はここでソウ君と観戦、ガヤリ立てていた。
ハリマックス氏や、
堺の自転車屋ETの人達はもちろん、
その店長ジン君と、
movement掘君、
そしてヨッシャンの三つ巴の戦いは抜きつ抜かれつで見応えがある。
一生懸命走ってる人に、しかも知らない人にガヤるのってどうだろう、と思う人もいるかも知れないけれど、
きっと殆どの選手は嬉しいとか、楽しいと思ってるはずだ。
最終回は皆心の余裕が出たのか、様々なパフォーマンスで返事してくれたり、
応援側もなんだか嬉しくなる。
そして今、
そんな応援に支えられ僕も、
なんとかソウ君、ヤギさんを抜き返し、
その前にいるのは薔薇のジャージ、
SKRKのオグさん!
最後の砂場で抜きに掛かると、
砂場を出ると同時にオグさんは加速し、
一台抜く。
僕も追ってその一台をパスする、
ゴールはもうすぐだ。
イケるかっ?!
もう酸欠でいっぱいいっぱいだ、
でも回せ、と脚に命令する。
それでも、
そこでオグさんはもう一発加速し、
さらに一台抜いてゴール。
マジかよ…、と、
僕はその一台を抜けずにゴールラインを超えた。
脳の毛細血管に無理やり大量の血液が流れ込む様な頭痛にしばらくクラクラする。
はぁ、終わった…
それは結果を嘆く感情と、
レースを終えた安堵感が入り混じる
ため息。
あの時ああしたら、こんな風に用意していたら、
また順位は変わったかも知れない。
次こそは。
そんな事をレースの後、直ぐに考えてしまう。
ブロックタイヤで土を削りながら疾走する事を思うだけで、
僕は日常を忘れ
物思いにふける事が出来るのだ。
次は、千秋楽だ。
レースの翌日は雨だった。
僕は小さな怪獣二匹、
五歳男児と二歳に満たない娘を連れ、
雨足が弱まった頃、
昨日のレースに現れなかったナイトーさんの店、FLAGへ向かう。
ナイトーさんは
希望ヶ丘戦は走れなかったけれど、
しっかりと皆んなのリザルトはチェックしてる様子で、
「モッツさん、最近乗れてるのに、順位悪かったねー。」と。
いやいや、言い訳ではないけれど。
希望ヶ丘はシングルトラックが無くなり、パワーと度胸、といった感じのコースになってて、
大きな登りが二本、それに対しての下りが二本。
登りでパワー負けして、
下りで度胸負けした感じですよ…。
事実、36番手スタートで、32位。
一旦すぐに20位まで順位を上げたけれど、
とにかく登りでだんだんパックに離されて、
3周目辺りでは2本目の登りが抜かれるポイントになってしまう。
そして抜きつ抜かれつ最終周。
砂利の危険な高速コーナー手前で、背後から一台、
せわしないプレッシャー。
でも高速コーナー手前まで逃げ切れば、
ラインは内側のバンク面しかあり得ない。
その手前まで抑え込む。
ここまで抑え込めば。と、
脚を止めた瞬間、
アウトから前へ出る、KUALIS。
チタンハンドメイドの有名フレーム。
まさか、さらに突っ込んでくるなんて。
ギリギリで僕の前へ出て、バンクのラインに乗せるKUALIS。
僕は動揺して、二つ目のコーナーのラインを外しそうになりモタつく。
大きく3秒も間を開けて、
逃げ切られてしまった。
言ってみりゃ、ブレーキング勝負に
負けた。完敗だ。
ソウ君はと言うと、
「年末年始乗れなくて、メチャクチャシンドかった…」と。自転車はサドルの上で過ごした時間=実力、といった話があるけど、乗らなかった時間はどう過ごしても差し引かれていくのも事実。
自分は、と言うと、
年末は十二分に乗った。
体調も回復し万全。
自転車も消耗品を全て交換して、
絶好調。
そして、32位。
出し切ったかと言うと、
出し切った。
誰にも誇れない順位で悔しいのに、
出し切った爽快感や、
緊張感の中で、
思うより操作出来た楽しさ。
それを合わせた充足感。
表面上はガッカリしてみせても、
内面は満足してる、という妙な感覚が
レースを走る本当のモチベーションなのかも知れない。
そしてヨッシャンは、
BMX日本代表のシモちゃんを
ライバルと呼び、
実際、シクロクロスでは良い勝負。
先行するヨッシャンに少し遅れてシモちゃんが追い縋る。
3周目、ヨッシャンがチェーンを落としてしまい、
その隙にシモちゃんは前へ出る。
あぁ、勝敗決したな、と思って観てたけれど、さらにそこからヨッシャンはシモちゃんを抜き返したらしい。
この日、KINFOLKチームで一番良いレースをしたのは間違いなくヨッシャンだろう。
そういえば、シモちゃんはヨッシャンと出会うずっと前から僕は知り合いで、
そう考えると、なんだか不思議な気分になるし、自転車の繋がりってのは本当に面白い。
そして、
KINFOLKはそういうブランドだと思う。僕は、
今年、それをカタチに出来ないかな、と
帰りのFIATパンダの狭い車内で2人に話すと、
「いいね、面白そう。」と、
ヨッシャンとソウ君も乗り気だ。
もし、全国にいるKINFOLKオーナーと走る機会を作れたら、
それはまたきっと特別な出会いを連れて来てくれる事は間違いない。
…まぁそんなワケで、
レースは全力だったんですけどね(笑)。とナイトーさんに説明して、
これ以上お邪魔するのも申し訳ないので、とりあえずFLAGを出ると、雨足は強くなる。
横の高架下で雨宿りしてると、
結局ナイトーさんが傘を持って来てくれてしまって、
なんだか申し訳ない気分になる。
やがて雨が上がり、
息子が「傘、返しに行く?」と言うけど、いや、また店に寄る理由になる。
だから、
また近いウチに父さんが返しに行くよ。
大人には、何かと理由が必要だ。
だとしたら、
今年は積極的に
自分達から理由を作りたいと思う。
そんな事を想像するだけで、
僕は子供の様に、
無性にワクワクしてしまうのだ。
DAY0
Festive500 に挑戦する事は難しくない。STRAVAでワンクリックすればそれでいいのだから。
だが完走するとなると話は簡単ではない。
そもそもこのFestive500は、
師走をホリデーシーズンと呼び、
その期間をダラダラと過ごせる余裕がある人達をライドへと喚起する為の物で、
心待ちにしていたRaphaのSALE、
開始と同時にサイトにアクセスした時には狙ってたアイテムのサイズが無く
「…ブルジョアジーらめが…‼!」と拳を握りしめている我々の様な連中には、
正直縁遠い物なのかも知れない。
だからこそのアタックだ。
見せてやるサ、
労働者階級の意地ってヤツをよ…
0/500km
DAY1
走り出して間も無く
ガーミンの液晶に水滴がポツリ。
もしこれが雨だとしたら、 天気予報通りという事で何の問題もないのだけれど、 それでも、この水滴は何か別の、 例えば汗や水蒸気みたいなモノであればと祈ってしまうのがサイクリストだろう。
1日目のアタックは舞洲アリーナの周回路。休日の夕方に妻に作ってもらった数時間。
とりあえず、平坦路で距離を稼ぐ作戦だ。
到着する頃には予定通りの土砂降り。
とはいえ初日から雨…、
まぁ、…おあつらえ向きか。
そう独り言ちて本降りの中を走りだす。
Rapha オーバーシューズ が1時間程であれば全く浸水がなく、凍えそうな爪先を護ってくれた。
54/500km。
DAY2
年末を迎える最後の月曜。
今日乗らなければ挑戦は終わる。
仕事で疲れた身体に鞭打って、
通勤路にいつものIKEA周回路を加え距離を稼いだ。
まだ暖かく、クラシックウィンドジャケットが調子良い。
105/500km。
DAY3
ロードバイクに乗っていれば誰とでも分かり会えるなんて思っていない。
部下に割とレース志向のローディ(カーボンのコルナゴでアソスに身を包む様な)がいるのだけれど、特にそんな話もしないし、立場的に僕から絡むのもどうかという事で、一緒に走る事など無いと思っていた。
そんな折、帰宅前のロッカーで冬場は裏起毛のRaphaサーマルクラシックビブが快適だと説明しながら、
こんなイベントに挑戦してて、今日は河川敷から帰るつもりだと話すと、
なんと、彼も付き合ってくれるという。
夜の河川敷は、まさに一寸先は闇。
あっ、危ねーっ!そこ人!人影!
といった風に互いに声を掛けながら走る。
やっぱ夜の河川敷はダメだな(笑)とそこで別れ、僕は昔暮してた街を経由して帰路につく。
10年振りに通る街並みは、
あの頃と同じ様で、少しづつ時代に合わせて変わっていた。
彼は、今時の30代というか、あまり他人に深く踏み込むタイプではないと思っていたが、
僕と彼との関係もきっと、
そんな風に時を経て変わって行くのかも知れない。
159/500km。
DAY4
水曜は堺浜に、いわゆる実業団系の
本当に速い連中が集まってくる。
周回道に入れば間も無く、
背後からゴウッと10数台の高速プロトン(集団)が来る。
一旦追い越され、すぐに踏み込んで最後尾に着いたはいいけど今日は冬の向かい風がハンパない。
だからだろう、ローテーションが早く15秒くらいで交代してる様子で、気付くと次は僕にも先頭に立つ場面が。
勝手に混じらせて貰ってるので頑張りますよ!と心拍を一気に190まで持ち込んだが、
10秒も持たずに先頭交代…
ありゃ〜、まぁこんなもんか…
その後はズルズル失速し、プロトンは見えなくなった。
勝手に混じってるとはいえ、
スリリングで刺激的な体験。
こんな短時間高強度な練習にも、
Raphaコアロングスリーブジャージは裏起毛で暖かく、それでいて決して蒸れたり汗が冷える事のない、
価格からは考えられない快適性を提供してくれる。
232/500km
DAY5
12月28日、まさに師走、仕事の遅くなったこの日は、友人の経営するビストロ、リュドラガールまでライド。
ずいぶん遅くの到着になるので、
事前に到着時間を連絡したはいいけど、
それでも急がないと。
年末夜中の旧国道は車通りは少なく、自転車道が設置されてる区間もあり、案外快適だ。
何より「誰かに会いに行く」と思うと、
自然と足が回るもので、
目的はモチベーションに直結していると感じる。
店に着き、おどけて
あの〜、もうオーダーストップでしょうかぁ…?と入って行くと
「なにゆーてんねん!こんな遅くに来やがって!(笑)」と恭子姉さんの元気の良い声に迎えられ、
もーっ、と言わんばかりにソウ君と二人、え?そんなにモッツ甘やかしていいの?と掛け合いながら、豪勢なもてなしを受ける。分厚くフカフカのキッシュと、
ドイツパンの上にプルーンの甘煮を載せた最高の晩飯を炭酸水で頂く(デザート付き)。
文句無く美味い、いや、酒があればもっと美味かったはずだ。
時間が全然足りなくて、話したい事が沢山あったのに話せなかった事の数を数えながら復路に着く。次はきっと電車で500km走破の報告にでも行こう。
長く凍える国道沿いでも、
Raphaハードシェルジャケットが冷えから僕を護ってくれた。
307.4/500km
DAY6
明朝。日の出より早く家を出る。
今夜は妻が飲みに行くと言うので早めに帰らなければならない。
距離を少しでも稼ぐなら、朝しかない。
コースはいつものIKEA周回。平坦路でとにかく距離を稼ぎ出す。
仕事は佳境を迎え、走行距離も残すところ133kmと追い込んだ。
気の緩んだ僕は、
つい練習後水も飲まずにワインを口にして、一本空けて寝てしまう。
この時はまさか内臓が弱ってるなんて思いもしなかった。
それにしてもプロチームビブ2は素晴らしい完成度で、冬も短時間高強度の練習であれば、決して薄すぎるとは思わない。本当にオールシーズン活躍するビブだ。
369/500km
DAY7
完全に体調を崩す。
胃をやられたようで、朝食のゲップが止まらないだけでなく、
ふわふわと体に力が入らず、
昼食も摂れなかった。
弊社も最終営業日で、
さっさと仕事を終わらせて嵐山まで往復する予定が、
まさかの残業をくらう。
日も暮れ出すし、時間もない。
それでも、今日は100km、
行くしかない。
冬の夕暮れ、河川敷。
どうしようもなく冷たい向かい風が指の感覚を奪った。
途中、グローブを外しては何度も手揉みする。
体調が悪くて踏めないのか、
寒くて踏めないのか。
嵐山までは残り10kmというところで諦めてUターンする。
やがて日が沈み、
ヘッドライトの弱い光を頼りにビクビクしながら前へ、前へ。
ジャケットの中の汗が冷え始めるが、
Raphaブルベロングスリーブジャージは湿った汗を外へ積極的に追い出してくれているようで、体感温度は常に快適だった様に思う。
ようやくウチに着いた頃には、
体調が最悪で、
殆ど晩御飯も食べる事が出来ず、
僕は娘を湯たんぽみたいに抱きしめて、
泥のように寝床に倒れこんだ。
ずいぶんキツいライドだったのに、
瞼の裏に残る河川敷の夕陽が、
それでも美しかったと思えるくらいには、僕は自転車バカなのかも知れない。
479/500km
DAY8
明け方。気分が悪く、
日の出前に目を覚ます。
大晦日という事で流石に仕事は休みだけれど、午後には家族で実家へ帰省する予定だ。
…STRAVAやインスタに友人から応援のメッセージが着いてる。
体調は回復の様子は無い。
でも、残すところ21km。時間にして1時間かからないくらいだ。
起き上がれば吐きそうだけれど、ジャージに身を包めば何となく行けそうな気になるだろう。
ガーミンをセットし、
最後の扉を開ける。
数回ペダルを回して感じる違和感。
たった20kmの地獄みたいなライド。
遠い。
いつものインターバルのコースでも足が止まる。
身体が全く回復してない。
僕は自転車を甘くみていたと今頃悟る。
跨り、走り出し、瞬時に訪れる全能感。
達成した途端に包み込む幸福感に、
稚拙にもハシャぎ、
僕は忘れていたのだ。
その代償に、容赦なく削りとる、
自転車は、時間と、その生命力を。
あまりにも自制心が無さすぎたのか、計画性が無さすぎたのか。
食事も適当に抜いたり、
しっかり睡眠を摂らずに飲んだり、
僕はナメていたとしか言いようがない。
あと3キロ。
その距離がもし、
帰路に含まれていなければ、僕はゴールを諦めていたかもしれない。
無事メーターが予定距離に到達してすぐ僕はコンビニのカウンターでホットココアを頼んだ。
胃がヤられてる時はココアが一番だ。
ズビっと一口飲んで、ほうっ、
と息をつく。
胃がほんの少し落ち着いて、
窓から暗雲の空を見上げる。
…とりあえず、500km達成か。
祝杯もあげれる体調じゃないけど、
これがまぁ、今一番の祝杯だろうか。
やりきった、やり終えた、
という感覚は、きっと後からジワジワくるもんだ。
Raphaが今年も与えてくれた、挑戦するチャンスに応えられた事を感謝しながら、
ゴクリと飲み干したココアが、
弱った胃にやたらと染み込んだ。
504/500km
2017Festive500 達成
追記
誰と祝うわけでもないライドの成功を、500kmノートラブルで当たり前みたいに走り抜けた鉄の相棒、
KINFOLKに捧げ、このライドを終えたいと思う。
出走しなかった。
二列目スタートのシードは
少々悔やまれたが、
体調を崩した妻を
置いていくワケにはいかないと
思ったからだ。
そんなワケで、
一日子守をする事に。
どこへ行こうかと携帯を触ると、
「(チョコレートの)フルタ本社で割れチョコ等のセールをやってる」との情報をイクジ君がツイッターで流していた。
…フルタ本社まで片道7キロ強。
電車で行くと結構かかる。しかし、
そう、先日納車したばかりの、
e-BIKE(ママチャリ)がある。
YAMAHA PAS。e-BIKEのパイオニアと言って過言じゃないだろうけどe-BIKEと言っていいかは分からない(笑)。
僕は、電動アシスト自転車とはペダルに一定の負荷が掛かれば起動してそれなりに速度が出るもんだと思ってたのだけれど、
スタートは確かに楽で、
登り坂ではジワジワアシストしてくれるが、
天王寺へ向かう長い登り坂では、
トップギア(3速)で20km/h維持しようとすると、それなりに汗ばんだ。
まぁ子供二人乗せて坂をその速度なら、
十二分に速いと言えるけれど…。
当然ながらトップスピードを伸ばす物でなく、あくまでアシストするだけなのだなぁ、と感じたが、
勾配が10%超える急坂では物凄いパワーでグイグイ登り出し、それは原付きにでも乗ってるかの様な痛快な出力で、
思わず「おほっ(笑)」と声が漏れてしまう。
フルタのセールは終了まで数時間を切っており、とりあえず特売品を2000円程買う。
袋は戦隊モノの立派な紙袋で、
息子はそれでご満悦。
道中、
ムーブメントの近くを通ると、
見覚えある顔。あれ?
と思うと向こうから、
「あ、モッツさん、僕、分かります?」
と、久しぶりの刺青ケンタロー君。
彼とムーブメントとの繋がりがピンと来なくてシドロモドロになったけれど、
「最近MTBも乗り出して…」と相変わらずの自転車好き。
こうして、声を掛けてくれるのはホントに嬉しいもんだなー、と思いながら、
そのままぷらぷらサイクリング。
フロントシートで暴れる娘に
ケープを掛けると、
娘はそのまま寝てしまった。
ウチに帰って四人で晩御飯を食べ、
中でも大食いな娘にミカンとバナナの皮を剥いていると息子が、
「なんで果物には皮があるの?」
と聞いてくるので、
妻が、柔らかい中身を守ってるんだよ、と話すと、
「ボク、皮のない果物しってるよ」
と言う。
え、そんなのある?と聞き返すと、
息子は、
「あのねぇ、イチゴ!。」
あ!
僕は妻と思わず声をあげ、
ホンマや…と納得する傍ら、
いや、薄い果皮(真っ赤なトコ)あるよな…、と思い、
アレはね、一応皮があるんだよ、ほら、リンゴも…
と反射的に否定してしまった。
否定してしまった事をすぐに後悔し、
でも確かに皮を剥かずに食べるのはイチゴだけだね、よく気付いたね、
と訂正し褒めたけれど、
やってしまった、と少し胸を痛めた。
そして、
僕が思う以上の回答をするまでに
成長してる息子に、正直驚いた。
彼の成長を側で見ていたい、と思う反面、自分の為に時間を割く僕は、
親父として正解なのだろうか。
僕の父は模型好きのサラリーマンで、
時間があれば子供の面倒を見る人だったけれど、
僕は父が何かにムキになったり
必死になってる姿を見た事がない。
だからかも知れないけど、
例えそれがサンデーレースであれ、
僕は息子に見せたいと思う。
父が必死になって、
ただ1人の男として、
ムキになって走る姿を。
そしてそこに集まる、
ライバル、仲間達を、見せたいと思う。
これは教育と言うより、
僕の勝手な父親像への憧れかも
知れないのだけれど。
それよりも直近、
彼の柔軟な発想力をしょーもない
一般論で「皮はある」と否定した事に僕はまだ胸を痛めていて、
寝室へ向かう息子を呼び止め、
もう一度聞いてみた。気に留めてない事を期待して。
なぁ、イチゴって皮あったっけ?
「え?んー、ある!」
…あー、やってもうた…
次のコーナーを曲がった途端、
気付くと、
僕は寝転がって青空を見上げていた。
視界にソウ君が入り込んできて、
「こんな気持ち良くコケてる人久々に見ましたよ(笑)」と笑いながら去っていく。
脳震盪でズキズキする頭を起こし、すぐに彼の後を追った。
試走中で良かったけれども、
すっかり意気消沈してしまった。
さて、まずはチームオーナー、
ヨッシャンのレースだ。
全員で40名ほど、その後方スタート。
さらにピストルが鳴って間も無くヨッシャンの前で落車事故。それを避けて最下位まで落ちた彼は、コッチを振り返り笑ってる。
余裕だな…。いやしかし比較的彼の得意なコース。最下位から何処まで上がるだろうか。
コース前半の泥山。その出口あたりで順位を数えて待つ。…21、22…え、もうヨッシャン?!20人程抜いてきたのか!
コース後半、平坦区間へ行く直線でさらに一台抜いて見せた。
おおっ!いいぞ!ヨッシャーン!
熱い走りに元気をもらうとはこの事で、
僕はすっかり転んだ痛みなんか忘れていた。
さぁ、僕たちC3のスタートだ。
クジ運悪くゼッケン54。
後ろに二列しかないし、僕の前には40台近くいるワケだ。
その中にSKRKの薔薇ジャージが三人。
ひとよんで貴族会。毎度煮え湯をのまされてるからな、今日こそは。
そしてシクロクロスを始めた頃からの同い年ライバル、エスキーナのヒロシ君。
ソウ君といえば、24番とかなり前に位置してる。
ピストルが鳴り、さあ、スタートだ。
一度転んで吹っ切れたのか、
今日は身体が動く。
案の定、スタート直後のコーナーがボトルネックになっているので、
担いで、抜いていく。
イケ、イケ、イケ、イケ!
泥山の頂上に差し掛かって、やっとウサギのジャージ、ソウ君を捕まえる。って事は20番台まで上がれたか。
よっしゃ!と掛け声してソウ君の隣に担いでた自転車をガシャンと降ろし、
すぐに飛び乗った。
そこからはMTBで下る様な急勾配のドロドロの下り。
おっかなビックリ走ってるウチに、
リアブレーキの使い方が分かってきて、コレは楽しい。MTBにハマる人の気持ちが少し分かる。
とにかく小さなパックを幾つか抜いて、
2周目、ヤギさんが3位とギャラリーからの声で知る。
この日は沢山応援を貰って、
それに応えられるくらい余裕があった。
下り区間の長さか、そこまでシンドくない。心拍170くらいか?まだ余裕があるかも知れないと、
少しだけ心拍数に目を落とす。
…20…0…
今なんか見たらアカン数字が表示されていた気がしたので、見なかった事にして走る。
3周目の山の登りで、
やっと貴族会の1人、スタイラー森君の背中に追いついた。
ハァハァと息を切らし必死で彼の隣に並んだ僕は森君に、
…来ちゃった…///
と声をかけ抜きに出る。
間も無くして右側から
「…そしてまた抜いちゃう…」
と囁かれて抜き返される。
次は無言で、ヘアピンコーナーで追い詰め、オーバーラン気味に彼を抜く。
よし、次の下り坂で一気に征する!
とイキんで踏んだ瞬間、
なんとその手前でまた抜かれたのだ。
僕は思わす叫んだ。
なっ、なにぃ〜〜〜っ!
少年ジャンプ世代がライバルに
まさかの実力差を見せつけられた時の
感嘆詞は昔から
「なっ、なにぃ〜〜〜っ!」
と相場が決まっている。
ニヤリと笑う森君を想像しながら、
まだまだ!と後半の平坦区間に入る瞬間、
こともあろうにチェーンを落としてしまった。
マジかよ、ヤギさんに「チェーン緩すぎない?」って言われた時に直しときゃ良かった。
後悔先に立たず。
止まって直し、
すぐ走り出す。意外にも一台しか抜かれなかった。
多分そのくらいのアドバンテージを稼ぎ出してたのだと思うと、
チェーン落ちした事が悔やまれる。
それで焦って、どうと言う事のないコーナーでずっコケてしまった。
リズムを崩す。立て直さないと。
そこで二台、一気に僕を抜いて行く。
若者と、
ヒロシ君だ。
くそっ、
慌てて2人を追い、最終回。
一本道のスラローム、速度の落ちる若者をヒロシ君が何か言いながら突っついてるので、怒ってるのかと聞き耳を立てると、
「よし、もっと上行こう、早く。上目指そう。」と応援してる。
そのプレッシャーに後輪を滑らせラインを潰してしまった若者が、あっ、すいません、と謝ると、
「ドンマイ!、いいよ!」
ヤバいこの人、
レース中にコーチしてる…
と、ちょっと面白くなってきて、
僕もついていく。
平坦区間まで三人で走り、
ヒロシ君が危なげなく若者の前に出る。
僕は若者を中々抜けないでいたが、
小さな登り勾配のコーナーで降車して
足でイン、イン、イン、のラインを取って、内側から抜き去り自転車に飛び乗った。
よし、ヒロシ君とのデッドヒート?!
いやしかし、
もうゴールまで距離が無い!!
そういえばもう四年前だろうか。
ヒロシ君をレースの中で
意識し始めたのは。
ほとんど勝てないが、
よく同じあたりで競いあってきた。
このゴール前の光景すら
なんだか懐かしい。
結局、あと二秒届かなかった。
先にゴールしてた人と、
後から続々と入ってくる人。
皆健闘を讃えあう。
プレッシャーヤバかったよ!
付いていくので必死だった!
やっぱ速いねー!
人が聞いたら、
いいオッさん達が女子の褒め合いみたいと笑うかも知れない。
でもコレは社交辞令じゃない。
気持ちを剥き出しにして走った後の言葉なんて、ただの確認でしかないからだ。
この確認し合う感覚は、
どこか友情に似てると思う。
例え全く知らない人とでも
この時だけは分かり合える気がして、
こんな一体感は、そうは味わえない。
これだから僕は、
シクロクロスをやめられないのかも知れない。
関西CX2017大野ダム
C3
モッツ 15/48位
ソウ君 31/48位
C4
ヨッシャン 24/37位
スタートグリッドに立つ。
前から7列目くらいか、
前方に50台、後方に20台ほど。
それなりに練習はしてきたつもりだ。
レースも半年ぶり。
緊張と寒さで
身体を揺すってスタートを待つ様子を
ヨッシャンは
背中のウサギが跳ねてるみたい、
と言って笑った。
間も無くピストルが鳴り、
自転車の群れが一斉にアスファルトの坂を登り始める。
今シーズンのシクロクロスが、
僕の中で今、スタートを切った。
走り慣れたはずのこのマキノステージ。
晴れればタイヤのよく転がるコースなのに、
今年は気温3度。
みぞれ混じりの冷たい雨が降り、
硬い路面はプリンプリンの極上の黒埿となった。
ただし、コースは例年と大きくは変わらず、アスファルトの登りストレートからスタート、山の上キャンプ場のキャンバーエリアと、
スキー場の斜面を利用して登り下りするエリア。
とにかく、キャンバーに差し掛かる辺りから、予定通り殆んどを担いで回った。
ヌルヌルした斜面をゾロゾロと皆で登っていると、
前の人が脚を滑らし落ちてくる。
かわしたモノの、
彼のペダルが踝にヒットした。
それでも寒さのせいかアドレナリンのせいか、
痛みを気にせず、チャンスとばかりに前へでる。
これだけ人か多いと、
他の人の落車が大きく順位に関わってくるもんで、このチャンスの後に起こった別の落車は眼前で二台絡んでラインを塞ぐ。
道を阻まれ、降車して交わしすぐ走り出すが、前の車両と一気に差が開き、先頭グループはずっと先。
追い付けないかな、と弱気になる所を横から抜かれ、我に返ったようにまた走り出す。
少し速度の乗るコーナーで、
内側から入ってきたライダーがハンドルを当ててくるが、上手く跳ね返し、
闘争心でニヤケてくる。
コーナーを、練習通りに曲がり、
少し前へ出る事が出来た。
自転車を操作する感じが、
また何かウキウキさせるのだ。
これは、楽しい。
下りのロングストレートの先、
思わず外に膨らみ、インからシングルギアの若者に抜かれた。
チネリだったか、なかなかカッコいいので、心中に彼を「スタイラー」と名付け後を追う。
ムキになる理由は多い方がいい。
同じシングルギア、スタイラーには負けないぞ、なんて小さな目標を捕捉するのだ。
二周目、アスファルトに戻ると、白いジャージを着たやたら元気な若者がとんでもないスピードで僕を抜いていく。きっとローディで、登りが得意なんだろう。
とにかく30番台前後か。
とはいえ抜きつ抜かれつを繰り返す。
登りのクランクが続くあたりで二人が連なっていたので後ろに着くと、
後ろの人が前の人を抜けずにイライラして何か叫んでいる。
いやいや、それは違うだろ、
と僕は思うから、
すでに疲労困憊だったけれど、
その気持ちひとつで
外側から二人を追い抜けた。
雨は強くなる。
登り勾配でバカスカ抜かれてしまったが、
次の下りでその数台をまとめて抜き返す事が出来た。
走ってたパックの先頭に出ると、
しばらく前が見えなくて気持ち良い。
3周目、アスファルトに戻ると、
また白いジャージのローディが元気に僕を抜いていった。
どこかで彼を抜いてたらしい。この得手不得手がハッキリと分かる感じが、
異種格闘技っぽさがあって楽しいと思う。
最後のシケイン、目の前でバイクを引っ掛けた人が真横になって通せんぼしてるので、
むしろコレはラッキー、左端から交わし、そこから比較的早目に乗車する。
ブリンブリンに滑る泥を、
皆が押すなか、自分だけ乗っていく作戦に出たがこれが失策、減速してしまい、
結果また抜かれてしまう。
徐々に操作が荒くなり、
コーナーで悪癖が出る。
後輪を滑らせてしまうが
それをペダルで抑えつけて曲げていく。
前のバイクに泥を喰らわせられながら坂を駆け下り、また一台抜き返す。
楽しいのだけれど、実際は般若みたいな形相になってて伝わらないだろうな。
そこからも抜きつ抜かれつ、
もうすぐゴールだ、
新しいジャージでもっと良い所見せたかったな…
まぁこんなもんかという気持ちと、
良かった、やっと終わりだ、等、
多くの感情が入り混じるゴールライン。
終わってすぐ、
震える僕にジャケットを着せてくれたヨッシャン、横にいたナカオさんが、
「よかったよ」と言ってくれる。
その言葉の真意に関わらず、
嬉しい言葉だ。
震える身体で、僕とヨッシャンは、
隣接してる温泉へ飛び込んだ。
つま先の感覚がジワジワもどる。
ヨッシャンが露天行こう、と言うが、
僕は鼻先まで湯槽に浸かって身体が温まるのを待っていた。
31位。パッとしない順位だなぁ…
とはいえ、気持ちは明るい。
もっと落ち込むかと思っていたが、
そうでもない。
よかったよ。
ナカオさんが言ってくれた言葉に
今日の僕の全てがある気がした。
ウチに帰って子供達を風呂に入れてると、息子が僕の踝の傷を見て、
どうしたの?と聞いてくるので前の人のペダルが当たってね…と話すと、
「その人謝ってくれた?」と言うので
あー、レースだからいいんだよと、と返す。すると、
「…じゃあ…ママに言う?」と深刻な顔で言ってくるので、
僕は笑いながら
違うんだよ、と息子の頭をクシャクシャ洗った。
地獄の様な夢の世界。
必死で走り、
そこで負ったかすり傷はその夢の世界にいた証の様に少し誇らしいもんだ。
非現実は常に自分と共にある。
そうである限り、
この多幸感に、
シクロクロスに飽きる事はない。
今年もシクロクロス、
チームKINFOLK-CX-JP、
楽しんで行きたいと思います!
2017関西CXマキノ C3
モッツ 31/65位
明石と島を繋ぐ渡船、ジェノバラインには自転車ラックが新設されていて、
こういったサービスアップは想像以上にツーリングの質を上げてくれる。
荷物は明石のコインロッカーへ放り込んできた。
島に到着するなり、
躊躇なく走りだす。
ボトルの水を一口飲むと、
潮の味がした。
今日はかなりの強風で、渡船上の
水飛沫がボトルの口に掛かったのだろう。
衛生上はわからないけど、
ミネラルを補給してる気分で悪くない。
淡路島を時計回り。このルートは普段なら軽く追い風で心地よいスタートになるのだけれど、
今日に限っては曇り空に向かい風と、
あまり快適ではない。
一気に行くか。
丁度折り返しになる福良港まで、
ノンストップで走りきる。
実は、
このロードバイクで淡路島に来るのは
初めてで、
そのせいか、こんなものだったか、
という印象。
それでも水仙郷の峠道は、やはりキツく、ここまで全く見なかったローディー達の群れが、はぁはぁ言いながら登っている。
殆どのグループが女性ライダーばかり、それを男性が引率している。
僕は、チョット失礼、といった風に
そのグループを1つ、2つかわして登る。
いい坂だ、やっぱり。
下りは一度事故してるだけに、流石に慎重になるけど、それでも以前の様な怖さは無かった。
恐らくこのバイクの安定感と、
トニックの岡さんから教わった加重、目線などが、少しづつでも出来て来てるのかも知れない。
水仙郷を越えて、
福良港まであと1つ2つ、峠がある。
そこに行くまでの、海岸線が実はキツい。
コンクリの路面、ガタガタとギャップを拾いながら、
薄暗い曇り空の下を走る。
いつの間にか、
僕はガーミンをチラチラと、
数字ばかり気にして走ってしまっていた。
風が強く、
速度が上がらない。
とはいえ、後ろから来たライダーに抜かされるのも面白くないなんて、
どうでもいい事を考えては黙々とペダルを回していた。
そんな折、
陽の光が射し込む。
薄く伸ばした雨雲にカッターの刃を切り込んだ様なその光は、
ひどく幻想的に海面をキラキラと輝かせた。
誰もいない道、
ボウボウと荒れる風の音、
そして、
自分の息遣いしか聞こえない。
そこに、この僥倖。
独りの世界に入り込む、
現実感を失う瞬間。
誰と走るかが大切、
いつもそう思うけど、
たまには独りもいい。
ワクワク感では遠く及ばないが、
開放感という意味では独りは悪くないし
独り占め出来る景色というのも、
これはこれで特別だと思う。
福良港に着いてしまった。
そうだ、グルメ、今日は太って帰るぞ、
と息巻いて来たのに、まだ何も口にしてない。
で、海鮮丼を、と店の前に行くが、
思ったより疲労がある様で、
食欲がない。
せめて、何か名物的なモンでも…
「ちりめんソフト」
のノボリが目にとまる。
まさかな。
いやでも、フランス料理とか、
牛乳使った魚料理とかあるもんな。
おばちゃんは「カルシウムたっぷりですよ〜」とソフトクリームにたっぷりちりめんジャコを振ってくれた。
おおよそ予想通りの味わいで、
塩っ気が濃厚な淡路牛のミルクの甘さを引き立て、
口の中に残るジャコの独特の弾力が楽しい食感だ。
マズイ。
いや食えない程マズくはないけど、
ブルーベリー味とかの方が、
満足出来たのではないだろうか。
なんなら、普通のバニラでよかった。
復路につく。
空はどんどん暗くなり、
風は暴風。
気を抜くと、ハンドルを持っていかれる。
海面の近い辺りでは、波が路上まで上がってきてる。
スーパーマリオみたいにタイミングを見計らって突破、という程ではないにしろ、波が引いた瞬間、全力で走る。
ふと風の音が止まる。
沿道の草木が進行方向に向かってなぎ倒されてる。
速度がグングン上がる。
これは、とんでもない追い風だ。
かと思うと、その追い風は突然、
転じて向かい風に、
やがて雨が降り出し、
早く帰りたいという気持ちになってくる。
この辺りで尻も痛くなってきて、
残り、あとたった25km。
なのに、
そこからは向かい風の中に小雨が混じり、なんだこれ最悪だ。
だんだん、心拍も上がらなくなって、
もうグルメどころじゃない。
あと僅かな距離が、
全く縮まらない感覚。
あぁ、これが淡路島だった。
行こうと思ってたカフェも、
道の駅にも寄らず、
まっすぐフェリー乗り場へ。
いったい何しに来たんだろう。
フェリーのシートにどかっと座って
飲んだ温かい缶コーヒーが、
やたら美味い。
前よりいい自転車に乗って、
以前より少しは上手くなった気がして、
それでも結局こんなモンだ。
輪行してウチに着き、
子供達を連れて、お茶でも行こうと
近所の小洒落たカフェへ。
なんせ昼メシを食いそびれてる。
子供にカヌレを食わせ、
僕はビールを呷った。
「パパー(携帯で)ゲームしたいー」
何言ってんの、こう言う所ではカッコつけてなきゃいけないんやで?
と言うと、
息子は少し気取ってストローを咥えた。
その様子を見て僕は思わず吹き出しそうになりながら、
淡路島を想う。
辛くて、
楽しかった。
やり過ぎなくらい心地よい疲労感と、
ウチに帰って感じる、この安堵感。
どうしようもなく
生きてると思わせてくれる自転車は、
僕にとって、
やはり大切な趣味なんだ。
認め印になってしまった、
というのが昨今の印象。
工業製品メーカーの質実剛健な製品にブランドロゴをポンと押すだけで、
突然、尖ったセンスを纏うというのは確かだし、
そもそも自分の好きな服をリスペクトしつつ、自己流のセンスをエッセンスとして落とし込む、
というのがストリートブランドらしいと思うので、
要約した結果そうなった、と思えば
当たり前なのだけれど。
注目すべきはむしろ
ストリートブランドのロゴにはそれだけの力がある、という事。
ストリートブランドには必ずバックグラウンドとなるカルチャー(例えばsupremeならスケートボード等)が存在し、
その文化がロゴに染み付いているからで、
これはハイファッションや一般的なアパレルブランドには有り得ないモノだと僕は考えている。
kinfolk×GAPが発売開始され、
丁度一月経つ。
てっきり、GAPの既成製品にロゴをポン押しした物だと思ってけど、
そんなワケはなく、店頭で手に取ったスウェットは、
中学生の頃夢中になってたインポート物のNBAのスウェットと同じディテールを持つ、質実剛健な作り、サイドパネル、ガッシリしたリブ。
素材選び、センス、店頭の他のGAP製品の中ではトップクラスの品質だと感じた。
そして、グラフィック。
レーサーロゴと名付けられた
kinfolkのロゴは、
ストリートピストカルチャーに端を発したバックグラウンドを雄弁に語る。
実際、ロゴ、グラフィック製品は飛ぶ様に売れているらしく、この力は、まさにストリートブランドのソレだろう。
「グラフィックは、Kinfolkというブランドのアイデンティティ、そしてどんなカルチャーに裏付けられているものなのかを端的に表現してくれるものなのです」
と、クリエイティブディレクターのジェイ・ペリー氏は語る。
ハイエンドストリートを謳うkinfolkらしい、アパレルとしての素材やシルエットへの拘りと、ストリートブランドらしいロゴが融合されたコレクションを、
GAPとのコラボレーションによって、
手に入れ易い価格で購入出来る。
これは嬉しくて、
大人気なくバカスカ買ってしまった。
ストリートブランドのロゴは認め印。
このコラボレーションは間違いないし、
同じロゴが入った自転車に乗っている事を、
僕はとても誇らしく思う。
ヨッシャンが遅れている。
登りきった頂上で踵を返して、
彼の様子を見に行こうと、
来た道を下り始める。
すぐ後ろにいたヤギさんとすれ違い、
その後ろ、その日のライドのメンバーとすれ違う中、目を凝らすがヨッシャンの姿が見えない。
下りはまだまだ深く、葛折りを上から1つ2つ見下ろしてもヨッシャンの影は見えない。
すれ違い様に見落としたか?
戻ろうと、ターンして登り出すと、
すぐソウ君が追って下りてきていた。
やはり、見落としたワケではなさそうだ。
何かあったのかも知れない。
僕らは特に言葉も交わさず、
またその坂をくだり始めた。
その前日。
週末のライドは何処へ行こう?
あれこれ悩んでると、ヨッシャンが、
ヤギさんのライドに皆んなでお邪魔しよう、と提案。告知内容では
長め、緩めのロードコースと書いてる。
ヨッシャンの膝の調子も微妙なので、、これは御誂え向きとヤギさんにメール。
そして、モチロン良いですよ!お待ちしてます、
と気持ちの良いお返事。
とはいえ、
集合場所の箕面駅に到着すると、
メンバーはお一人除いて皆顔見知り。
こうして顔見知りがまた一人、
増えて行くのは嬉しいモンだ。
が、この面子を見たヤギさん。
『緩く行く必要なさそうですね…』
と、予定変更。
1600upのコースに再設定された模様。
のっけから、
いいペースで箕面の山へ入っていく。
何度走っても気持ち良い箕面。
比較的綺麗なアスファルトの横に、
小さな渓流。川面に鎮座する苔生した岩岩を木漏れ日が輝かせる。
その横を、
ジュァッ、ジュァッ、とタイヤの音だけが、ペダルを踏むたびに響くのだ。
楽しくなってきてニヤニヤしてると、
ヤギさんのアナウンス。
『この先は短い坂がありますよ、短くてスグ終わりますけど。』
と言うので、僕はおどけて、
スグ終わらせる、って事ですか?笑
などと、余計な事を言ってしまい、
両脇のヤギさんとソウ君、
三人の間に暫しの静寂が流れる。
誰が合図するともなく、
一斉に駆け出した。
その様子にソウ君は思わず噴き出してしまう。
僕とヤギさんは、
本気だ。
拮抗し、くそっ、タイヤ半分
ヤギさんが前に出て、
大人気ない第1レース終了。
ハアハア言いながら苦しい苦しいと笑ってるのがまた楽しい。
そこから8to8ライドの本領発揮。
趣きのある峠を登りきると、
ヒビ割れたコンクリートの、
急勾配な下り坂。
そこでヤギさんからの前説が入る。
ここからこんな感じの荒れた路面で、
次に幅員が狭くなり、
その先に犬の散歩してる女性が居るので注意との事。
シャマルミレのブレーキをキキーッと鳴らしながら、
荒れた路面をクリアし、
なるほど幅員は狭くなって、
後は犬の散歩をしてる女性が、
本当にいた。
ヤギさんの、
まるでゲームの攻略本の様な正確な
前説に
(犬の散歩まで)知り尽くしてますね!と、皆で笑った。
ヨッシャンは膝を庇いながら走る中で、
つま先をバレリーナの様に伸ばすと痛まない、と気付いたという。
力は入りにくそうだけど、
つま先を伸ばせば当然膝は真っ直ぐ降りる。外膝の痛みはペダリングの膝の揺れが原因となる事が多いらしいので、
なるほど理にかなってる。
コレはいいアイデアかもしれない。
そして、野間峠。
勾配もキツく、トグロを巻く大蛇の背中を走るようにウネウネ曲がる。
この手のヘアピンコーナーは曲がりの深い部分が平坦に近くなる場合が多く、そこで休む、
でなく、あえて加速して、次の坂へ挑む。多少キツいが、個人的には、
この方が楽に登れる気がするのだ。
山頂のトンネルが見え、トップで着いたぞ、と、しょーもない優越感はすぐ冷めた。前に出過ぎだ。
ヨッシャンの膝が気になる。
とはいえ、戻るとなると、
この坂、もう一度上がるんか…
少し考え、いや、
でも、それも悪くない。
僕は意を決して
踵を返す。
下る中でソウ君と合流し、
更に下る。
あっ、
小さな声と共に僕らは彼の姿を確認した。
大丈夫?膝か?!
かなり辛そうだ。
僕とソウ君もヨッシャンの背中に着いて、また登り始める。
改めて、キツい坂だ。
ヨッシャン、膝いけてる?!
『いや、膝はともかく、体力が…』
その言葉を聞いて、
僕らは声に出して笑ってしまった。
三人で、
それは苦しそうに、
僕らは坂を登る。
今シーズン、三人でのシクロクロス参戦はかなり少なくなる予定だ。
そうなれば、いわゆる結果はついて来ないかも知れないけど、
いつも僕らには、
僕らの楽しみ方がある。
それは苦しそうに、
それでも声に出して笑いながら、
僕らは坂を登るのだ。
…けんめい、さん?…
「違いますね、イヌナキサンです。」
山道の看板を
息絶え絶えに読み間違えた僕に、
同じ様に息を切らせて
ソウ君が訂正を加える。
その日、僕らKINFOLKチームは
ソウ君の店に程近い、
泉佐野は
犬鳴山山域を走っていた。
落ちた松葉が昨夜の雨で濡れ、
路面はベタベタ。グリップは悪く、
斜度10%を超えるあたりのグレーチングでウッカリ踏み込んでしまい、
後輪はギュルんと空転してみせた。
突然のスリップに、
おっと、と驚く僕をハハ、と
力なく笑うソウ君が、
犬鳴山の名前の由来を話し始めた。
「昔々、この山に愛犬と鹿を狩に来た猟師がおったが、
あまりに犬が鳴くので獲物が逃げてしまい、
頭にきた猟師は愛犬のクビをはねてしまったそうじゃ。
じゃが、その首はそれでも跳ね飛んでいき、今まさに猟師に襲いかかろうと隠れていた大蛇にガブリと噛み付いた。
そこで命を救われたと気付いた猟師は、
おぉ、なんと取り返しのつかない事を、ワシはしてしまったんじゃぁ…ほんに、ほんにすまん事をした…と悔いて、
この山の僧となり愛犬を供養した。それを聞いた偉いお方が感動し、
この山をイヌナキサン、と名付けたという事じゃ…。」
と、日本昔話の様な話しを、
ザックリと説明してくれた。
しかし昔話ってのは今の感覚では
命の重さが随分軽い気がするな、
なんて話しながら、
まだ早朝の朝靄の中、
もがく様に僕らは山頂を目指す。
ヨッシャンが遅れていたので、
少し待つと呻く様に膝の痛みを訴えながら登ってくる。
どうやら膝の外側が痛いらしい。
僕はまだまだ初心者気分が抜けないのだけれど、
膝の痛みだけは、上、裏、外側、と三箇所きっちり味わった経験がある。
上と裏に関しては、サドルが低すぎか高すぎか、という所で概ね治り、
外側はクリート位置と膝の下ろし方で治る、というのが経験から得られた印象。
とはいえ、一度痛くなってしまっては休息する他無いので、
ヨッシャンの膝が爆発しない様にソウ君がルート、ペースを変えながら案内してくれる。
そんなソウ君の気遣いも何のその、
僕だけ気持ち良さげな道で1人ピューッと駆け出してしまい、ハッとして2人を待つが、来ない。
駆け出した位置まで4キロ程、
とりあえず戻って探したが、
居ない。
ヤバい、迷った。
と思った頃、ソウ君から着信。
ヨッシャンの膝を庇ってショートカットのルートに入ったとか。
結果二人を待たせて合流した。
コレ、昔話の世界なら苛立つソウ君にクビはねられてる所やな(笑)、
と、
言おうとしてやめる。
そこからの気持ちの良い高速コーナーを
三人で快走。
スタート地点のソウ君の店に到着し、
その後皆予定もあるし、
早々に解散する。
輪行で帰る電車の中でふと思う。
トレーニングの様に走るのも、
サイクリングとして走るのも、
僕にとっては同じ様に苦しく、
そして楽しい。
もし楽しさに差があるとすれば、
誰と走るか。
獲得標高でも、
消費カロリーでもないライドは
いつも特別で、
偏る僕の頭をニュートラルに戻す。
それが僕にとっての
チームライドなのかも知れない。
僕のツイッターのタイムラインは
自転車の話題で埋め尽くされる。
とは言え、
いかにクランクを効率的に回すか、
という類の話は少なく、
いかに自転車と付き合っていくか、
という話題が殆どだ。
その中でもテースケさんがよく言う
「自転車は誰と乗るかが大切」
ってのは何の異論もない。
しばらく独りでのライドが続いてた事もあり、
なるほど、誰かと乗ると、
これほどまでに違うものかと、
たった今、
背後にナイトーさんの激しい息遣いを聞きながら、
それを痛感している。
今日はくそ暑い日曜日で、
気温は35度を上回る勢いらしい。
ナイトーさんと早朝に出発、
道中にある橋を全力でタイムトライアルしたら、あとは緩く周回して帰りましょう、暑いし。
という計画だったはずだ。
それがなぜか、
軽い向かい風の中を、
ここ最近ではこれ以上ない程、
クランクを回転させる事に集中していた。
口から心臓が飛び出しそうだ。
ルールは、
体調の優れないナイトーさんを牽いてインターバル2周3セット。
僕が落ちて来たらナイトーさんが抜きに来るので、
それを抜き返しペースを保つ。
という、
もはや僕を鍛える(虐める)だけの練習。
…ゆるく走るんじゃなかったっけ…
と独りごちながらも、イイ所を見せたいヨコシマな想いもあり、全力で踏み込んで見せる。
ナイトーさんの
「いやぁ、最近のモッツさん調子良いからなぁ〜」という口車に乗せられた格好だ。
速度計の数値はいつもより少しだけ速いタイミングで目標速度に到達する。
そこから更に伸び、
落ちない。
全部ナイトーさんのせいだ。
背後から追われる事でココまで違うのか。これは、引き離すまで休めない。
コーナーを抜けぎわ、
尻をサドルから上げ、
ナイトーさんを千切るつもりで
一気に踏み込む。
速度計の数字はまだ伸びる。
振り切ったか、
と軽く振り返ると、
そこにナイトーさんの前輪が見える。
いつも思うけどナイトーさんは
反応が速い。
僕が分かりやすいのかも知れないけれど。
そのまま最後のコーナーを抜け、
間も無くピピッとガーミンが自動計測でタイムを教えてくれた。
はあはあ言いながら息も絶え絶えに、
ガーミンを見て驚く。
ナイトーさん、すげータイム出ましたよ!(自分的に)。
実際、自己新記録だ。
引っ張り合った事も過去にあったのに、
その記録を上回った。
まさにナイトーさんのせいだ。
とはいえ、もしかして二台連なる事でエアロ効果が有るのかも知れない。
分からないけど、そのタイムを享受する程度には十分、身体は疲れていた。
「今日のワインは美味い、とか(ブログに)書かないでくださいよ笑」と、
両腕をハンドルに垂直に突っ立て、
肩の間に顔を落としていかにもシンドそうなナイトーさんは絶え絶えに笑って言った。
結局ハードな練習になってしまった。
これはでも、
テースケさんの
「誰と乗るのか」という定義とは何か少しズレてるんじゃないかな…、
と思いつつ、
いつものカフェに寄る。
僕らはRAPHAの熱心なファンと言う事もあり、ジャージがお揃いになってしまった。
なんだか面白くて、
せっかくなので写真を撮ってもらおうと、
ナイトーさんが店員の女の子に話しかける。
こういう時のナイトーさんはスマートで、反応も速い。
おじさん二人で朝カフェ。
彼とは歳も同じで、
子供も歳が近い事もあり、
話は尽きない。
ウチに帰ってログを見て、
自分もナイトーさんも自己新記録を出してる事を確認し、
なんと言うか、
二人で協力して山でも登って来たような、また何時もと違う達成感を味わう。
夕方、
妻の母が大量にコロッケを揚げてくれたので、
僕は酒を買ってくる。
セブンイレブンのPBワイン。
ヨセミテロードスパークリング・ロゼ。
泡で800円しないワインを他に知らないし、味も薬品を思わせる安いロゼ独特の渋み。
しかし、言うなればDr.ペッパー的な絶妙なバランス感で、
案外悪くないし、
これが、コロッケと絶妙に合う。
粗めのミンチ肉からジワっと出る肉汁を泡が弾き、スッキリした渋みが脂を流す。
ジャンキーで、止まらない。
ガツガツとコロッケを頬張りながら、
また泡をグイッと飲む。
今日はよくあるクソ暑い日曜だったけど、
そこに僅かな達成感があるだけで、
家庭料理もご馳走になるし、
安い酒でも美酒になる。
今日もやはり、
ワインが美味いのだ。
僕には絵描きの親友がいる。
何もないところから突然その道を選び、
今は東京在住。
絵描き兼、絵の先生として生計を立ててる事を尊敬しているし、
彼と小学生からの付き合いが続いている事を誇りに思っている。
そんな彼が、ダイエットも兼ねて、
片道30km程の通勤先まで自転車で通勤したいとか。
そこでどんな自転車を買えばいいのかと、ワクワクする様な案件をメールで送ってきた。
条件は、先の走行距離、画材を積んで走れる積載量。雨の日でも走れる泥除け付き。
後は予算、10万前後。
流石だ。
中学生の頃共に自転車で他府県まで走ったり、
高校生の頃はナゾのチューブラーのロードにバイト代を注ぎ込むくらいには彼は自転車が好きだったので、
分かってるな、と言う感じだ。
実際こんなブログを書いてると、
「本格的な自転車が欲しい、予算は5〜3万は出せる」的な相談をされる事もしばしば。
よく知らんけどトレックのFXがええんちゃう?
とか勧めてるんだけど、
10万で完成車となれば選択肢も少なくない。
車種は、ランドナー、
もしくはスポルティフだろうか。
違いはタイヤのサイズで、
最初は700cのスポルティフを勧めたが、よくよく調べるとランドナーの方が積載量が多く前後輪のパニアにサドルバッグハンドルバッグを搭載した「フル装備」に向いているという。
そこまでするかはともかく、
絵描きの彼が画材をパニアバッグに積め込んで、
美しいクロモリのランドナーで山を越える姿を想像しただけで、
胸が踊る。
ARAYA製、TUR 。
ダブルバデッドのクロモリフレームに、
ロストワックスのクラウンを持つクロモリフォーク。
giantや石丸自転車も勧めつつも、
どう考えてもARAYA製がカッコよ過ぎる。
ホリゾンタルのラグフレーム、
650B規格対応のタイヤサイズ。
輪行を意識したセパレートの専用マッドガード。
丸ハン、ダブルレバー。
オリジナルリム。
まさに、美学の塊。
僕の紹介をうけ、
早速取扱い店を回ってくれたんだけれど、
1店舗目はニットー製キャリア(片側24000円)しか付きません、と15万の見積もり出してgiant勧めてきたり、
次の店舗では他の客と遊んで相手してくれないなど、
結局近所の、
アラヤの取扱いは無いが非常に対応が良いショップでミヤタのCXモドキを勧められ、
価格も安いしそこで決めると言う。
アルミ製のCX入門用としてもハンパなイメージを払拭出来ないその完成車は、素人同然の彼が片道30kmを走るには、僕にはどうにも不適としか思えず、
店はともかく、それならTURの廉価版、
FED(6万円)の方が絶対良い、
と勧めた。
そして彼はまた違うアラヤ取扱い店へ。
もし、
僕の意見が無ければ恐らくミヤタを
買っていただろう。
彼の様に
さぁ、自転車を買おう、
という層が手荒に扱われる現実は少なからずあるのかと思う。
真っ当に自転車に乗るならそれなりの敷居を跨いで来い、というのは分かる。
いや、やっぱ分からんか。
どんな業界であれ、
目先の利益ばかり追うとどうしても文化そのものは衰退していくというアレなんだろう。
とにかく、
次に選んだ取扱い店は三度目の正直。
彼の話をちゃんと聞いて対応してくれただけでなくサービスも親密にしてくれて、
それだけで彼も他の自転車用品全てその店で決める、という話になったそうだ。
しかも、
納期がFEDは12月、TUR(9.5万円)は9月という事で、後者に即決したという。
ヨッションも言ってたが、
良いショップとの巡り合わせってのはあるもんだ。
正直、3万の違いであのスペックなら無理してでもTURにして欲しいと思っていたので、
これは嬉しい報告だった。
別に僕には何の利益もないんだけれど、
「コレは楽しい!」と思える自転車を選んで貰えたのではないか、という自己満的予測。
その結果、彼がまた自転車に目覚めでもしたら、とワクワクしてしまう。
中学生の頃、
彼と22時に待ち合わせ、
自転車で福井県から京都を目指した。
国道161号線、
真夜中のヒルクライム。
登りきって降り出し、
その降りの直線はブレーキを掛けなければ、およそ速度50kmは楽に稼ぎ出せる程。
で、
その後にくる減速コーナーで、
彼はガードレールにダイブ。
シャツはボロボロ。擦過傷は肩にサケの切り身でも付けてるかの様だ。
それでもと根性を見せて走り続けようとすると、
直後に僕がパンク。
これはもう、ヤメた方がいいな、
と笑いながら星空の峠を僕らは折り返した。
もし叶うならもう一度、
彼と走りたい。
その願いは、
もしかすると叶うかもしれない。
次は、東京から福井まで、山脈を越えるのも良い。
晴天の、ウネリ続ける山道を、
息を切らして追越し追い越されながら。
もう30年以上の付き合いだ。
語り合っても語りきれるワケもない時間を、
ペダルを回すその息遣いの中で感じ合えると、
今の僕なら、
確信出来るのだ。
大阪市内から南東へ走り、
生駒山地は信貴山をクルッと回って
お洒落カフェに寄って帰ってくるサイクリングコースをご紹介します。
難波あたりを出発終点として、
ざっと3時間半ほどのコースになります。
バームクーヘンと自転車のカフェ、FRANCY JEFFERS CAFEにて朝食を摂る事を目標として出発しますので、
朝6時頃の出発がオススメです。
まず難波から26号線を南下し、
大和川サイクリングロードへ。
このサイクリングロードは道も荒れ気味ですし、変化のない景色が楽しいとも思えない、
なんなら向かい風の中を修行僧の様に黙々と走るセクションです。
たまにロードバイクを目の敵にした
ナニワのオジさんが、
追い越す瞬間
『なんじゃこらー!』
と叫んでくる事もあるので、
十分距離を取って追い越して下さい。
真っ直ぐ行けば柏原市民文化会館に到着します。
サイクリングロードが好きでない方や、
時間を間違えちゃったオッチョコチョイさんは、
国道を南東方面へ走れば多少早く柏原市へ入れます。
その場合も、
信号待ち等でナニワのオジさんに
『兄ちゃん競輪選手か?!』
とか聞かれますので、ええまぁ。とテキトーに答えておいて問題ありません。
二度と会う事も無いと思います。
柏原市に到着したら葡萄坂の入り口、
大県南の交差点へ向かいます。
坂の麓にコンビニがあり、
目を三角にしたロード乗り達が
『….かかってこいよ…』
と言わんばかりの雰囲気で
タムロしてるのが目印です。
でも実際に声を掛けると気さくな方が多いのでご安心下さい。
葡萄坂に入ると墓地の辺りから急勾配になり、
墓地といえば、
最近は少子化過疎化の影響で墓守りが居なくなり、墓が荒れ放題で社会問題になっているとか。
皆様、お墓参りはされましたでしょうか。
とにかく、
このコースでは最も厳しい登坂でもありますし、
達成感に浸る為にも、
後でログ見てニンマリする為にも
葡萄坂のゴールとされる変電所まで、
しのごの言わずに全力で駆け上がって下さい。
だいたい20分くらいの登りですし、
僕は今年墓参りに行ってません。
変電所を過ぎると、
その先には痛快な下りが続きますが、
すぐにまた登りになります。
この辺りでボトルの水が無くなり
アイヤーとなった頃、
タイミングよく自販機が現れますが、
『自転車を立てかけないで!』
と張り紙されてますので、
決して立てかけてはいけません。
トップチューブに跨り器用にボトルを満タンにしたら、
また坂を登ります。
ずいぶん高い所まで登ったなぁ、と思う
のどかで素敵な景色も見下ろせます。
この辺りまで来ると、
葡萄坂を全力で登った事を後悔しはじめる事と思います。
十三峠の裏に入ると、
斜度も峠の名に恥じないなかなかの登りごたえなので、
なぜあの時全力で走ったのか、
そんな事に何か意味があったのだろうか、
と自問自答しながら必死で踏んで頂けると思います。
小さなトンネルを潜ると十三峠の頂上。
駐車場はアベックの車でいっぱいです。
こちらはと言うと、
汗でずぶ濡れの自転車おじさんか憂いた表情で地上を見下ろしてるだけ。
こんな所に用は無いので、
サッサと下る事にします。
十三峠は道幅も狭く路面も荒れ気味で、極上の減速コーナーが続きますので、
下りは大変危険です。
心して下る様、お願いします。
下りきったら、
そのまま真っ直ぐ170号線まで出て、
左へ向けて走ると、すぐ
FRANCY JEFFERS CAFEが見えてきます。
倉庫を改装したこのカフェは大変大きく、
なんと店内まで自転車を入れて、
自転車と一緒に食事が出来るので、
盗難の心配なくユックリ出来ます。
外のスロープから店内に入り、
さらに大きなスロープで二階まで自転車を持ち込み、先に席を取ります。
スロープには滑り止めしてあり、
クリートでも滑りにくいのですが、
僕の場合手すりを使わず降りていたら
滑ってコケそうになりました。
皆さんも、滑り止めしてあるからといって油断してはいけないとキモに銘じて下さい。
他のコーヒースタンド同様、
カウンターにて注文します。
コーヒーとハーフサンドを注文し、
「1300円になります。」
え?
「あ、1300円になります。」
…決してお金が無いってワケじゃないんです。
ただ、朝メシで千円越えするのは幕の内のOLかしら、という話しで。
とはいえ気の利いた冷製スープも付くし、実際食事は美味くボリュームもあるので、結果満足頂けるかと思います。
他にもメニューは充実していますので、
何度来ても飽きそうにないです。
また、店内には自転車撮影用のラックや、自転車雑誌、自転車用品を使ったインテリアなど散々インスタバエする環境が整うだけでなく、
存分に自転車を堪能出来ますし、
セルフで頂けるお冷にはレモンが沈められていて、渇いた喉に最高です。
因みにこのカフェの店内に持ち込める自転車はスポーツバイクのみで、
となると、僕の後輩が作った魔改造ママチャリはどうなのかしら、
と思うのですが、
線引きが分からなければ、店員さんに聞きましょう。
何であろうと、
店員さんがダメっていったらダメなんだからね!
さて、
カフェを出たら、店の前の国道170号線を北上、県道24号線に入り、まっすぐ大阪市内へ向かいます。
この道は自転車レーンが整備されていて、信号は多いもののとても走りやすいと思います。
ただナニワのオジさんも多く、
抜いても抜いても信号無視して抜き返してくるのでココぞ、という直線で残った力を振り絞り、フルスピードで抜き去るしかないかも知れません。
内環状線を超えれば、
もうすぐ終点、難波です。
大阪の素晴らしさを堪能出来る
周回コースだと思います。
ぜひ挑戦して、
ナニワのオジさん達を堪能して下さい。
すぐに歯医者に行き、
ブリッジ作り直しって事で、
総額二万四千円とか。
妻は別に何も言わなかったけれど、
電車代を節約するという口実で、
盆は僕一人、
自走で帰省する事にした。
実家までは
片道150kmくらい。
淡路島一周と考えれば
どうという事は無い距離だ。
事前に荷物を実家に送って、
朝7時半に出発すれば
昼過ぎには着く。
兼ねてからの願いだった
自転車での帰省だ。
途中、良さげなパン屋で休憩を取り、
残りの距離を携帯で調べる。
まだ80kmもある。
いや、
もう80kmしかない、
と、
出来るだけ楽しそうなルートを寄り道しながら探して走り、
浮かれてオーバーペース気味で、
実家のある街との県境にある峠を登る頃には、もう脚を回すのも辛くなっていた。
あと数メートルで市内に到達するってトコで電話が鳴る。
母からだ。
後どれくらいで市に着くのか聞いて来たので、まぁ、あと5秒くらいかな笑。
と、そこで母は初めて僕が自転車で帰ってる事に気付いたらしく、
家の玄関に着いた僕の顔を見た母は
開口一発、
「あんた二児の父やのに、事故でもしたらどうするの!」
と怒られた。
そりゃまぁ、そうか。
後を追って電車で来る予定だった妻は
娘の発熱で帰省出来なくなり、
前乗りで帰ってた息子は従兄弟と親父とべったり遊んでる。
二日目は特にやる事もないし、
僕はせっかく自転車もある、
という事で、
市内一周してみる事にした。
さて、
行くか。
そういえば、小5の頃だったか、
自転車で市内一周してくる、
と自分的市内一周を目指し、
母に見送られて出発した事があったが、
随分小回りな一周だったし、
結局最後はオモチャ屋に寄って、
本屋で立ち読みして敢え無く帰って来てしまった。
恥ずかしく、苦い想い出だ。
流石にあの頃よりはマシなルート取りで走り出し、
最初の丘に差し掛かる頃、
20代の頃この辺りでパトカーから逃げた事に気が付いて
…嫌な事思い出したな、と
少し憂鬱な気持ちになってギアを二枚落とし、
一気に丘を駆け上がった。
その丘は以前父の自転車でヒイヒイ言いながら登ったのだけれど、
ロードだと大した事はないと感じたので、機材ドーピングってのはあるな、
と痛感する。
港側に出ると美しく、赤レンガ倉庫等、観光地として整備されていた。
その先にある壁の様な港大橋。
僕は幼少の頃この辺りに住んでいて、
親父の趣味で着せられた巨人の原選手のユニフォームでよく走り込みをしていた。
港大橋の端をせっせと駆け登る小2の僕には、その坂はとても大きかった。
とはいえその頃、
リトルリーグに入ってたワケでもなかったし、
何の為に走り込んでいたのかは
今も不明だ。
さて、
半島に入るとサイクリング感はぐっと上がる。
穴場の海水浴場へ向かう道だが、
学生の頃その海の家でバイトしていて、
同じバイトの女の子を好きになったけど、
その子に「ミエハルさん」とアダ名されたし、
当然叶わぬ恋に終わった事を思い出しながら、
僕は、半島の反対へ抜ける峠道、
「ノーマ峠」へ入る。
減速コーナーが繰り返す、走り屋のメッカで凶悪な峠道。
僕の友人も何人かガードレールの向こうへ飛んで行ってると聞いていたが、
登りで自転車なら大して怖くない。
が、
なんと、
峠は減速コーナー区間手前で通行止めになり、
代わりに
トンネルが貫通していた。
それはいい。
僕はトンネルなんか無いコースだと思ってライトもテールランプも外してきていたのだ。
なんてバカなんだ。僕は。
そのトンネルは思ったより長く、
緩やかにカーブして出口は全く見えない。
よりによって今日は黒いジャージを着てる。
暗闇の中で、自分の置かれた状況を鑑みて、トンネルに入った事を後悔した。
対向車のライトが逆光になれば、
後方からくる車には完全に僕は見えなくなるのではないか。
死が脳裏をよぎる。
せめてテールランプがあれば。
携帯のライトをつけ、
背中のポケットからチョイ出しにし、
少しでも視認して貰える様に、
大袈裟にハンドルを振ってダンシングを始める。
とにかく、この登り勾配のトンネルを、
全速力だ!
その時、後方から、車の音。
祈る様にペダルを回す。
どうやら気付いてくれた様子で、
その車の動きで後ろの車両も交わしてくれた。
でも、次のグループの先頭が気が付いてくれるとは思わない。
その矢先、出口と思わしき光が見え、
僕は全速力で走りきった。
大層な恐怖体験だったが、
トンネルを抜ければ
緩やかで長い下り。その先は、
白く美しい浜が広がる。
水着の女の子に癒される、
かと思いきや、家族連れか、でなければ半身に墨が入った悪そうな若者がこれ見よがしにタムロしていて、
20年前と余りにも変わらない風景に、
なんだかまた憂鬱になる。
海岸を抜け、山間に入ると、
昼間だというのに農村に
殆ど人が居ない。
オシャレな感じのカフェに入ると、
サイクルラックなんかもあって現代的だ。
そこから田園を抜ける新しい道は、
走りやすく気がつくともう、
ウチに着いてしまった。
50kmもないじゃないか。
もう一度小高い丘に逆から登って街を見下ろす。
四方を山に囲まれた街。
若い頃、僕らはよく、
この街を箱庭と呼んだ。
それは色んな意味での閉塞感を表していて、それは今も変わらない。
良くも、悪くも。
翌日は、地図で見てもクネクネと蛇行し、激しい勾配と標高を予感させる市外の山間部に向かった。
そこは案の定、
とんでもなく蛇行した山道で、
それは想像以上に気持ち良く、
写真を撮るのも忘れ夢中で駆け上がってしまった。
最終日、自転車で大阪へ帰るのはさすがに母に止められ、
父が娘に会うついでに僕と息子を車で送ってくれた。
その夜、
父と飲む。
おやすみを言って寝室へ駆け込んで行く息子を、娘がキャッキャ言いながら追いかけて行く姿を愛でた後、
親父が
「お前は何しでかすか分からんからな。今回も突然自転車で帰ってきたり」
ハハハ、と愛想笑う僕に、
続けて
「でもお前の人生はワリと良いんじゃないかと思う。点数付けるなら、そうやな…」
「85点」
何その半端な。
「給料安いからな、85点」と言って親父は笑った。
田舎にいる頃から親父には迷惑ばかりかけていた。
そして実際、
あの街に良い想い出なんかあまり無い。
いやでも、
嬉しくて楽しいだけの事なんて、
大した想い出じゃないんだろう。
振り返れば、
良くも悪くも変わらないあの街が
いつも赤点だった僕を、
今も変え続けているのだと思う。
「うそうそ、ホントに思ってないから言えるんじゃけん…」
「…かわいいと思っとお…。かわいい…。これは本音やけ」
…サイクリングロードってのは、
真っ直ぐだと思い込んでボーッと走ってると、
思わぬ所で行き止まりにぶち当たってしまう。
でも、その行き止まりに関して言えば、
ガードの向こうに芝の伸びた見晴らしの良い小さな丘があったので、
ガードを跨いで写真を撮ろうとしていると、
丘の下から、
こっちが赤面する様な、
先のカップルの会話である。
見てはイケナイ物でも見るように、
脇の下から覗き見た彼らは、
日焼けピクニックをするカップル。
1人は短髪でビキニパンツのマッスルガイ。
もう1人は対称的に線の細い、男性。
…その時僕は感じたんだ。
東京の「自由」ってヤツを…。
荒川サイクリングロードは、
野球少年達とサイクリストでごった返し、
まぁ、走りやすい歩道、くらいの感じで、ビュンビュン飛ばすには時間帯を選ぶ必要があるのだろう。
走る先々に野球のグラウンドが広がってるのは、大阪の河川敷も同じで、
あらためて日本人の野球愛の深さを
痛感しながら、
全国どこの河川敷にもある様な、
サイクリングロードをひた走る。
短期の東京出張にわざわざロードバイクを持ってきたので、
宿舎から遠くない荒川サイクリングロードの起点へ向かい、
当て所なく走るのもどうかと思うので、
今回はネットで調べたコースをトレースする事に。
荒川サイクリングロードから入間サイクリングロードへ、
そのゴール手前で逸れて「サイボクハム」で昼メシにトンテキを食らうルート。
ざっくり片道80km、
往復しても160kmくらいか、と
走り出したものの、
あまりにもサイクリングロード然としていて黙々とクランクを回し続けるだけの道のり。
前週に、
都内に向かって観光がてら走りに行った時の方が、楽しかったかも知れない。
その日は、
LUGに飯食いに行こうと走ると
お店は引越し中。
ちゃんと調べて来なかった自分に苛立ちながらも、
それならという事でRapha東京に。
ここで食べたTDFサンド?がメチャクチャ美味くてスッカリ機嫌を良くし、
偶然通りかかった皇居周辺で行われていた、
パレスサイクリングという、
皇居周辺道路を一部自転車専用道とし、
サイクリングコース化するイベントに混じってみた。
道端ジェシカみたいなトライアスロンな女性ライダーや、貸し出しされてるタンデムバイクに乗る若いカップル、
家族で自転車を楽しむ人々など様々。
その中でガンガン飛ばすローディーの方が場違いな気もしたので、
それなりにスピードを抑え、距離を稼ぐ方向でグルグル走ってると、
カーボン製のロードバイクばかりの中で一際目立つスチールのフレームを見つける。
アーミーグリーンの、カラビンカだ。
飛び抜けてオシャレな感じがしたし、
INSTAでいつも見てるホンザキ氏かな?
でもまさか、この大東京でそんな偶然あるだろうか、という気がして、
声をかける事なくスッと前に出た。
(後でご本人からインスタで連絡を貰いました。)
皇居周辺という事で、
道は綺麗だし景色も良く開放感もある。
何よりこんな都市のど真ん中で自転車専用道なんて、
非日常感が気持ち良い。
そう、
今こうして走るサイクリングロードにも、
確かに非日常感はあるのだけれども。
そう言えば、
すれ違うロードバイクに乗る人に、ヘルメットを被ってない人を結構な数見たと思う。
これは文化の違いか、分母の違いか。
僕自身、ヘルメットに救われた経験が何度かあるので、怖くないのかな、とは思うけれど、
それがスタイルであれ何であれ、
他人がとやかく言うモノでもないし、
そういうのは好きじゃない。
そう、
東京は自由…。
荒川サイクリングロードから入間サイクリングロードに入ると、
幅員は狭くなり、
サイクリストもグッと減る。
暑さで参ってきて、
水といっしょにジュースも買って、
ゴクゴクとその場で飲み干し、
水は水でボトルに入れるけれど、
夏の陽射しがボトルを温めてしまって、
買い足した水はすぐヌルくなってしまう。
サイクリングロードを逸れて、
サイボクハムの近くまで来ると、
なるほど、東京も少し走ればそれなりの田舎町に到達するんだな。
そう感じて間も無く、
目的地、サイボクハムに到着。
なんだか腹は減ってるのに食欲がない。
正直、
肉とかハムとか、
ムッとする。
が、
目の前に現れたトンテキとハム。
とりあえずカブリつくと、
甘く香ばしい肉汁が
じわっと舌を包んで、
一気に食欲を思い出させる。
コレはビールしかない、
と、
慌ててノンアルコールビールを購入したがコレはまぁ、
やっぱあんまり美味くないな。
でも、
いかに東京が自由とはいえ、
流石に飲酒運転はマズイし。
ここら帰路、80km。
とりあえず残り数キロでサイクリングロードはゴールなので、そこまで行ってみたが、
何もなかった。
予定通り、折り返すか。
でも国道で真っ直ぐ帰ったら50kmほど。
…やっぱ、
真っ直ぐ帰るか。
そう、東京は自由なんだからね!
特に面白くも何ともない、
ただ都心へ向かうだけの国道を、
信号で捕まり、
車に邪魔扱いされながら、
僕は黙々とペダルを回す事に。
水の飲み過ぎで腹はポチャポチャしてるのに喉ばっかり渇く。
たまらず自販機でキレートレモンを買う。爽やかな酸味が恋しい。
って、よく見たらキレキレレモンて買いてあるやん!甘っ!
フザケやがって…!
類似品と本物の見分けもつかない程の渇きを潤せるのは、
やっぱりビール。ビールしかないで…。
日も暮れはじめた頃、
誰も待たない宿舎に到着。
近所のコンビニで買ったビールに
早速指を掛けそうになったが、
その手をそのまま冷蔵庫へ入れた。
まだだ。
ここで焦って飲まない。
大人は堪える事で幸福感を跳ね上げる術を知ってるモンだ。
シャワーを浴びて埃と汗を流し、
そこで初めて脚にキテる事に気がつく。
部屋着に着替え、
せっかくだ、グラスも出そう。
誰が置いてったのか、
これは中々良いグラスだ(多分)。
冷蔵庫から出したビールのプルトップを
僕は勿体つけずに引いた。
『パシュッ』
小気味良い音が、鼓膜を震わせ
耳小骨を伝う。
グラスに注いだビールをンぐンぐと飲み干して、
誰ともなく「うまい」と呟いた。
誰にも縛られず、
誰も知らない街で暮らす事が
自由だと思ってた頃があった。
自由とはなんだ。
クタクタに疲れた脚。
飲み干すビールの喉越し。
舐め回すように今日のログを見つめる時間。
誰かと比べる事もなく、
比べられる事もなく、
達成感と、
自分の事が少しだけ
好きになれる時間がある。
好きな自分でいられる事こそが、
きっと自由という事で、
東京ってのは、
そんな人が沢山集まる街なんだろうなと
ボンヤリ思いながら、
ソファの上で僕の意識は溶け落ちた。
と前触れもなくメッセージを送ったのに、
「六甲コーヒーコースで。」
と、気持ち良い返事が返ってくる。
それを受け、
少し上がったテンションを利用して、
チェーンの洗浄でもしちゃうか、と。
個人差はあると思うけど、
僕の場合は150〜200km毎に洗浄。二回に1度はそのまま洗車という感じ。
今回はとりあえず、ドライブトレインだけ、綺麗にしておく。
使うのは、
パークツールCM5.2と、
ディグリーザー。水に洗剤、
グランジブラシと、
チェーンオイル。
あとはボロ布のウエス。
チラシを敷いて、
さて、やるか。
まずクリーナー本体の蓋を外し、
チェーンを挟み込んでから、
蓋を金属製のクリップで、
パチコン、パチコン、と留める。
本体は樹脂製だけど、
実際持つとシッカリとした作りで
剛性感もあり精度も高いと感じる。
ロード乗りでまだコレを使ってない人には、一刻も早い購入を勧めたいくらいだ。
ディグリーザーをラインまでなみなみと注ぎ、
後はペダルを反時計回りに40回転。
コレだけでも随分キレイになるんだけれど、
ディグリーザーを紙に吸わせて廃棄して、
次は中性洗剤入りの水をクリーナーに注入。40回転。
最後は、真水に入れ替え、
また40回転。
ウエスで拭き上げれば、チェーンはピカピカになる。
次は後輪を外し、
カセットの清掃。
と言っても、ウエスの端と端をピンと張り、
それをギア板とギア板の間に入れて、左右に擦り取る。
バラすよりも手軽だし、それなりにキレイになってくれるので、日常の清掃には
コレで十分だろう。
後はグランジブラシなる三方向から挟めるブラシにディグリーザーを吹き、チェーンリングをガシガシと汚れを擦って、
ウエスで磨く。
フレームに飛び散ったディグリーザーの汚れなどを拭き取って、
車輪をハメこむ。
チェーンを掛けたら、
お気に入りのチェーンオイルを注油し、
余分な油を拭いて出来上がり。
慣れれば30分くらいの作業だろうか。
ピカピカに輝くチェーンを見下ろしながら、グローブを外し、
僕はボトルに入れたアイスコーヒーを啜った。
翌朝、
予定通り走り出す。
変速がパチッ、パチッと気持ち良い。
登りで引き離したハズのヨッシャンに、下りで追い抜かれる。
彼もずいぶんカンが戻ってきたようで、
競う様にして僕らは六甲の山を下り、
麓のコーヒースタンドに入る。
無機質な内装の奥にある
有機的で物々しい焙煎機が、
ロースターでもあるタオカコーヒーの雰囲気を一層良くしてる様に思えた。
「モッツさん今日誕生日でしょ?」
そう言って、
ヨッシャンが奢ってくれたコーヒーを口にする。
これは美味い。
シングルオリジンのライトローストは、
ライドの後にピッタリな爽やかさで、
思わず二杯も飲んでしまった。
そうこうしてると、
今時見ない車高の低いファミリアが、
ボォンと音を立ててテラス席の前を曲がっていく。
奥に車を止め、
歩きながらやって来たのは、
山を走って来た帰りというコッシーだった。
自転車の話になると僕らは完全にオタクで、ついつい身体が冷えるまで話に花を咲かせてしまう。
「モッツさんのロード、持ってみて良いですか…あれ?ヘッドガタ出てますよ?」
えっ?!マジで?!そういえば全然締め直しもしてないわ…
日常整備は疎かにしちゃいけないな、
チェーン洗ってばっかじゃなくて。
いつまで経ってもビギナーぽさが抜けないもんだと自嘲して、
僕らはコーヒースタンドを後にした。
途中、
パンでも齧ってから向かおうと、
コンビニの前でクロワッサンを頬張ってると、
背後から、
ヒュッと、シルバーのTonic、
テースケさんが現れて開口一発、
「…何やってんの」
あっ、おはようございます…
「こんなトコでモグモグして(笑)」
…いや朝飯を…
と、
なんだか気恥ずかしい感じで朝の挨拶を終え、
今日のライドは始まった。
例のごとく、
僕は週末ぎりぎりに声をかけてしまう。
あくまで、まぁお暇であれば、
と言うスタンスなのだけれど、
岡さんが速そうな人達に声を掛けてくれて、テースケさんがコースを案内してくれて、今回もなんだか申し訳ないくらい最高のライドになってしまった。
ナイトーさんにグループチャットで「またテースケさんに案内してもらうつもりでしょ?」と笑われて、全く返す言葉もない。
そのナイトーさんが今回参加出来なくて、テースケさんも少し残念そうにしながらも、道中に岡さんヤギさん、そしてRideinthewoodsのオカモト君と合流し箕面の山を目指す。
山の麓でアヤちゃんと合流して、
今日は、6名でのライド。
人数が多いだけでもソワソワわくわくするのは何でだろうか。
コレも自転車の醍醐味。
と、
車の入れない山道に入って行く。
談笑しながら登るけど、
数日前の嵐で路面に折れた枝葉が散乱し、下りも路面状況は変わらず、オカモト君がサイドカットのパンク。
サイドカットは修理用のパッチが無い場合、テレカや御札をチューブとタイヤの間に挟む、と言う応急処置を聞くけど、
そのタイミングで補給の羊羹を食べていたヤギさんが、コレは?
と羊羹の包装ビニールを差し出す。
確かに丁度良さそう…。
ヤギさんの機転でパンク修理完了。
何となく、自転車屋さんが同行してるって安心感あるなー、と、
オカモト君の修理を手伝うヤギさんの佇まいを見て思う。
そのヤギさんのダッシュ力を、
テースケさんが「マグナム」と評した事を発端に、しばし下ネタで一同ゲラゲラ笑いながら開けた県道を走り出す。
男性的にはマグナムと言えばカッコいい方を彷彿せざるを得ないワケで。
笑い声も一息ついて、
しばし静寂の後、
ズッ、
と岡さんが前に出てふっとその尻がサドルから浮く。
ちぎり合いの合図だ。
ハンドルを握り返した時にはもう遅い。
テースケさんと岡さんがドンっと
加速する様は、
まさにリッターバイクのそれだ。
が、なぜか岡さんが伸びない。
愛車のTonicCXをバラしてる為、
無銘のカーボンCX(タイヤもブロック)で参加してるせいか、
脚力をフレームが吸収してる様に見えた。
(ちなみにいつものTonicもCXだけど僕は普通にブッち切られる。)
そんなちぎり合いの中、
一行は全員が初めて通る、という山間の登り坂へ入って行く。
狭い幅員、苔むすアスファルト。
樹々の葉の隙間を降りてくる陽光。
気がつくと先行していた。
タイヤの転がる音と、自分の息遣いしか
聞こえてこない。
空が近づいて、気持ちよくてニヤニヤしてくる。
でも、
思ったより坂は長く、
だんだん辛くなってきたが、
何となく脚を緩めるのは
申し訳ない気がした。
何に対して、と言うと、
なんだろう、山に、坂に、だろうか。
とにかく不思議な感覚だ。
頂上で皆と合流すると、
速かったよ、と褒められ有頂天。
良い気分で下りに入ると、
またこちら側の斜面の景色も美しく、
林がパッと開けた瞬間、
山腹の田園風景。
青い稲が跳ね返す陽光に、
皆口々に、わぁ!、気持ちいー!と感嘆の声を上げてしまう。
そう、綺麗なんじゃなく、気持ち良い。
景色を、見る、のでなく、全身で感じる事が出来るのは、
コレもまた自転車の醍醐味か。
復路に入り、
ここと言う登りで、
ヤギさんが仕掛けてきた。
弾丸の様に飛び出すアタックに、
テースケさんと共に反応し、
後を追う。
テースケさんが少し緩めた、
気がした。
今が踏み時だと判断し、
一気に行く。
いやらしい闘争心が、
心中でイヒヒと笑い、
その声が聞こえぬ様、ヤギさんを抜く。
だからこそ、
ここで油断して抜き返されるのはいかにもカッコ悪い。
僕は犬が餌を待つように、
ハッハハッハと息を切らしながら、
頂きに向かい必死でペダルを踏んだ。
よし、大丈夫だろう、と左後ろを振り返えった瞬間、
シルバーのフレームが、右脇を抜ける。
そのテースケさんの横顔は、少し笑ってる様にも見えた。
しまった。
と思うまでもなく、下りは速すぎる。
オカモト君が後を追い、二人は瞬く間に見えなくなる。
オカモト君はC3でしのぎを削りあったとは思えない速さだ。
直後、
アヤちゃんにも抜かれる。
下りはセンス。
体力差が出にくい下りで、
あっと言うまにCL1のアヤちゃんに千切られる。
女性らしい雰囲気で、
ロングヘアの美しい彼女が、
グレーチングをホイっとバニーホップしてスッと走り去って行く。
なるほど、男女共に人気ありそうなタイプだ…。
もたもた下っていると、
岡さんから「外足の加重が出来てないかも」と指摘を受け、
えっ、意識してたんだけど、
と心中言い訳しながら岡さんのお手本を見せられて、
あ。
と、なる。
出来てるツモリと出来てるのでは雲泥の差で、恥ずかしいやら嬉しいやら。
「後は目線ですね。参考になればいいですが。」
むしろ勉強にしかならないのに、
こう言うスマートさに本当に憧れてしまう。
そんなこんなで午前中に
サクっとライドを終え、
解散。
午後から僕は
横浜在住の姉夫婦の来阪に備えて
段取りしてたのだけど、
晩飯はせっかくなので
お好み焼きの出前をとった。
そして、
合わせるワインは「OKO-WINE」。
お好み焼き用に開発されただけあって、
酸味を抑えつつソースの風味を引き出す。
しいて言うなら、
縁日で、偶然好きな子の浴衣姿を見てしまったかの様な、キュンとした切なさ。
そして、心に残る重さ。
これは美味い(笑)。
最高のライドの後の、
充実した時間。
きっと共に走った6人が6人、
最初に唇に触れたアルコールは、
同じ様に最高だったんじゃないか。
それは酔いの回る頭の中で、
勝手に確信へと変わるのだ。
外はまだ明るい。
仕事も想定外に早く終わったとはいえ、
日の長さに夏がジワリと近づいてると感じる。
明日は休み。
家人も帰りが遅いというし、
少し遠回りして帰る事にした。
サイクリングロードを独り走るだけで、
仕事のモヤモヤから遠ざかる気がして、
峠道に入ると、そんな気なかったのに、
時折見下ろせる夕暮れの街が綺麗で、
気が付くと喉がヒューヒュー言うほど踏み込んでしまった。
帰宅してログを確認すると、
峠で自己新記録。シャワー浴びて、
スグにワインを買いに出る。
喉ごしの良い白ワインが飲みたくて、
Jacob's creekのソービニョンブラン
を選んだ。
繊細な味わいは、惣菜に、
例えば高野豆腐や椎茸の煮物等、
出汁の風味をぐっと引き立てる反面、
濃い味付けの物とやると
すぐ味がボケてしまうのだけど、
とはいえ、
和風出汁に柑橘の爽やかな香りはいかにも気持ち良く、
初夏の夕暮れを想起させた。
その翌朝、
五時起きで神戸を目指し、
またペダルを回す。
久しぶりにヨッシャンと六甲を走ろう、
と言う事になったのだけれど、
ヨッシャンは数ヶ月まともに自転車に乗れてなくて、コンポを総入れ替えしたロードバイクも、
ようやくシェイクダウン出来る、といった感じ。
SRAMの無線電動シフターに、
ROTORの楕円チェーンリングと、
ずいぶん物々しい仕様になったヨッシャンのKINFOLK。
オーソドックスな彼のスチールフレームに最新コンポは見慣れないカッコ良さがある。
早々に峠に入り、
楕円チェーンリングを気持ち良さそうに踏んで、
ない。
さすがにシンドそうで、
やはり自転車ってのは乗ってないとすぐキツくなってしまう。ハイエンドバイクでもエントリーグレードでも、それは変わらないんだろう。
とはいえ、
共に走る。
最近そこそこ乗ってる自分は勝手に先行してはまた戻って、彼と並走。
世間話しをしながら、
はあはあ言ってペダルを踏む。
山頂の展望台に着き、
ヨッシャンが「モッツさん下りもまあまあ慣れてきましたね」と言ってくれて、下りは苦手意識があったので嬉しかった。
「今日はスッキリ遠くまで見えるなー!」と、パノラマを満喫。
峠から見える景色は、毎回、
同じ様で違う。
もちろん実際に違うのだろうけど、
そこまで到達する過程と、
誰と登るかで、見え方は変わる。
どうする?コーヒーでも飲んで帰る?
そこからコーヒースタンドまでの距離は20km。
結構あるな、と少し考えてしまったが、
とりあえず再び走り出す。
もう脚もずいぶん疲れてきたな、
と思うと、
「あと何キロっすか…?」
ヨッシャンも絶え絶えに聞いてくる。
何言ってんの、まだ2キロくらいしか走ってないよ、と笑うとヨッシャン、
「よし、やーめた。」
と笑って、次の分岐点で爽やかに帰って行った。
彼らしい割り切りの良さに苦笑して、
またな、と別れる。
誰かと走るってのは、
やっぱり楽しいモンだ。
そこにはログには残らない楽しさと、
充実がある。
誰かと走る、誰と走るのか。
それはとても重要で、
たぶん、
自己新記録なんかよりも、
大切な事なので、
今夜もまた、
何か美味いワインを
探してしまうのだろう。
大きくモデルチェンジしたという事で買ってしまいました。
試着しただけでも、
過去のPROTEAMBIBを
アップデートしたというより、
同じ名を冠しただけの
完全な別物といった印象です。
例えば裾のグリッパーが広くなった、
というのも(左が2)
構造そのものが変わっていて、
ショーツに直接プリントされてる為、
それ自体がビタっと張り付く感じ。
このフィット感はたまりません。
この様な素晴らしい機能等は、RAPHAのWEBサイトや雑誌のレポートを読んで頂くとして、
個人的使用感について書いておきます。
まず男性の股間にはおおよそ二つの物体がぶら下がってまして、
友人の言葉を借りると、
「カッコいい方」と「カッコ悪い方」
に二分されます。
確かに、
カッコいい方は大きいほど皆自慢気なのでやはり格好良いのでしょうし、
カッコ悪い方は大きいと酒屋の狸ぽく、どこか間抜けな印象で、
これは言い得て妙だな、と思いますし、
いったい僕は何を言ってるんでしょう。
とにかく、
カッコ良い方は海綿体なので圧力に強くある程度の力で握っても平気。
故に、適当に野放しにしておいて問題ないのですが、
ある程度の力で握る、
と聞くだけで震え上がるのが
カッコ悪い方ですよね。
で、
このカッコ悪い方の位置が悪いと、
太ももあたりでゴリゴリして大変不快です。僕の場合は特にダンシング(立ち漕ぎ)してる時ですね…。
コレはパッドの形状やライクラの素材感で変わってくると思うのですが、
今回のPROTEAM BIB2に関して言えば
なんと、
ビブのサイズに合わせてパッドの厚みも変わっているという事で、
そのお陰でしょうか。
非常に収まり良く快適に立ち漕ぎ出来るワケです。
僕はこの収まる辺りを脳内で
ゴールデンボールポケット
と呼んでいて、
このGBPの快適性で言うと、
クラシック<プロチーム1≦プロチームライトウェイト<プロチーム2
という感じでしょうか。
これは個人のサイズによって変わってくる所だと思うのであくまで僕個人の場合ですが。
そんなワケで、
とにかくこの新しいビブのフィット感は自転車用に進化した人の皮膚、と言って過言でない上、
上手い具合にカッコ悪い方を包み込んでくれます。
今まで通り履きたくなるデザインに加え、これほどの機能。
オトナの自転車乗りやゴリゴリ感に悩む人には必須のビブなのではないかと思います。
京セラドーム周辺。
自転車に息子を乗せて、
要塞の一翼を担うAEONにやって来た。
連休初日と言う事で、
大変な人熱の中、駐輪場が満車状態。
パパ、あそこ空いたよ!と言う声に振り返ると、すぐにオバちゃんが自転車を滑りこませる。
ツイてないな。と、
結局15分ほど駐輪場をウロついて、
ようやく入店。
しかし、お目当の
娘のファーストシューズは未入荷。
まったくツイてない。
きっと父さん、午前中に
今日の運使いきっちゃったのかもね。
−−−−−
その日の朝のライドは少し寝坊して
始まった。
昼までに帰る為、昔通ってた通勤経路から舞洲へ行く、50km程のコースを選択。
レジャー施設等が並ぶ舞洲は、
景色が良く開放的な雰囲気で、
周回練習に休日気分をもたらしてくれる。
河川の堤防からアクセスすれば、少し遠回りだけどさらに気持ち良いルート。
昔の通勤経路を懐かしみながら走り、
堤防に到着、舞洲へはココで左だけれど、
真っ直ぐ橋を渡ると、
以前の勤務先。
この橋に、
STRAVAのセグメントが在る。
橋の入り口信号から出口信号までの、
600m。
勾配は緩いが、
橋なので風の影響も強く受け、
幹線道路なので交通量も多く、
信号のタイミングで
簡単 にアタックは殺される。
結局回数を重ねる程
環境が成績に大きく貢献するので、
当時、毎日通勤してた僕は
この橋で(遅刻ギリギリで)
KOMを獲れたワケだ。
しかしSTRAVAのユーザーも増え、
それも今は昔。
気が付けばもう10位あたりだろう。
KOMにそれ程
拘ってたワケじゃないし、
だいたいタイムトライアルは
無酸素運動で身体にも悪い気がする。
今から周回練習に行くのに
脚を使い切るのも違うと思うし。
でも顔を上げると、
信号は「青」。
連休初日で交通量も少なく、
風は凪いでる。
僕は、
反射的に
ペダルを踏み込んでしまった。
回り出したペダルに反して、
気持ちはまだ迷ってる。
でも、
スタートラインまで緩い登り。
ここで加速しないと
タイムは期待できない事を知っていた。
…ああもう、行くか。
下ハンに握り変え、
サドルから尻をガバッと上げる。
ギアは9速、加速して、
僕はスタートラインを切った。
ほとんど交通量はない。
脚が軽い。
イケるかも知れない。
そんな予感は僕の背中を押す。
が、橋の頂点に差し掛かる頃、
もう肺が痛くなってきて、
突風が真横から吹き付ける。
それでも、
シフトレバーを押し込み、
トップギアへ。
「ガチ、ガチン」
ん?二速上がった?
どうやら9速と思ってたのは
8速だったらしい。
軽かったのはコレか…
二速アップで下り始め、
速度計に視線を落としたが、
サングラスに巻き込む風のせいか、
辛くて泣けてきたのか、
溢れた涙でよく見えない。
うっかりギャップを拾ってしまい、
振動でチェーンが、
シャンっと9速に落ちてしまう。
自分の整備の甘さに舌打ちしながら、
すぐ10速へ押し戻し、
メーターは、たぶん50kmには達してる。
顔を上げ、
ゴール付近の車両や人を確認。
ここで信号が赤なら、
当然ブレーキを掛ける事になり、
アタックは終了だ。
が、
車も人影も無く、
信号は「青」。
…ツイてる…
息も絶え絶えに
(ここで踏まなきゃ)後悔するぞ!
と自分を叱咤、
もう一つ、踏み込む。
すると、
クロモリハイエンドの
ギガチューブは、
しなう様にして、
ぐい、と前に推し出てくれる。
公道である事に配慮して、
ブレーキレバーに指を掛けつつ、
僕はゴールラインの青信号を突っ切った。
あっという間に到達した、という感触が、
心拍が落ち着いた頃、手応えに変わる。
その後予定のコースを巡り、
ライドの終わりに、
いつものコーヒースタンドに立ち寄る。
舐める様にログを見る僕は、
誰から見ても気持ち悪いな、
と自嘲する。
結果は2位。
KOMから2秒差。
ウワーッ!と叫びたい気持ちにコーヒーを注ぎ込んで落ち着かせ、
600mの2秒差は圧倒的だと気付き、
まてよ、って事は、
3秒近く過去の自分を引き離した事は喜んでいいんじゃないか。
その理由はきっと、
でも、
コイツだろうな。
昨日ワックスを掛けたばかりの、
ライジン製 KINFOLK ROADRACERが、
木漏れ日を跳ね返していた。
店を出て、
ガードレールにもたれるバイクに手をかけようとすると、
「いつも寄って頂いてありがとうございます」と、
店員の女性がワザワザ出てきて声を掛けてくれる。
綺麗な自転車ですね、と言われ、
なんだか照れ臭くて、
いやあまあ、
と早々に立ち去った。
−−−−−
夕暮れ、
3件目でやっとムスメの靴を発見出来た。
息子には食玩を買ってやり、
自分には何か酒を…
「今日パパ頑張ったからコレでいーよー」と息子が突然ワインを選んでくれた。偶然にもDOCG。ええやん。
まぁ、ログ眺めながら、
たまには良い酒で酔うのもいい。
ありがとうな、
と手に取って、僕らはレジへ向かった。
もちろん、
ワインの値段は
妻には言えないのだけれど。
STRAVAは、
言ってみれば拡張現実、
ポケモンと同じ。
そんなモンの為に事故したりケガするのは余りにも馬鹿馬鹿しいと思う。
でも、
無事に帰ってくる事を前提として、
少しばかり「ムキになる」ってのは、
案外悪くないのではないだろうか。